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終末のアラカルト  作者: 大地凛
第五章・強欲編
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鳥人の矜持

「急げーッ!! 早く入れーッ!!」


「もたもたしてると、あいつらに追いつかれるぞ!!」


「ほら、大丈夫っすか? とにかく急ぐっすよ!!」


「おーい、まだあっちに人が残ってるぞーっ!!」


 王城の門の前には、災禍から逃げてきた人々がごった返していた。詰めていた騎士団員たちはほとんどが駆り出されて、その混乱を鎮めるために声を張り上げる。老若男女、人、人以外、貴賤も何も関係なく、助かりたいという思いだけで、一つしかない入口を目指す。


 一方、敢えてその黄金の奔流に身を躍らせようとする者たちも、僅かであるが、いた。例えば、よく手入れされた刀を携え、ゆっくりと王都の大通りに歩み出たヒカルのように。


「ヒカル様ぁ、に、逃げた方がよろしいですハイ……」


「いや、俺は裁き人の作り出す金に耐性がある、数少ない人間。だから行かなきゃ……。トゥラッシさんは、王宮に逃げていてください。……アテナも王立病院にいるはずですから、なるべく側にいてあげてください」


「うぅう、そういう訳にも、えぇ、いきませんですハイ」


 ヒカルが振り返ると、鳥人は震えを必死にこらえながら、それでも決然として言い切った。


「……ご主人様からは、お、仰せつかっておりますです、ハイ。ヒカル様が王都にいる時には、何としても、お、お側でお守りせよ、と」


 取り出した、埃をかぶったような杖を、トゥラッシは慎重に振って見せた、が、握りが甘かったのか、それとも汗で滑ったのかは分からないが、杖はスポリと羽を離れ、壁に当たってしまった。先端が、乾いた音を立てて、少し欠けた。


「あぁあぁぁ、縁起の悪いことですねぇ……」


 こうなっては、魔法の攻撃を仕掛けようにも、狙いが定まらない。場合によっては、味方を援護するはずの魔法が、味方に当たってしまうかもしれない。


「……とにかく、王宮に行ってください。俺は、大丈夫なはずですから」


 ヒカルにそう言われては、最早反論することもできない。トゥラッシは何かをいいたげにもごもごと口を動かしてはいたが、やがて覚悟を決めたのか、跪いてヒカルと目を合わせた。


「それでは、えぇ、ご武運を……」


「ありがとうございます」


 燕尾服の襟を正したトゥラッシは、そう言いながらも、心残りを確かめるように、何度もその場で振り向いたが、ヒカルが微動だにしないので、終に諦めて王宮の方へ走り出した。その様子を見届け、ヒカルは改めて、遠く大通りをこちらへ向かってくる群集を睨んだ。



 何か意味をなす言葉ではない、雄叫びと、そう形容するのが最も適当である。しかし、数千の人間、もとい、人間だったものの上げる轟音には、確かな意志が込められていた。敵意、害意とは異なる、明確な正義心、つまりは裁きの矜持である。彼らが行進と共にまき散らす黄金の雨粒は、王都を縦横にはい回り、宿主を見つけては潜り込む。そうしてその数は、段々と増えていく。言葉にすればそれだけなのだが、誰かの()()()()が、その度に消えていくのである。白昼堂々の苦しみのパレードである。


「……非道いな」


 扉を開けて、列に加わる人間たちを見ながら、ヒカルは唇を噛んだ。恐ろしいことは二つ。一つに、もう黄金に取り込まれた人間が、元通りになる保証はない。ソフィは黄金を体に取り込んだ結果、体の構造そのものを変化させられたのだ。ともすれば、体を黄金に置換されたあの群集は、もう元には戻れないと考えた方がよい。この時点で、数千人の犠牲だ。


 そしてもう一つに、これ程の災害、天災であるのにも関わらず、裁き人の直接の干渉ではない。あの禍々しい気配の片鱗こそあれ、本来の吹き溜まりのような心地の悪さはない。つまり、あの恐怖の行列は、裁き人が持つ狂暴性の一端でしかないのだ。


 しかし、希望はある。これ程多くの人間が黄金に浸食されるということは、未だかつてなかったはずだ。アーレンツ辺境伯領においても、金自体は大量に生み出されていたものの、それが動き出し、仲間を増やすということはなかった。ともすればこれは、近くに裁き人がいて、金を自らの職能で操っているということに他ならないのではないか。


 そして、裁き人を倒す。つまり、巻き違えた歯車を正せば、世界もまた、あるべき姿に巻き戻るのではないか。そういった筋の楽観である。


 ただし、そのためには裁き人を引きずり出さねばならない。黄金の波を切り払うという試練を、乗り越えなくてはならないということだ。


(……切れるのか、俺は)


 刀をすらりと抜き放てば、陽光を反射する白銀の煌めきが踊る。死を呼ぶ悪辣な輝きではない、暴力的なまでに救いを志向する、秩序の守り刀だ。


「いや、今更どうしようもない……。何のために俺はここまで来たんだ……」


 迷いを振り切るように、ヒカルは刀を大きく薙いだ。路傍の小石が、からりと乾いた音を立てた。


「何としても、裁き人を引きずり出して、聞かせてもらおうじゃないか……。何が目的なのか、やつらにはは、何が見えているのか……」

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