小夜曲
純白のシーツに包まれた幼女は、夜が恐ろしかった。いつも明るい彼女の家が、まるで自分の知らない場所になってしまったかのようで。
「あら、まだ起きていたの?」
何かを察知したのか、彼女の母親が様子を見に来た。しかし、暗がりの中では、いつも見ている母親の顔でさえも、雨中の石造彫刻のように不気味に映る。こんな時、寝台に横たわる幼女は、母親の母親たる証明を求めることを常としていた。
「お母様、眠れないの。ご本を読んでほしいの……」
母親は、眉尻を下げて困ったような声で、あらあら、と呟いた。この反応、やはり母親に間違いないようだ。幼女は胸を撫で下ろした。
母親は、書架から一冊の本を取り出した。何でも、家に伝わる昔話の写本だそうだが、幼女にはよく分からなかった。ただ、表紙の天使の目が、黒く見開かれている印象が強かった。母親は、その天使を可愛いと評していたが、幼女はそうは思わなかった。
むかしむかし、あるところに、善い神様がいました。善い神様は、人間や動物たちを見守って、みんなが楽しく暮らしていました。
ところが、善い神様は寝坊助だったので、みんなをずっと見ていることはできませんでした。次第に人間たちは、善い神様の目を盗んで、悪さばかりをするようになりました。
善い神様は困りました。神様はみんなが大好きでしたが、人々は神様が寝坊助なのをいいことに、弱い者いじめをしたり、盗んだり、悪いことをたくさんしたのです。
そこに天使さんがやってきました。天使さんもみんなのことが大好きでしたが、悪いことを嫌う善い心が人一倍強かったので、神様に内緒で、人間たちを懲らしめることにしました――。
「……あら?」
母親は、いつの間にか娘が寝息を立てていることに気づいた。眠くなるような、柔らかい声だとよく言われるが、十頁も読み上げない内に眠ってしまうとは。そっと娘の頭を撫でた彼女は、本を書架に戻した。




