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妖怪道中甘味茶屋  作者: 梨本箔李
第四章 青嵐
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89 削り氷になにかける?

登場妖怪紹介


『冬将軍』

夏の間だけ《カフェまよい》の冷凍庫に棲まう氷雪妖怪。

体長三十センチほどの雪と氷でできた鎧を着た五月人形のような姿をしている。

本格的な冬の寒さの訪れを運ぶ妖怪なので、強い冷気を操る。

冬将軍のおかげで、夏でも冷凍庫で氷を作ることが可能。

酒好きだが、あまり強くない。

週にお猪口一杯の酒で働いている。



妖異界にただひとつ、人間の店主が営む茶屋 《カフェまよい》。

閉店後は、片付けの後、皆で賄いを食べて解散という流れだが、時折、全員で小会議のようなことが行われる。

そして、議題は大抵、新メニューについて、である。



「マヨイどの。なんなんだ、それは?」


真宵が重そうに母屋から持ってきた物体を見て、従業員兼料理人見習いの右近が尋ねた。

それは、真宵の上半身ほどもあるおおきな金属の道具で、横に大きなハンドルがついていた。

右近にはなんにつかうのか、どんなカラクリがあるのか、まったく予想がつかなかった。


「ふふ。これね、『カキ氷』つくるやつなんですよ。」


真宵が持ち込んだのは、昔ながらの手動のカキ氷機であった。

暑い日本の夏といえばカキ氷。

そう思った真宵は以前から考えていたのだが、電気を使った機械は妖異界には持ち込むことができず、また、小さな家庭用のカキ氷機では、お店で使うのは間に合わないので、苦慮していたのだ。

さらに、予想外だったのはその値段。

業務用のカキ氷機の値段など気にしたこともなかったので、甘く見ていたら、これがけっこういい値段をしていたのだ。

電動のカキ氷機など十万円近いものもあり、手動のものでもその半分くらいの値段はする。

もともと電動のものは妖異界には持ち込めないので対象外なのだが、手動のものでも、手が出ない値段ではないが、どれだけ利益が出るかもわからないのに、ポンと気前よく出せるかというと悩む。そんな値段だ。

しかし、捨てる神あれば拾う神あり。棚からぼた餅。瓢箪からコマ。

まさかのところから幸運は舞い降りた。

地元で小さな商店を営んでいる方から、中古でよければ安く譲ってくれるという話が舞い込んできたのである。

なんでも、地元の子供たち相手にカキ氷を売ったり、祭りで夜店を出したりしていたのだが、年をとってハンドルをまわすのが辛くなってきたので、思い切って電動のものに買い換えたらしい。

使わなくなって納屋でほこりをかぶっているので、欲しければ安く譲ると言うのだ。

もちろん、一にも二もなく飛びついた。

多少年季ははいっているものの、きちんとメンテナンスすれば、まだまだ現役で使える道具だ。


「カキゴオリ? 氷を食うのか?」

右近は首をかしげた。


「右近さん、カキ氷を知らないんですか?」


人間界と妖異界のギャップはいまさらだったが、カキ氷がなにかくらいは普通に伝わると思っていたのだが・・・。


「オレも知らないゾ。」


小豆あらいも首を振った。

どうやら、妖異界ではかき氷は知られていない言葉であるらしい。

ただひとり、座敷わらしだけは少しだけ思い当たるらしい。


「たぶん、『削り氷』のことであろう。昔、貴族やら大商人やらが、夏の贅沢として、遠国からわざわざ氷を運ばせて食しておった。」


さすがに年の功というところだろうか?

見た目は幼女でも、このなかでは最年長の座敷わらしである。

真宵は学生時代の古典の授業できいた話を思い出した。

そう言えば、平安時代の貴族が削った氷に甘葛の根の汁をかけて食べていたという和歌だか書物だかが残っていたはずだ。

数学の公式やら、物理の計算なんかはきれいに忘れているのに、好きだった古典や歴史の四方山話は意外といまでも覚えていたりする。人間とは不思議な生き物だ。


「そうそう。それの現代版ってところね。ここに氷をセットして、ハンドルを回すと下に削った氷が落ちるようになっているのよ。」


しかし、右近も小豆あらいもいまいちよくわかっていない顔だ。だいぶ慣れてきたとはいえ、本当はハンドルやらセットなどの外来語や和製英語も真宵と話すまでは、ほとんど知らなかったのだ。


「じゃあ、実際にやってみるわね。」


百聞は一見に如かず。

説明するよりやってみたほうがはやいというのが、真宵が妖異界で学んだことのひとつだ。

最近、新しく設置された冷凍庫を開ける。


「あ。ちゃんと氷になっているわ。『冬将軍』さんご苦労様。『つらら鬼』ちゃんもね。」


冷凍庫に棲んでいる妖怪たちに挨拶する。

今朝、カキ氷機にちょうどいい大きさの氷を作ってもらえるようにお願いしていたのだ。

真宵は冷凍庫から氷を取り出そうとして、力をこめる。

しかし、重い。しかも、冷たい。

氷の塊は、真宵の予想よりかなり重かったようだ。


「重そうだな。代わろう。」


すかさず右近が手を差し伸べた。

普段は無表情で、デリカシーがあるほうとは言えないが、こういったところはきちんと配慮できるのが右近である。


「あ、ありがとう。それじゃあ、その氷の表面を少し水で洗って、カキ氷機においてもらえる? 濡れるとすべるから気をつけてね。」


無事、カキ氷機に氷の塊が設置されると、いよいよ本番だ。


「じゃあ、いくわよ。」


真宵はおおきなハンドルを力いっぱい回す。

空のときは間単に回ったハンドルも、おおきな氷を回そうとすると、かなりの力が必要だった。


(けっこう、きついわね。これ。)

真宵が顔を真っ赤にしながら、なんとか回していくと、下から削られた氷がガラスの器へと落ちていった。


「オオ! 氷が雪みたいになったゾ!」


小豆あらいがはしゃいだ。

右近も座敷わらしも興味深く、氷が落ちていく様子を見ていた。


「マヨイ! オレやりたい! ソレやりたいゾ!」

小豆あらいがせがんだ。


「え? いいけど、けっこう大変よ、これ。」


「ダイジョウブ! やれるゾ!」


小豆あらいはおおきなギョロ目を輝かせた。

こういうのは基本的に子供はやりたがるものだ。

テーブルに置かれたカキ氷機は、小豆あらいには大きすぎたので、台座を持ってきて、その上に乗ってハンドルをまわした。


「あ、いい感じよ。 とりあえず、器に半分くらいでね。人数分お願い。」


四つのガラスの器に半分ほどの、カキ氷ができあがった。


「それで、マヨイどの。この氷を食べるのか?」


「ええ。そのままじゃ味がしないから蜜をかけてね。 実はもう作ってあるのよ。」


真宵は冷蔵庫から器に入った液体をふたつ取り出した。

片方には茶色の、もう片方には濃緑色の液体がはいっている。


「味を見て、感想を聞かせてね。」


そう言いながら、皆の器に茶色い蜜をかけてまわる。

さらに、その上にきな粉をかけた。


「はい。どうぞ。『黒蜜きな粉のカキ氷』です。」


試作品なのでサイズは小さいが、新作メニューだ。

黒蜜ときな粉のとりあわせは『ところてん』でもつかっている。

『黒糖饅頭』でもつかわれる沖縄産の黒糖で作った蜜ときな粉の相性は抜群だ。

カキ氷といえばイチゴやメロンといったあの原色のシロップをかけたものが定番だが、なんとなく妖異界にあわないのと、お店で買ってきたものをそのままかけただけというのは物足りない。

やはり、お金を頂くからには、なにかひと手間かけたい。

こういうところは、なんでも自分で作れるものは作ってしまう祖母の影響かもしれない。


「どうですか?」


三人ともカキ氷は初めてということで、最初は躊躇したものの、一口目の匙を口に運んだあとは、夢中で食べている。


「「「ウマイ!」」」


三人は同時に言った。


「ただの氷がこんなにふわふわになるんだな。ほんとに雪みたいだ。」


「氷に黒蜜をかけるだけで、こんなにうまくなるのか。きな粉の香ばしさも一緒に食べると面白いぞ。おはぎとはまた違ううまさがある。」


「うまいゾ!」


「ふむふむ。結構、好評ね。じゃあ、次のいくわね。」


とりあえず、好評で一安心だ。

夏場だけの季節メニューの予定だし、特別に材料を用意しなくてもいいのはありがたい。

『黒蜜きな粉』いいかもしれない。


再び、全員に氷を削ると今度は濃緑色の蜜をかける。


「これって、抹茶だよな?」

右近が匂いで気づいた。


「ええ。抹茶に砂糖で蜜にしているんですよ。」


さらに、おはぎでつかうつぶあんをスプーンですくうと、上に乗せる。

いわゆる『抹茶金時』だ。

『宇治金時』のほうがメジャーな呼び名かもしれないが、使用している抹茶は宇治産ではないので、やはり『抹茶金時』と呼ぶべきだろう。


「抹茶が甘いのは不思議な感覚だがうまい。餡子と抹茶もよくあうしな。」


「うまいゾ!」


右近と小豆あらいには好評だ。

しかし、座敷わらしだけが、なにやら考えている。


「どう?座敷わらしちゃん。口にあわない?」


「いや。これでもうまいと思うが、わしはもう少し抹茶の蜜が甘さ控えめのほうがいいと思う。」


「あ、やっぱり? 私もそう思ってたのよ。抹茶蜜だけなら、これくらいでいいと思うんだけど、餡子を入れるなら、もうちょっと甘さ控えたほうが、バランスいいと思うのよね。」


右近は、そう聞いて、もう一度、味を確かめた。

言われてみると、そんな気がしてくる。


「・・・そういうものなのか。奥が深いなカキ氷というのは・・。」


「そ、そんな深刻にとらえなくていいのよ、右近さん。好みの問題もあるし。」


あいかわらず、なんでも真面目にとらえすぎるところがある。

仕事熱心なのはいいことだが、こういった味の問題は正解があるわけではない。

もしかしたら、右近の意見のほうが客の好みに近い場合だってあるのだ。


「それで、このふたつのどちらかをメニューにするのか?」

座敷わらしが尋ねた。


「ううん。両方ともよ。蜜はあとでかけるだけだし、お客さんの好みで選んでもらおうと思って。『ところてん』の黒蜜と酢醤油みたいにね。」


「なるほどな。」


「それに、あともう一種類つくるつもりなの。」


「それは試食しないのか?」


「うーん。ちょっと事情があってね。もうちょっと時間がかかるのよ。『かき氷』は来週からメニューにのせるつもりだから、それには間に合うと思うわ。」


なにやら謎かけのようなことを言い出す真宵に、右近や座敷わらしは色々尋ねたが、それ以上は何も教えてはくれなかった。

どうやら、もうちょっと秘密にしておきたいらしい。


「よし、とりあえず、今日はここまでね。抹茶蜜はもうちょっと味を調整してみるわ。みんな、お疲れ様。参考になったわ。」


試食会を終わりにしようとしたが、なにやら右近と小豆あらいが言いたそうにしている。


「オレ、かき氷もっと食いたいゾ!」


小豆あらいが飛び跳ねた。

どうやらかなり気に入ったらしい。


「え? そりゃあ、氷も蜜も余っているから好きなだけ食べてもいいけど・・・。冷たいもの食べ過ぎるとお腹壊すわよ。」


「ヘイキダ! まだ食えるゾ!」

小豆あらいはよろこんで、カキ氷機に飛びついた。

うれしそうにハンドルをまわす。


「なら、俺ももう少しもらう。なかなか興味深い料理だからな。」

右近も、まだ食べたりないようだ。


「わしはもうじゅうぶんじゃ。うまかったぞ、マヨイ。」

座敷わらしは、自分の分の器を洗い場に持っていく。


「それじゃあ、先に片付けしてるから、好きなだけ食べて。でも、ほんとに食べ過ぎてお腹壊さないでね。」


「わかったゾ。」

「肝に銘じる。」


カキ氷に夢中のふたりをおいて、真宵は先に片付けはじめた。





「ぐ、ぐおぉぉぉおぉ。」


いきなり厨房に、右近の声が響いた。


「え?なに? どうかしたんですか右近さん。」


座敷わらしとふたりで洗い物をしていた真宵は驚いて、振り返った。


「あ、あたまが・・・。」


「え?」


「あたまが締め付けられるように・・・。なんだ、これは? 呪詛か?」


右近が苦悶の表情で、両手で頭を抱えている。


「ナンダ、右近。いきなり、へんだゾ!」

小豆あらいが笑った。


「ンン? ナンダ? オレも痛いゾ! ナンデダ?」

小豆あらいも右近と同じように、頭を抱えてうずくまる。


「・・・・・・。」


その理由は、真宵には見当がついていた。


「カキ氷みたいな冷たいものを一気にたくさん食べたら、そうなるに決まっているでしょう?」

真宵は呆れて言った。


「な、なぜだ? なにか理由があるのか?」


「え?なぜって・・・。」


そう言われると、どう説明していいかわからない。

なにか医学的に原因があるのだろうが、真宵はよく知らない。


「とにかく、一度に冷たいものを食べるとそうなるんですよ。知りませんでした?」


「妖怪は冷たいものなど、食べる機会がほとんどないからのう。」

座敷わらしが小さく笑った。


「・・・もしかして、座敷わらしちゃんはこうなるの知ってた?」


「わしは、削り氷を食ったことがあるからの。」


つまり、以前にこの痛みを味わったことがあるのだろう。

知っていて教えないあたり、こうなることを予想して、おもしろがっていたのである。


「もう。座敷わらしちゃんたら。」

真宵は呆れる。


しかし、これは問題かもしれない。

おそらく、『かき氷』をメニューとしてのせれば、同じことが多発するのだろう。


「・・・張り紙でもして、注意するべきかしら。」


頭を抱えて悶えるふたりの妖怪を見て、真宵はそんなことを思った。





読んでいただいた方ありがとうございます。

夏に向けてのカキ氷の回でございます。


《カフェまよい》のカキ氷は三種。

『黒蜜きな粉』『抹茶金時』とあと一種予定しております。

さて、なんでしょう?

お暇な方は考えてみてくださいませ。

ヒントはいままでのおはなしでちょこっとだけ触れております。

回答は 92 削り氷にこれかける? で発表予定です。

正解しても、なにも特典はございませんので、ご了承ください


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