56話 タバシミチヒコとヤギどらごん
よろしくお願いします。
あんまり書かない感じなので、高頻度で修正すると思います。
空を見上げたタバシミチヒコは思わず吐きそうになった溜息を飲みこむ。
ちょうど長崎屋を出たところ。
腕時計が示す残り時間は7分。ここまでは想定以上に良い調子で来ていた。だからここから気合を入れ直す。
眼前に広がる黒色からは大きな塊が激しく地面に叩きつけられている。
マイナス寄りのイメージで頭が覆われる前に脚を動かす。自転車に跨ると同時に変速を一番重くする。
カシハラカオリにタピオカミルクティーを届けることだけを考える。
制服は大量の水分を含み重量を増す。持ちうる体力を注ぎ全力で校舎へと向かう。敷地内で自転車を乗り捨てて、ラストスパートに走り出した時に視界が大きく揺れた。右膝に冷たい感触。カシハラカオリさんが飲むはずのタピオカミルクティーは袋を開けずとも、容器が潰れて中身がほとんど溢れていたのがわかった。
立てなかった。両膝がまるで地面にくっついたよう。流れる汗は熱く、上から降り注ぐ粒は心を冷ます。
今にも涙が零れ落ちそうな姿を誰にも見られていないことはタバシミチヒコにとって幸いだった。ふと気づくとタピオカミルクティーだったものは消えていた。これは夢ではない。タピオカミルクティーを時間内に買ってくる約束は確かにしたはずだった。それでもこの場から消えていた。
左手首の時計からアラームが鳴り、タバシミチヒコはタイムアップを知る。
想い人に会う気分はまるでなく、校舎を避け、離れの記念館に入って雨宿りをする。中まで入るのは気が引けたのでローファーを脱がず、玄関口で腰をおろすだけにした。
ふと気づくとすぐ横に見覚えのある容器があった。その中には黒いタピオカと透明な飲み物がなみなみ注がれている。
角の生えた妖精がいて、その飲み物を自分に渡す。
妖精の視線のもと、添えられたストローに口をつけて飲む。覚えのある味、疑いようがないほどに水道の水だった。タピオカ水道水だった。
妖精の好意でもらったタピオカ水道水は喉を通り辛い。鼻水が垂れて息がし辛く、視界までもぼやけてしまった。
重い袖で顔を拭うと、目の前にはカシハラカオリさんがいた。
「天気悪くなると思ってなくて本当にごめん。タピオカの話も冗談のつもりだったけどまさか行くなんて、、、」
「うるせー、可愛くて優しくて、他人の気持ちを汲めるお前なんて嫌いだーー。これが俺の答えだよ!!」
歪んだ容器のタピオカ水道水を受け取って、なぜか彼女は微笑む。
「タピオカドリンクって知ってる? もしかしてこれって自作?」
ずぶ濡れの男にかけられた言葉を気にした様子は彼女になく、嫌味を少しずつ含む2人の会話は続いていく。男の顔が綻ぶのも、空が晴れるのもただ時間の問題だった。
☆☆☆
これからどうなったって?
知るかー。
ありがとうございました。