閑話休題 霊界と通信 -10分 3,000万円-
よろしくお願いします
10分3,000万円。
破格の値段である。
霊界との通信にかかる金額。
そんなものを信じるなんて馬鹿らしいと思う。
自分はもう立派な大人で、死者の声を聞くことなんてできないとわかっている。
そんなものに手を出したら笑い者になる。
男は自分を引き止める理由を探していた。
しかし動き出した脚は止まらない。
重い足取りのまま目的のビルの前に着いてしまう。
金はある。
ひとりで生きるには余裕がある。
だからこれは捨ててもいい金。
男は少しだけ昔を思い出しビルの中に入った。
ビルの中では審査が行われた。
自分より2まわりは若いであろう女性スタッフと、1対1の120分にも及ぶ面談。
男は個人情報を洗いざらい持っていかれてしまった。
これが詐欺なら自分はなんといいカモであろうか。
面談後はとにかく待たされた。
ロビーのソファーに、もたれかかって男は待った。
他の客は次から次へエレベーターへ誘導されていく。
噂ではあるが、ビルの4階から、霊界と通話をするという決まりがあるようだ。
長年、待たされ慣れていた男は何時間でも我慢できた。
我慢できた、というよりこの場で昔を思い出す作業に男はただ努めた。
少年だった自分と、いつも隣にいた同い年の少女。
男はそんな昔を思い出す。
「いい? 先に死んだ方が会いに行くのよ」
古ぼけた二人の約束。
「残された方が後を追って、あの世で再開するというのは風情がないわ」
少女はそう付け加えた。
年齢のわりにませた少女。
その約束を少年は大切に持っていた。
感傷に浸る男の前に女性スタッフが現れる。
「残念ですが、○○様とは通話できません。向こうから通話の拒否があり……」
……こうなることはわかっていた気がする。
男は微笑み、そして女性に感謝の言葉を伝えてビルを後にした。
ビルを出て、近場にあるデパートへ男は歩き出す。
死者と通話できるというのは嘘じゃないとわかった。
通話を拒否されたのがその証拠。
少女の性分は亡くなった後も変わってないらしい。
彼女に言わせれば僕がやろうとしたことは「風情がない」ということだろう。
デパートで男はとびきり高いべっこう飴を買う。
他にも彼女の喜びそうなものを買い揃えた。これは今だからできる贅沢。
男は彼女に会いに行くことにした。
向かう先は僕と彼女しか知らない思い出の場所。
風情がないと言われたら、それまでだけど……
大荷物を抱えた男の足取りは軽くなっていた。
男はその日あった出来事を生涯大切にして生きた。
ありがとうございました。
ブックマークや評価してくださるとさらに励みになります。




