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28話 カシベナヨとヤギどらごん
よろしくお願いします。
夕暮れの境内。
今日はヤギどらごんの羽を触ることができた。シンプルな形の真っ赤な羽。ほんの少しだけザラザラする表面の感触。まるでフェルト生地みたいだなとカシベナヨは思った。ヤギどらごんは真剣な表情で棒付きアイスに夢中だ。アイスがなくなるまでは触り続けられる。ずっと触っていたい。
幸せな一時はまるで一瞬のよう。
あっという間にヤギどらごんはアイスを食べ終わってしまった。アイスの棒まで、ぱくんと飲み込んでしまう。アイスは1日一本というのは、お財布事情と相談し、私の決めたルールだ。
「また会おうね」
いつものように頭を撫でるも、私の手はすぐにすり抜けてしまう。すぐにヤギどらごんが見えなくなる。
いつも通りだった。
このままでは良くないことはわかっていた。視界に映る色はすぐに失せていく。また白と黒と灰色の重たい世界に戻る。
この世界で私は生きている。
ありがとうございました。