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女子会という名の飲みニケーション

 園田さんが末留さんのソロ攻略に顔を出したのは、帰りが遅く心配したからだそうだ。

 もしかしたらボス部屋で死んでいるかもしれないと思った園田さんは、私達と同じく1層から順にボス部屋を周ったそうな。


 奈々子ちゃんは後日再チャレンジする事になり、私達は修善寺ダンジョンがある梅林を後にする。


 移動中、一言も発しなかった奈々子ちゃんの様子を覗うも、特に変った様子は無く、何か深く考えごとをしているかのようだった。


 伊豆修善寺ダンジョン付近は、ホテルや旅館は少なく、予め奈々子ちゃんが予約していた旅館へとやった来た。

 前回行ったホテルより豪華なのはメンツが豪華だからだろうか。


 勿論12人全員が個室を利用し、専用の温泉までついている豪華仕様だ。

 私はその部屋に案内されるとテンションが最高潮に達し、ふかふかのベットに飛び込む。

 まだ夕方前で、夕食は18時に宴会場に集合だったので少し仮眠する事にした。



「……ん、今何時?」


 外はすっかり暗くなり、ベットに備え付けられたいる照明が部屋を照らしていた。


 スマホを操作し、時刻を確認すると、18時5分前だった。


 もうこんな時間だ、そろそろ宴会場に向かわないと……よっこらせっと。


 ベットから降り、背伸びをして髪を手櫛で整える。

 化粧は……まぁしなくてもいいや。


 宴会場に到着すると私が最後だったらしく、奈々子ちゃんが手招きをしているのが見え、隣りの席に座った。


「穂華ちゃん、随分と深く寝ていたんですね。何度か電話したんですよ?」


 時刻を確認した時に、奈々子ちゃんからの着信が数件入っていた。

 軽く寝るつもりだったのに、思ったより深く眠ってしまったらしい。


「ごめんね。少し疲れていたみたい」

「美味しい物を沢山食べて、温泉に入りましょう」

「おお〜いいね〜、入ろう入ろう」


 チラリと他の席を見渡すと、ケルビンさんと中村さんが既にお酒呑んでおり、空のビール瓶が数本空いているのが見えた。

 席も男性陣と女性陣で別れているらしく、コの字の形になっていた。


「わあ、海の幸と山の幸が勢揃いだね」


 配膳されていく料理の数々はどれも美味しそうだ。

 焼き魚に美味しそうなステーキ、煮物に様々な料理は懐石料理と呼ばれるものだろうか? 実家では食べた事がないものだ。


「いただきま〜す」


 うまっ! 米もうまっ! 何これ!?


「おかずも美味しいけど、お米美味しすぎる」

「本当に美味しいですね。以前行ったホテルの白米より美味しく感じます」


 奈々子ちゃんも美味しそうに食べている。

 ダンジョンから出て以来、何か考え事をしていたようだけど、今は何も感じられない。

 折角なので、奈々子ちゃんに日本酒をお酌してあげる。


「ありがとうございます。穂華ちゃんもどうぞ」

「ありがとう。それじゃ、お疲れ様です」

「「かんぱーい」」


 軽い気持ち口当たりに、フルーティな香りが広がり、とても飲みやすい日本酒で、私が好きなタイプだった。


「ふぅ……」


 少し頬を紅くした奈々子ちゃんは妙に色っぽい。

 私が男性ならドキッとしてしまうだろう。


「……どうかしましたか?」


 私の視線に気がついたのか、奈々子ちゃんが小首を傾げる。


「あ、ううん。えーと、今日のダンジョンアタックで6層のボスがデスボールだったから、奈々子ちゃんも1度戦った事があるのかなーって」


 咄嗟に誤魔化した。

 奈々子ちゃんに色っぽいですね、なんて同性でも恥ずかしくて言えない。


「……あれってデスボールって言うんですね。昔、アレに遭遇した事があります」

「そうなんだ。アレ凄い強いよね。私もアレに遭遇した時に死ぬかと思ったもん」


 今でも鮮明に思い出す。

 お金が無くなり、途中で知り合った男2人と初めて渋谷ダンジョンへ入ると、そこで男達に騙され、暴行を受けた時に現れたモンスターがデスボールだった。

 そのモンスターは圧倒的な強さでハンター2人を瞬殺し、私を何故か41層に連れてきた謎モンスターだ。

 後にデスボールは徘徊する者の呼ばれるモンスターの一種で、階層を跨いで移動する特殊能力を保有している事が分かっている。


 デスボールの話をしだしてから奈々子ちゃんの表情は暗い。

 デスボールに関しては私も良い思い出はない、きっと奈々子ちゃんも酷い目にあったのかもしれない。


「……私がハンターを辞めてJHA職員になった理由があのモンスターです」

「そうだったんだ……」


 この続きは聞いてはいけないような気がする。


 私と奈々子ちゃんの間に重い空気が流れると、萬田さんが間に入って来た。


「あ〜ら♡折角の宴の席なのに、何しんみりしてるのよ♡相談なら私が聞いてあげるわよ〜♡そういうの得意だし♡」


 萬田さんはゲイバーやジェンダーに配慮した店をいくつも運営している。萬田さんは性の悩みで苦しんでいる人の話を聞いて、アドバイスをしているらしい。

 その人柄か、彼の周りには沢山の人が集まっている。


「そうですね、トラウマを克服するにはどうしたら良いですか?」


 奈々子ちゃんは萬田さんにトラウマの克服について聞くと、萬田さんは優しく奈々子ちゃんの肩を抱き、優しく擦る。


「トラウマは心の傷よ。癒やすには時間も必要だし、何より乗り越える為の努力も必要なの」

「……私には時間は無いんです。努力はしているつもりなのですが、どうしても怖くて」

「無理に挑まなくてもいいのよ?」

「駄目なんです。トラウマを克服しないと……みんなに、いえ、穂華ちゃんの隣に立てない気がするんです」


 え? 私? 奈々子ちゃんは常に私の側にいてくれるし、対等な立場だと思っているけど……。


「なら穂華ちゃんと一緒に頑張ってみなさい♡穂華ちゃんなら奈々子ちゃんの力になってくれるわ♡」


 萬田さんの言うとおり、奈々子ちゃんの為ならどんな事だってする気持ちはある。

 いつも助けて貰ってばっかりだし、奈々子ちゃんの力になってあげたい。


「……穂華ちゃん。後で私の部屋に来てくれませんか?」

「うん。いいよ。なんでも話して。最後まで聞くよ」


 奈々子ちゃんはニコリと笑うと、日本酒を一気飲みする。


「いい呑みっぷりじゃない♡私も呑むわよー♡末留! 酒もってこーい♡」

「ういっす! 萬田さん!」


 せかせかと末留さんがお酒を用意すると、女性陣が集まり女子会が始まる。

 男性陣も混ざりたそうにしているが、萬田さんが目を光らせているので、中に入ってこれないようだ。


「周防院さんと柳瀬さんって結構お酒呑むんですね」

「自衛隊に入ると飲みニケーションばっかりだし、体育会系の人が多いから呑まされるのよね」

「そうそう、必然的にお酒に強くなるというか……」


 私が自衛隊に入ったら呑み潰れる事はないね、かといって酔わない女性は魅力半減だし、自衛隊員とは恋愛関係に発展しないと思う。

 ビールジョッキ片手にワイワイしている周防院さんと柳瀬さんのイメージがだいぶ変った。特に周防院さんはメディアでも度々特集されるくらいだし、2ヶ月前に写真集が出てベストセラーだったらしい。

 JDST清楚系美女で世間では通っているけど、豪快にビールを呑む彼女を知らない人が見たら驚くだろうね。

 柳瀬さんはクールなお姉さんキャラで、戦闘中は怖いくらい集中し、的確に後ろから指示を出してくれる。

 中村さんが対応が難しい時は柳瀬さんが指示をしてくれるので大変助かる。

 そんな彼女もビールジョッキ片手に枝豆を食べている。

 萬田さんの接待を受け上機嫌な彼女を見ていると、ストレスが溜まっているのか、キャラが崩壊しているように見える。


 そんな楽しい夕食が終わり、夜の21時過ぎる頃には解散し、私が泊まる部屋に戻って来た。奈々子ちゃんから部屋に来て欲しいと言われているので、少し時間を空けた後、私は奈々子ちゃんの部屋の扉をノックした。



自衛隊に入った知り合いから聞いた話だと、呑めない人は多いそうな。

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