クラスを奪う方法
帅宁宁の生い立ちは壮絶なものだった。
この現代において人身売買なんて存在していることすら信じ難いが、彼女が嘘をついているとは思えない。
彼女は弟を人質に取られ、今までやりたくもないダンジョンアタックを無理やりやらされていたのだ。そんな事があってよいのだろうか? いや、絶対にあってはならない。
帅 宁宁の話を聞いたケルビンさんが腕を組み、いつもの軽い感じではなく真面目な声のトーンで話だした。
「で、ナヴァラトナとは何なんだ? 謎の人物からクラスチェンジオーブの奪い方を教えて貰ったんだろ?」
「ケルビン、流石に教えてくれないわよ。彼女は尸よ? 弟も人質に取られているし」
「別に構わないヨ」
メアリーさんがケルビンさんを止めるが、帅 宁宁はすぐにそれを容認する。
「いいの?」
「尸の奴らにナヴァラトナや魔法少女のクラスチェンジオーブが渡ったら大変な事になるヨ。しかもあの動画のせいで私は中国に帰れなくなったからネ」
「マジカルガール襲撃事件はニュースになっていたな」
「ニュースですか? あの後何かあったんですか?」
生憎、DTubeに投稿された帅 宁宁戦の動画やその後、どうなったかは知らなかったのだ。ニュースになるくらいなら、大事になっていたと判断できるが……。
「DTubeに投稿された帅 宁宁との戦いは中国政府と日本政府、そしてIDA(国際ダンジョン管理局)を巻き込んで国際問題になった」
「え!? それって本当ですか?」
マイクさんの話に私は飛び上がるほど驚いた。
国際問題? そんなに話が大きくなったの? ルル様、もう少し気を使って動画を投稿して欲しい。
だが時は既に遅し。投稿されてしまったのは仕方がない。国際問題の行方は気になるが、中国政府は帅 宁宁をどうしたのだろうか?
マイクさんは話を続ける。
「中国政府は帅 宁宁に魔法少女ほのりんの暗殺依頼をしていないし、帅 宁宁が独断でやったことだと発表していた」
「そうだネ。私は見捨てられた。中国に戻ってもろくな目に遭わないし、弟の安否も不明ヨ」
「そんな……」
帅 宁宁が私を睨む。
「同情なんて要らないネ。欲しいのはナヴァラトナと魔法少女のクラスチェンジオーブ。それさえあれば、梦を救う事が出来るかもしれないからネ」
帅 宁宁は諦めていない。彼女の沈んだ黒い目に宿る光には、まだ力が残っている。もし、私が魔法少女だと知ったらどんな手段を使ってでもナヴァラトナや私の【魔法少女】を奪いに来るかもしれない。
彼女の決意に私は何も答えられない。
彼女や弟さんの事はとても辛い目にあって可哀想だけど、私の身の安全や周りの大切な人まで危害が及ぶのは看過できない。
1番良い解決案は帅 宁宁の弟が、無事だと確認できればよいのだが……。
「メアリーよお、確か知り合いにIDAのおえらいさんいたよな?」
唐突にケルビンさんがメアリーさんに話をふると、その言葉にハッとしたメアリーさんが、コクリと頷く。
「ケルビンにしては冴えてるわね」
「なんだよ、普段の俺ってどんなイメージだよ」
「「怠け者」」
マイクさんとメアリーさんが揃ってケルビンさんのイメージを言い当てる。
それを聞いたケルビンさんはダメージを負ったのか、頭を抱え項垂れている。ものすごい落ち込みようだけど、ケルビンさんは重要な会議も寝ていたり、普段からダルそうにしているので、怠け者と言われるの仕方がないと思う。ダンジョンに潜っている間は頼もしい【聖騎士】なのだけど。
私は少し気になる事があったので、彼女に聞くことにした。
「ねえ、帅 宁宁」
「宁宁で良いヨ」
「……宁宁、中国政府はナヴァラトナや魔法少女のクラスチェンジオーブを本当に狙っているの?」
「……」
彼女は応えない。
話を聞いていると、宁宁は謎の人物から様々な情報を得ることが出来たが、中国政府が私を狙う動機がないように思える。
少し考えたあと、宁宁は小さな口で答える。
「……中国政府からは魔法少女を中国に引き入れるか、駄目なら拉致してこいと言われているヨ」
「でしょうね。魔法少女の価値は計り知れないわ。私達もその力を目のあたりにして、アメリカ人として、いますぐにでも連れて帰りたいくらいよ」
「え!?」
私にそんな価値なんてないよ。
私は普通の女の子? だし。
「貴女も魔法少女のポーターをしているなら知っているでしょ? 彼女の強さと、強力なスキルの数々。本気も出してないみたいだし、底が見えないわ」
私の正体がバレてしまったら、私は中国やアメリカに移住しないといけないのかな? ロハスな海外生活に憧れていたけど、魔法少女として行くとロハスとは無縁な生活になってしまう。それだけは避けないと……。
マイクさんのオーラが少し強まる。【神域】を展開しているのだろうか?
「中国政府の考えも、お前の目的も分かった。肝心のナヴァラトナとは何だ? クラスチェンジオーブの取り出し方を教えろ」
マイクさんの身体から発せられた【神域】の範囲に入った宁宁は、スキルに抗う事ができないのか、ゆっくりとだが説明を始める
「ぐっ……。ナ、ナヴァラトナとは、願いを叶える宝石と言われているヨ。魔法少女の体内で生成されるらしいネ……」
「体内で? 摩訶不思議な話ね」
メアリーさんがアメリカ人らしい仕草でリアクションをとる。
「私も詳しい事は知らないけど、何でも胸から宝石が出るらしいヨ」
マイクさん達が私をチラッと見る。
私は嫌な汗でびっしょりだ。できれば早くここから逃げたいが、そんな事をしたら不審に思われるし、何よりマイクさん達の視線から何かを察した印象を受ける。今逃げても即捕まり、私も宁宁の隣でマイクさん達の尋問会が開かれてしまうだろう。
私は心の中で宁宁に対して、これ以上余計な事を言わないで! と、必死に願った。
「クラスチェンジオーブの抜き取り方は、魔法少女を殺して、空のクラスチェンジオーブを使うと奪えるヨ」
「まじかよ……」
「えええ……」
ケルビンさんは驚きを隠せないが、私もケルビンさん以上に驚いた。
まさかそんな方法でクラスチェンジオーブを抜き取れる方法があるなんて知らなかった。そもそも空のクラスチェンジオーブの存在すら知らなかったし、クラスチェンジオーブは1度の使うと消えてしまう筈だ。
空のクラスチェンジオーブとは一体どんな物なのだろうか?
「……空のクラスチェンジオーブか」
「私達も過去にいくつか手に入れた事はあったわね」
「そうだな、結局鑑定でも空のクラスチェンジオーブって事しか分からないアイテムだったからな。そいつが言ってる事が本当なら、死んだ仲間のクラスチェンジオーブは回収出来る事になるな」
なるほど。クラスチェンジオーブは貴重だ。レアクラスなら尚更貴重だ。もし味方が死亡した場合、死亡した人からクラスを回収する事が出来るのであれば、他の人に継承する事ができる。
宁宁はナヴァラトナを手に入れるか、殺して魔法少女のクラスをこうやって奪う気でいたのだろう。
……殘念だけと、弟を助ける為にそんな事までするなんて悲しい。できれば、もっと別の形で出合い、宁宁の弟を救う方法を模索していきたかったけど、彼女を放置するのも危険すぎる。今後の処遇を決めなくてはならない。
「宁宁はこれからどうなるんですか?」
私の質問にマイクさんは両腕組むと、難しそうな顔になる。
「帅 宁宁はダンジョン内でもダンジョン外でも危害を加えようとした。明確な殺意があり、ダンジョン法に基づいて裁かれるだろう」
「そうね。彼女の弟についてIDAに調査依頼もしてみるわ。もし、中国政府に脅されいたなら減刑になるだろうし、弟が保護されれば魔法少女を狙う必要もないでしょ?」
「それは! そうだネ……弟が無事なら魔法少女は狙わないヨ……」
メアリーさんの提案に宁宁は目を見開き、その後は力無く項垂れる。
謎の人物の事も気になるけど、宁宁だって好き好んでこんな事をしている訳では無い筈だ。できればその力を弱い人を守る為、貧しい人を救う為に使って欲しいと思った。
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