帅 宁宁と謎の人物
誤字脱字報告感謝♪
マイクさんが渋谷ダンジョンセンターの職員に事情を説明すると地下の施設に案内された。
渋谷のダンジョンセンターの地下には初めて行ったけど、トレーニングルームや模擬戦が出来る部屋がいくつもあった。
そのエリアとは別の何も無い部屋に通された私達は、大人しくなった帅 宁宁と一緒に入った。
帅 宁宁はパイプ椅子に座らせられると、両手を力強く握り俯いている。
先程まで私を襲おうとした少女は、年相応の可憐な少女だった。
本当にこの子がダンジョンランキング2位なの? いや、元2位か……。
帅 宁宁は中国のハンターだとは知られていたが、その素性は誰も知らなかった。ただマイクさんは帅 宁宁についてある程度情報を持っているようだ。
「中国人民解放軍特殊部隊、尸の帅 宁宁よ。お前は何故ホノカに危害を加えようとした? 目的を洗いざらい吐け」
「……」
マイクさんの問いかけに無言で答える帅 宁宁の目は、死んだように沈んでいた。
襲われた時に彼女の口から聞かされた事はナヴァラトナの事とクラスチェンジオーブを抜き取ると言った話だ。
神峰奏司や渋谷ナンバーズ。そして帅 宁宁。共通するのは私のナヴァラトナを欲している事だ。そして今回、新たに私の【魔法少女】のクラスチェンジオーブを奪おうとしてきた。実際問題、そんな事は可能なのだろうか?
私はマイクさんにクラスチェンジオーブを奪う事は可能なのか聞いてみる事にした。
「マイクさん。帅 宁宁が私にこう言ったんです。アイツからナヴァラトナを奪うかクラスチェンジオーブ抜き取るしかない、と。そしてアイツとは魔法少女の事だと思います」
帅 宁宁は私が魔法少女ほのりんのポーターだと、どこかから情報を得ている。さらにはナヴァラトナの存在だ。神峰と繋がっているのだろうか?
「ナヴァラトナについては初耳だが……クラスチェンジオーブを抜き取る事は可能だ」
「本当ですか?」
「しかし、1度使用されたクラスチェンジオーブを抜き取るにはリスクが伴うと言われている」
「言われている?」
「ああ、過去に1度クラスチェンジオーブを抜き取る実験があったらしいが、詳しい内容も結果も極秘扱いだ。一般的には1度使用されたクラスチェンジオーブは解除できないが、他のクラスチェンジオーブを使用して上書きする事は可能だ」
クラスチェンジオーブの上書きは有名だ。マイクさんも【侍】の前は他のクラスについていたはずだ。
しかし実験とは……極秘扱いって事はろくな結果にならなかったのだろう。
「中国政府が何を企んでいるか分からんが、マジカルガールの力を利用して何かをしようとしているかもしれない」
マイクさんと話していると、渋谷ダンジョンセンターの地下室にケルビンさんとメアリーさんが慌ててやって来た。
私の姿を確認すると、2人は少し驚いた表情をしたが、帅 宁宁の姿を見ると何かを察したのか緊張感を強めた。
「こいつは……」
「マイクから連絡来てまさかとは思ったけど、本当に帅なの?」
「ああ、間違い無い。マジカルガールが襲撃を受けた動画と同一人物だ」
動画と同一人物と言った時、帅 宁宁の肩がピクリと動く。
あの時に襲われた動画がDTubeに投稿されていたんだ。
以前から思っていたけど、ルル様の事だから再生数の為に動画をネットに上げたんだろうけど、個人の承諾なしに勝手に上げてもいいのだろうか? それは兎も角、帅 宁宁からどうして私を狙うか聞き出さないといけない。
「ねぇ、どうして貴方はほのりんを狙うの? そんなにナヴァラトナが欲しいの? クラスチェンジオーブを奪ってまで必要な物なの?」
私の問いかけに僅かに反応する。
もじもじした反応は年相応な印象を受けるが、見た目に騙されてはいけない。これでも元ランカー2位のアサシンだし、暗器を隠し持っている可能性すらある。
万全を期すなら最大限に警戒に越したことはない。
「……神のお告げがあったヨ」
虫が鳴くような声で呟くと帅 宁宁はゆっくりと語りだす。
「ある日の夜、私はダンジョン内で寝ていると、夢なのか現実なのか分からない場所にいたネ。そこには満点の星空が広がる美しい扉がある場所だったネ」
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「ん……?」
帅 宁宁が目を覚ますと、冷たい白い床に横たわっており、空を見上げると天の川が広がる神秘的な場所にいた。
ゆっくりと身体を起こし、辺りを見渡すと白亜の床の先に巨大な扉が見えた。
その扉には美しい彫刻だろうか? 1本の木が9つの枝に分かれ、その枝先に丸い実がなっているように見える。
「ここは?」
思わず口から疑問の言葉が漏れると、背後がら人の気配がした。
「!? 誰だ!」
帅 宁宁は咄嗟に距離を取り、気配がした場所を注視すると、ぼんやりと光る人影が存在していることに気がついた。
「驚かせてしまったかい? ごめんごめん」
人懐っこく喋る謎の人物は中性的な声質をしており、男性なのか女性なのか判断できない。シルエットからして若い女性だろうか? それよりも、背後を取られるまで帅 宁宁が持つスキル【気配察知】が反応しなかった事に驚きを隠せなかった。
【アサシン】が取得出来るスキルは隠密や隠蔽系スキルを取得でき、探知系スキルも低レベルから取得できる。帅 宁宁はレベル50を超える頃にはどのスキルも上級までスキルが強化されていた。それでも【気配察知】に引っかからない謎の人物は、気配察知を超える上位隠蔽系スキルを持っている可能性があった。
「貴方何者ネ? ここはどこ?」
「あ、気になる? だよね~」
戯けた反応だが、謎の人物は流暢な中国語を使っており、一瞬同胞かと思ったが……。
「私は君たちが言うところの神と呼ばれる存在だ」
「神? そんな者がいる訳が……」
自称神の存在を否定しようとしたした瞬間、謎の人物から驚愕の真実が帅 宁宁に投げ掛けた。
「弟に会いたいかい? 僕なら君の願いを叶える為の手助けが出来るよ?」
(弟……梦の事を言っているのか?)
「……私の弟の居場所を知っているのか?」
「知っているよ。君は中国政府に無理やりダンジョンアタックさせられているんだろう? しかもその力で国内の反対勢力を殺し回っている」
「何故それを……」
白く輝いているせいか、素顔がハッキリと分からない。それでも謎の人物が笑ったように見えた。
「僕は神だからね。何でも知っているよ。両親に売られた事もね、あの国は貧しい人間を使ってダンジョンアタックをさせ、珍しいアイテムを回収している。その過程でたまたま君は【アサシン】のクラスチェンジオーブを使ってしまったこともね」
帅 宁宁は唇を強く噛み締めた。
たしかに、謎の人物が言っていることは真実だった。両親に売られ、弟と2人でダンジョンアタックする毎日。仲間の子供達は、日に日に人数を減らしては新たに補充される。いつか弟が帰って来ない日が来るのではと、毎日ダンジョンから帰ってくるのが辛かった。
そんなある日の事。弟の梦と他の子供達だけのパーティーを組むと、いつも通りにダンジョンアタックを始める。
このダンジョンは中国政府が管理するダンジョンで、一般のハンターは入れないダンジョンのひとつだった。
帅 宁宁と梦達は、ダンジョン10層を探索途中、不運にもトラップに引っかかってしまった。
「梦!」
「おねえちゃん!」
足元に幾何学模様が突如として現れ、転移陣が起動してしまった。
転移陣の光に飲み込まれた帅 宁宁達は、ゆっくりと目を開けると金銀財宝が部屋中至る所に積み重なっており、目が眩む程の光を放っていた。
「おい、宁宁! すげーお宝だ! これを持って帰れば俺達は自由だぞ!」
その言葉に帅 宁宁と梦は目を輝かせる。
毎日危険と隣り合わせのダンジョン。
運良く帰還しても手に入れたアイテムは全て取り上げられるが、報酬として雀の涙ほどお金を受け取るだけだった。それでもお金を集め、自分達を買い戻す為に必死にダンジョンを毎日潜り、小さい魔石を掻き集め、死物狂いでモンスター達と戦って来た。
そして、今目の前にあるのは途轍もない価値がありそうな財宝だ。
これを持ち帰ればきっと自身と梦を買い戻し、自由になれる。いや、きっとお釣りもくるはずだと考えた。
我先にと仲間達がボロボロの革袋に金貨やダンジョンで得られる素材や宝石、そしてスキルクリスタルを入れていく。
「おねえちゃん。あれがスキルクリスタルなんだね」
「そうだね。初めて見たよ」
ダンジョンに潜って2年は経つがスキルクリスタルは資料でしか見た事がない。
暴力を振るう怖い人はスキルクリスタルとクラスチェンジオーブを必ず持って帰れと言っていた。きっとあれはとても高価な物なのだろう。
帅 宁宁と梦は他の子供達と一緒になり、金貨やスキルクリスタルなどを革袋やポケットに詰め込んでいく。
時間の経過を忘れ、大量に詰め込んだ金貨はとても重く、歩くのも一苦労な状況だった。
十分金貨を回収し、出口らしき方向に向かおうとした時、背後から叫び声が聞こえた。
「うわぁー!」
「お前! 何をしている!」
帅 宁宁が振り向くと、仲間の少年が地面に倒れており、折角集めた金貨を床にぶち撒けていた。
そして、その金貨を踏むひとりの少年がいた。
「おい、お前ら。スキルクリスタルを置いていけ」
返り血を浴びた初年が興奮した口調で言う。
「仲間を手にかけやがって、何をしているのか分かっているのか?」
「仲間? 食うか食われるかのライバルだろ? 金目の物を人より多く集め、この地獄から我先にと出ようと考える糞じゃないか」
帅 宁宁は手に握る金貨を強く握る。
彼の言っている事に反論できない。
持ちきれなくなったので、仲間を置いて梦と一緒にここから出ようと思っていたからだ。
「……ふん。ダンジョンで死ねば誰も気にしない。俺さえ生き残ればいいさ。死ね【ウィンドカッター】!」
空気が歪むと、透明の何かが仲間のひとりを通過した。
「え?」
ズルリと仲間のひとりが上半身と下半身が2つに別れて地面に崩れ落ちる。
「うわあああ!」
残りの仲間達は四方に散らばり逃げるが、次々と見えない刃に倒れていく。
帅 宁宁には梦を連れ、財宝の影に隠れた。
「おい宁宁。お前は可愛いから生かしておいてやるよ。早く出てきな。弟を死なせたくないだろ?」
背中に小動物のように震える梦を感じる。
「信用できない」
「だよな」
見えない刃が、帅 宁宁がいる場所に何度も命中し、金貨が音を立て崩れてくる。
絶対絶命かと思いきや、崩れた金貨の中から金色の球体が足元に落ちて来た。
資料でみたクラスチェンジオーブだと直ぐに分かった。帅 宁宁は現状打破する為に、迷わず使用する。
『クラスチェンジオーブ〈アサシン〉にクラスチェンジしました』
『スキル【気配遮断】を取得しました』
帅 宁宁は瞬時にスキルの効果を理解する事が出来た。
スキルを使用し、魔法を放つ少年の背後にゆっくりと忍び寄る。
「いいヤツだったのにな。殘念だヨ」
宝石が散りばめられた剣をを背後から心臓目掛けて突き刺す。
「クボッ!」
左胸から突き出た剣を掴む。
目の力が抜け、両膝が地面に着く少年。
「ごほっ。クソッ、……。こんなところで……かあちゃん……」
倒れる元仲間の少年の死体を見下ろすと、急に恐怖で手が震える。
それからは記憶が曖昧だった。
梦と地上にどうにか戻った後は、梦とそれ以来、会うことは許されなかった。
ただ、弟と会いたければ、〈尸〉と呼ばれる組織で働けと言われた。
それ以来、梦と再び会うために終わりの無いダンジョンアタックをしていたのだ。
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「弟を助ける方法があるなら教えるネ。嘘なら殺すヨ?」
「そんな殺気を向けないでよ。本当だって」
殺気を向けても謎の人物は特に怯む様子はない。
助ける方法があるなら神にも縋る思いだ。
「近い内に魔法少女と呼ばれる人が現れる。魔法少女からナヴァラトナか魔法少女のクラスチェンジオーブを奪うんだ。そうすれば、弟を助ける方法とお手伝いをしてあげるよ」
「……」
帅 宁宁は深く考える。
コイツを信じて良いものなのか。だが、弟の梦の事も知っていた。
警戒に越した事はないが、弟を救う為に謎の人物を信じるしかなかった。
その後、魔法少女について、ナヴァラトナとは? クラスチェンジオーブを奪う方法を詳しく聞いたのであった。
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