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重い空気のまま始まったHRは当たり前のように重い空気のまま終わった。

授業が終わるとすぐにそのまま志摩と神田は逃げるように教室を飛び出していった。


「なあ哲平、なんであんな機嫌悪かったんだ?」


休憩時間、優しい言葉をかけてくれる生徒たちに笑顔で対応して哲平の下へ行くと腕を掴んで教室の外に引き出す。

誰かに聞かれてもいやな話なので適当にあいている教室に連れ込んで机に座った

休憩時間はたったの十分だ、まあ普通にサボタージュになる。


「別に、俺があそこで言わなきゃお前ボロ出してそうだっだからな」


しれっ、と視線を外しながら喋る哲平に俺は笑った。

別に俺がボロを出しても哲平には関係ないのに。毒舌に合わせてツンデレスキルってなんてハイレベル。


「嘘こけ~イラッてしたけどそこまで気が短くないからね俺は」


「っうるっせぇ馬鹿!!性悪!!尻軽!!」


「ちょっ最初と最後は聞き捨てなんねぇんだけど!なんだよ尻軽って俺はそんな淫乱じゃないからね!?」


「っせぇエロ!!」


「男なら誰でもエロだろーが!!誰だって週4は自家発電右手必須だろうが!!」


ぎゃあぎゃあと騒ぎながら暫くすればあほらしくなってきた俺達は不意にだまる。


「……あーあ」


やっちまったなあ、やっちまったよ。

目の裏に妙にへばりつきやがる、バ神田の泣き顔と志摩の苦しいような悲しいような怒った顔。


(ちょっとやりすぎたかなあ…。)


ついついちょっと楽しくてやりすぎたかもしれない。

ほへー、とため息をつく俺に哲平があからさまに気持ち悪そうな顔をして両腕をさする。


「……お前がそんなんだとこっちも調子狂うからやめろ、きしょい」


「ねえひどくない?ひどくない?」


関係のない志摩まで巻き込んでしまったことに少しだけ後悔だ。別に志摩にあんな顔をさせてやろうと思ってやったわけじゃない。


ただ神田がいるとどうしてか自制がいまいち利かない。


「なんでかねぇ…神田見てるとイライラする」


「そりゃ…お前と性格が反対すぎるからだろ」


一方、熱心で一途で優しくて綺麗な理想の世界に恵まれた優しい奴。


一方、気ままで我侭、優しさには遠い、現実的世界を面白おかしく過ごす奴。


「はー、ウマが合わないってこういうことなんだろなあ」


「水と油とも言うな」


俺のひねくれた心がピュアを攻撃しているのか、ああ俺も現実に擦れたノードリームボーイ。

外でわーわー言ってる奴等の声を聞きながら頬杖ついてぼー、としていると隣で哲平が呟いた。


「でもやっぱ俺はお前のが好き」


「……ごめん、俺哲平の事そんな目で見てな…」

「嫌な誤解してんじゃねーよ!!」


あ、違うの?


だってあんまりにも真剣な顔して言うもんだからさー、てっきり愛の告白かと思っちゃうじゃない。


ぎっ、と眉間に皺を入れながら哲平は顔を背けていった。


「神田みたいに素直で馬鹿みたいにポジティブな奴よりお前みたいにちょっと性格に問題ある方がいいっつってんだよ」


「ほうほう、つまり哲平君は僕がとっっても好きなんだね?」


「お前っ~マジで殺す、ぞ!!!」


「うははは!!ほーかほーか哲平は気まぐれな俺に振り回されたい~っていう奴なのね!!」


「殺す!!!」


哲平からの攻撃をするするとかわして同じ高さにある首にするりと腕を回した。

あらまお肌すべすべね、クラスの奴等が喜びそう。

あれ、俺がっさがさじゃん。

いやいや普通はこうだよ、こいつと他がおかしいんだよ。

「俺も毒舌で意地っ張りな哲平は好きだよー、唯一無二の友達だからねー」


「…お前から友達の単語が出てくると気持ち悪いな」


げぇ、と舌を出して顔をしかめる哲平に唇を突き出す。


「あん?じゃあセフレでどーだ」


「どーだじゃねーよ頭沸いてんのかおっまっえっわあ!!!」


「あだだだだだだだ」


ゴッ、と頭を挟まれごんごん後ろの黒板に押し当てられる頭。

止めろっておまっチョークがつくって!!


俺の髪が真っ白になったらどうしてくれる。それはそれで格好いいかもしれないが動くたびに白い粉がぱらぱらと落ちてくるんだぞ。

フケだと思われたらどうしてくれる、不潔男という不名誉な名前で呼ばれることになるぞ。


「俺性格悪ィーよ」


「知ってる」


「俺は他人は簡単に切り捨てられますよ」


「性悪だからな、何年の付き合いだと思ってんだ」


「四年?もう運命だよね、結婚する?」


俺のキメ顔にぶはっと噴出した哲平は珍しく声に出して笑いながら俺の頭を軽く叩いた。


「っとに…軽い奴」


尻は重いけどね。

哲平が珍しく笑うものだから俺もなんだか少しおかしくなった。


「さーて、教室に戻りますか」


「俺やだなぁ…猫田君大丈夫?の声が多すぎて」


「自分でまいた種だろ」


「まあ、ね」


可愛い可愛い種ですよー。

水もやらんですくすく育ちます、そのかわり定期的に話しかけてやらないと拗ねるか縋りつかれます。


頭に出来た小さなたんこぶを撫でながらニタァ、と笑った。


「……さっきの笑顔はどこにいった」


「お前あんなのそうそう見れるもんじゃないのよー?レアだから、プレミアだから」


そんな簡単に見れると思ってもらっちゃ困る、一年に一回あるかないかぐらいの回数だからね、神田のいう本気の笑顔って奴。


「あー志摩に謝りたいけど志摩に謝ろうと思うとまず神田に謝らなくてはいけない、それは嫌なので結局謝らない、はい決定」


「なんだそれ」


小さく笑う哲平に満足して座っていた机から腰を上げる。

教室を出る前に見回りをしている教師はいないか確認、そして外に出た。


こういう時学園が広いと穴場と呼ばれる場所がたくさんあるから楽だ。


ガラリとドアを閉める。閉めるときに不意に顔をあげると向かいの校舎から人影が見えた。途端、突然背筋に寒気がぞぞぞ、と走る。


俺は哲平ほど目がよくないからその人影が何なのかはわからない。だがいやな臭いがぷんぷんしたのですぐさまドアを閉めた。


(なんだあ…?うっへー気持ち悪い。)


「どうした?」


「いんや、なんでもない」





授業免除の特権を使い仕事としょうしてソファの上でクッキーをかじる。

茶色くなめらかな表面にとろりとした赤いジャムが乗せられたそれはとてもいい香りがした。


「副会長~何見てんの?」


「副会長ー何みてんの?」


急にカーテンを閉めた彼を不思議に思った双子が無表情な彼に話しかけた。

ノンフレームの眼鏡にさらりとかかった前髪を適当に耳にかけ、手をつけていた途中の書類をもう一度手にとる。


「生徒一覧表、少し気になる奴がいてな」


「「それって猫田小豆~?変な名前だよねえ」」


甘い蜂蜜色の髪をお互い弄くりながら興味なさげに呟いた。


「俺より笑顔が綺麗に完璧に作れる奴だと…秋が言っていたのでね」


生徒会室に遊びに来る愛しい子を思いながら最近元気によくきく名前が出だした。ネコタ、ネコタと嬉しそうに笑う彼はとても愛らしいが正直面白くない。


そして先ほど書記がわんわんと泣く彼を捕まえたのだ。


「秋を泣かせるなんて許せないだろう、少しお礼でもしなくてはとおもってな」


ふ、と恐ろしいほど綺麗に笑った彼。


「「…まあ、楽しかったらなんでも」」


実に楽しげな雰囲気を出す彼に、双子は不思議そうに首をかしげた。


「なぁ梅、水城先輩より笑顔が綺麗な奴っていると思う?」


「まさか、桜。副会長より腹黒な奴っていると思う?」


顔を見合わせながら首をかしげる双子。

しかしそう簡単にいかないことを水城はまだ知らない。獲物に目をつけた人間が一人だとは限らないことを彼は見落としているのだ。




「桐島先輩、個人データ持ってきました」


「ああ、そこにおいてて」


山積みにされた書類の中からくしゃくしゃになった紙を広げた。その紙には今よりも幼い少年が眠そうな顔で写っている。そしてその隣の紙は今の少年が写っている。


「志摩が言う…他とは別…か」


風紀と掲げられたプレートが風に煽られゆれた。

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