消えない記憶 2
「ヴェルナー殿下、フィアナ様。ご結婚おめでとうございます」
21歳。これが名目として最後の茶会だろう。
先に待つ二人にそう挨拶をすると、二人は一瞬驚きお互い目を合わせて、そして私の方に向き直ったかと思うと声を出して笑い始めた。
「やめてくれよ、これは私的な集まりで、お前は俺達の親友だろっ! 俺にとっては兄でもあるんだ」
「ふふふ、そうですよ。それに正式には明日が式ですから、私はまだフィアナ・セルシオです」
兄弟、親友。その言葉に心が暖かくなるのを感じた。
出会ったばかりのヴェルナーは活発で、少し勉強が嫌いで。従者にも優しく、少し頑固なところはあるが、幼い頃から王となる事を責任を理解していた。今では、王となるべく全力で物事に取り組み、国民からの信用も高い。フランクな所は相変わらずだが。
活発で、でもどこかマイペースだったフィアナは、日に日に美しい令嬢へと成長した。回りの男誰もが自分の隣に彼女が立つ事を夢見たであろう。もちろん、ヴェルナーという高すぎる壁がその妄想すら邪魔をするのだけど。
明日、ヴェルナーは正式に王太子になりフィアナとの結婚の儀が執り行われる。そう考えるととても感慨深く幼かった自分達の思い出が一瞬にして脳内をめぐった。
「なんでお前が父親みたいな顔してるんだよジョエル」
「ふふ。いえ、あの時出会って婚約した二人が明日結婚かと思うと……色々込み上げてきてしまい」
「今朝、お父様が同じような事を仰ってました」
三人で目が合い、声を出して笑った。
一通り笑い、今度はヴェルナーが俺の方を見て何やらわざとらしく確認を始める。伝えたいことの前置きとしてわざとやっているのだろうけど、その対象が自分なだけに気になってしまう。
「さっきから何です、ヴェルナー。私に何かついてますか?」
「いや何、ジョエルが遂にフィアナの護衛騎士になるからな」
「だから何です?」
「魔属性は魔人になるって昔俺が言ってた事あっただろ? だから、フェンリルを一人で討伐する程に強いお前がそろそろ魔人になってるじゃないかって思ってな」
「あー……たしかにあったかも。また昔の話を持ってきましたね」
「確か、話の中の魔人は髪の色は其々だったが全て濃い色だったか? 瞳は赤だったな」
「ふふ、ジョエル様の髪は私と同じ明るいグレーですし、瞳はちゃんと青いですよ。……ラピスラズリのような深い青。本当に、とても綺麗」
その言葉にフィアナと目があった。にこりと暖かい笑顔を向けてくれた。心臓が大きく高鳴った。
こんな嬉しい言葉をもらえるなんて、もう十分じゃないか。心に秘めたこの想いも今日で終わらせよう。
「ユア・ハイネス」
立ち上がりフィアナ前に跪いた。彼女の片手をとり、その甲にそっと口付ける。
「私は貴方の騎士としてこの身を捧げ私の持ちうる全てで貴方を守ることを誓います」
「……ジョエル様、どうかよろしくお願いします」
フィアナが柔らかく笑う。
彼女の声が好きだ、笑顔が好きだ。心から……愛している。だから、彼女が笑顔で居られるよう、彼女の幸せをこの先、この命つきるまで私が守るのだ。
「にしてもジョエル、ユアハイネスって」
「フィアナと一緒に居るときは、弟も勿論守りますよ、ヴェルナー」
「俺はおまけか?」
再び三人で目が合い、笑い合う。幸せな、時間だった。
夜、公爵家の自室で日課の日誌を書き終えた。これからは護衛として仕事も増えるだろう。
日誌は幼い頃にフィアナの騎士になると心に決めてからずっと書き続けてきたものだ。
最初の方は、素振りを何回したとか体力作りに走り込みをしただとか、稽古の記録のようだが、段々と日常の簡単な記録や、仕事での出来事などを書くようになってきた。多くはないが、誰にも話すことが許されない想いも、少しだけ溢している。
でも、それも今日が最後だ。明日からは妃殿下として、私の主として、この想いには蓋をしよう。
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09.FRYJ-03.378
快晴。幼馴染み最後の茶会。
変わらずの近状報告、そして明日からの話をした。
明日は結婚の式。二人の笑顔が暖かい。
フィアナがこの瞳の色が綺麗と言ってくれた。
私は全てを秘め、明日より騎士として命を捧げる事を、ここに誓う。
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記入を終え小さく息を吐いた。一旦置いたペンを再び手に取り、1ページ捲った先にペンを走らせた。
翌朝、空は蒼く澄みきって雲ひとつない美しい天気だった。
二人の白い衣装が日の光に照らされ、その糸が、装飾の宝石がキラキラと目映いばかりに輝いて見えた。
ヴェルナーもフィアナも心からの笑顔で、この先守るべきものをはっきりと感じることができた。
陛下達も他の貴族も、勿論城下にいる国民も誰もがこの日を喜び祝福していた。騎士として立ち会い、彼女を守れる私は本当に幸せだった。
披露宴パーティーが終わると、酒に寄った貴族たちはぞろぞろと帰路につき始める。それより少し先にフィアナを護衛しつつ会場を出た。
本日の仕事は、自室に送り届けて終了となる。妃殿下付きの侍女と私とで本日よりフィアナが住む事になる部屋の前まで向かう。
大きな扉の前には、別の侍女がフィアナの戻り持っていた。
「ジョエル様、本日はありがとうございました」
「とんでもないことでございます。今日のこの日より、妃殿下の護衛騎士として居られることを誠に嬉しく思います」
「もう、今くらい普通に話して下さい! 侍女達だって、私たちが幼馴染みで親友だって皆知っているんですから」
チラリと視線を移すと、クスクスと小さく笑う侍女達の姿に、少しだけ気が緩む。
「……では、少し。フィアナのドレス姿、とても綺麗でした。貴方の幸せな時間に護衛として立ち会えたこと、本当に嬉しく思ってます。これからも、よろしくお願いします」
笑顔を向けると、彼女からも柔らかな笑顔がこぼれていた。
「貴方達も、友人との素敵な時間をありがとう」
侍女達にそう伝えると、彼女たち優しい笑顔を浮かべ簡易的なカーテシーを返してくれた。
「では、妃殿下。また明日」
「はい、また明日」
笑顔を交わし、彼女が部屋に入っていくのを見送る。明日は規定の時間にまたこの場所に来る事になっている。彼女の回りにいる侍女とも協力することが増えるだろう。そう考えながら今日の報告をすべく騎士団総長のいる部屋へ向かう。
近く御披露目を含めた外交も開かれる。
……去年の外交では隣国の姫に危うく連れ帰られそうになったな。この騎士が欲しいととんでもない事を言い出し、陛下達を困らせていた。
あちらの国の王や王子が宥めていたが、常識な方々で本当によかったと心から安心したものだ。
あの時にもしも連れ帰られていたら、フィアナの護衛騎士としての喜びは得られなかったのだろう。
人生には色んな分岐点が存在している。あの時にユグナージュに残れたからこそ今がある。護衛騎士になると決め、それを目標に日々を過ごしたからこそ、切れない縁がある。あの時に木から降りれなくなった彼女を助けたのが私だったら……。
「ははっ」
足が止まった。あまりにも下らない考えに、自傷気味な笑みが漏れた。
昨日誓った筈なのに、13年拗らせている片想いはそう簡単に消えてくれない。
今夜、彼女は全てヴェルナーのもになる。それが幼馴染みである、親友であるフィアナの、弟のように大切なヴェルナーの幸せだと心から思っている。
わかってはいるのに、黒く重いものが胸の中に居座っているのだ。自分の心なのに簡単には制御できないんだな。
深呼吸をし、報告に向かうべく再び歩きだした。
報告を終えたあとは、一度公爵家に帰った。
父達と今日の式の事を話した。父や母も幼い頃から見知った二人が結婚すると言うのは、感慨深かったようで、幼い頃のエピソードを聞かされる。私が覚えてることは勿論、覚えていなかったような出来事まで。そんな事があったのかと思う反面、容易に出来事が浮かんでしまい、家族で笑い合った。
今までは王都にある公爵家から通いだった。だがこれからはより近い騎士の宿舎に寝泊まりする事になる。必要なものは最低限だし、荷物も宿舎の部屋に移し終えているので問題ない。
一通り話が終わると、両親に挨拶をして家を後にした。出掛けに「貴方も早く結婚したら?」と冗談交じりで母から言われたけど、今は目標だった騎士の仕事に専念したいと答えた。……決して嘘ではない。
宿舎の部屋に到着し、備え付きのソファーに座り指を組みそのままぐっと腕を伸ばす。力が抜けるのと一緒に深く息を吐いた。
窓から入る月の明かりは短い。きっと丸い月は真上にあるのだろう。
カンテラに火を灯すか迷った。こういう時にフィアナのように聖魔法が使えればライトが使えるのに。浮かんできたのは白昼に城の真上にライトを打ち上げたあの出来事。
上を見上げ閉じた目を片手で覆った。口角が自然と上がり、声が漏れた。
「ふふっ」
……良くないな。
浴場はもう閉まっているだろうか。一度向かって閉まっていたら朝に入ろう。こんなことならば、家で入ってくれば良かったかな。
そんな事を考え重い腰を上げたその時だった。部屋のドアを叩く音が響く。
「恐れ入ります、ルシュブル副団長」
その声にドアを開けると見知った騎士が立っていた。
「どうしました?」
「申し訳ありません、城に来るよう伝言が」
「妃殿下……なわけないですよね。誰からです?」
「それが……ルグドル殿下よりの伝言と」
「……そうですか、わかりました」
「恐れ入ります」
返事はしたものの、正直何一つわからない。こんな時間に、それもなぜルグドル殿下から呼び出されるのだろうか。怪訝に思いながらも再び城に向かう。
城の入り口には彼の騎士が二人。私の顔を見るなり「ご案内します」と歩き始めた。
城内はとても静かだった。こんな時間だ、殆どのものは寝静まり、警備の騎士がいる程度だろう。そう思っていたのだけど、どこか様子がおかしいような気もする。あまりにも静か過ぎではないだろうか。聞こえる音と言えば、私たちの足音と剣が揺れた金属音くらいだ。
カンテラの炎がゆらゆら揺れ、その度に歩いている私たちの影が揺れる。
警備に当たるものも居るには居るが、余りにも少ない。今日のこの日にこの警備体制というのは余りにも……。
辺りを見渡していると、前を行く騎士が扉の前に止まった。回りの様子ばかり気にしていたからだろうか、それとも夜の暗さか。立ち止まり漸く気付いたのだ。ここは数時間前に居た見覚えのある扉の前……フィアナの部屋だ。
「……ここはフィアナ妃殿下の部屋では? 今私をお呼びなのはルグドル殿下ではないのですか?」
「ここに案内するよう言われています」
今日この日のこの時間にこの部屋に……?
全く現状が理解できない。私が間違えているだけでここはルグドル殿下の部屋なのだろうか。いや、まさか。そんな間違いをするわけがない。
「お連れしました」
「どうぞ、入ってください」
案内役の騎士の声に答えた声は、間違いなくルグドル殿下のものだった。
扉が開く。部屋の中にはカンテラは灯っておらず辛うじてルグドル殿下の影が見えるくらいだった。
しっかりと確認しようと室内へ足を踏み入れる。背後で扉が閉まる音がした。
部屋にライトが灯るのと、騎士達に抑え込まれ魔力制御の枷を付けられるのはほぼ同時だった。
「っ!?」
突然の眩しさに無意識に顔を背けると、その先に赤黒い液体がたまっているのが見えた。
この部屋には似つかわしくないあまりにも見慣れたその色に、心臓がバクバクと嫌な音立て始める。ゆっくりと視線を上げていく。赤黒い色のなかにうつ伏せに屈み倒れ込んだ男の頭が見えた。小さい頃から良く見知った明るい茶色の髪だった。
「……は? ……ヴェルナー……?」
不自然な体勢で倒れ込んだ彼の名を呼ぶも、ピクリとも動かない。首から下は赤に染まり、その色の中にただ倒れこんで動かない。
「お待ちしてました、ジョエルさん」
荒くなる息のまま、声の主に視線を移した。移った視線の先、視界に飛び込んできたのは一瞬で冷静さを欠くには十分すぎる状況だった。
「フィアナ!!」
彼女のもとに向かおうと反射的に動いた体は、二人の騎士によって取り押さえられ、体ごと床に押し付けられた。
夜着の役割を果たさなくなった布を纏った彼女は、意識があるのか無いのかもわからないような虚ろな目をしていた。柔らかな銀色の髪の毛は欠き乱され、不適な笑みを浮かべ座る見知った男の側に立たされていた。後ろからは騎士が剣向けている。
……彼女に何があったかなんて、容易に想像できた。一瞬にして身体中の血が煮えたぎる。
「はなせっ!! フィアナっ! クソッ、今助ける!!」
力任せに抵抗すると腰にさしていた剣がガチャンガチャンと床を叩いた。魔力を封じられて、大柄騎士二人に抑え込まれ、身動きも儘ならない。
目の前のフィアナに手が届かない。
「っざけるな! くっ……はなせっ、ヴェルナーをっ、フィアナをっ!!」
「ジョエルさん、落ち着いて下さい」
「落ち着けだと、ふざけるな!!」
「よくある話ですよ。王位継承をかけたいざこざって」
何が可笑しいのか、彼はクスクスと笑いなから話す。
「貴方は貴重な属性持ちだから、出来ればこちらについて欲しいなって思ってるんです。それにその実力、魔人のようだともっぱら有名でしょ? 一部には魔人って呼ばれてるの知ってましたか? って話がそれましたね。此方側について欲しいと言うのが本筋ですね」
狂ったような賑やかさ。
異常なほどに脈打つ心音、怒りで上がった息、彼の話し声が遥か遠くに聞こえ、内容なんて全く理解できたものじゃない。
「ああ、勿論ただでとはいいませんよ? ジョエルさんは僕と同じですから」
ーーこんなやつと私が、同じ……?
「好いているのでしょ? フィアナを」
「っ!」
「はは、そんなに驚かなくても。他の誰も気付いていませんよ。僕が貴方と同じだから、気付いたんですよ。彼女が欲しいのでしょ?」
思わず彼女を見た。視線は合ってるのかどうなのか、変わらず朦朧としている。彼女をこんな風にしたやつと同じだと?
「彼女を傷つけておいて何をっ」
「傷つける? それは違いますよ。正しく僕の物になっただけです。だって許せるわけないでしょう? 僕のものになるはずなのに、兄のお手付きなんて」
「黙れ! 今すぐフィアナを放せ!」
荒げた声に、フィアナの視線がようやく私を捉えた。
「……ジョエル……様……」
「フィアナ!! すぐに助ける! クソッッ」
踠くほどに騎士達から押さえつけられ頬が床に擦れる。魔力を練っては、腕に掛けられた枷に打ち消される。
目の前にいる、大切な女性を、愛する人を、助けることが出来ない。
「あ"ぁぁぁーー!! はなせッ!!」
「魔力切れ起こしますよ? 条件を飲んでくれれば放しますってば。僕側についてください。あ、そうでした、その為に貸そうと思ってるんですよ」
髪の毛をぐっと掴まれ、無理やり顔を上げられる。睨みつけた視線の先の笑顔に殺意が沸いた。
「ジョエルさんには特別にフィアナを貸して上げますよ」
「……は?」
「ジョエルさんの気持ち、僕もわかります。ずっと兄が憎かったですよね。当たり前のような顔をしてフィアナを独占して」
「……黙れ……」
「自分の物にしたいと思ったでしょう? だから、僕は貸してあげるんです」
「……彼女は物じゃない……」
「あぁ、3人でなんてのもいいかもしれませんね」
「黙れと言っているんだ!!」
叫び、怒りに練り上げた魔力が枷に反発し発光しバリバリっと大きな音をたてた。
まるで名案が浮かんだかのように嬉しそうにそう話す目の前の男に、怒りが、殺意が沸き上がる、抑えることが出来ない感情に理性が飲み込まれていく。
「わあ、怖い。そんなに怒らないでくださいよ。枷をつけて正解でしたね。その枷にすら抗うなんて本当に魔人のようです。その力が欲しいのに……うーん、あ! もしかして貸すっていうのが信用できないんですか? だったらほら」
ルグドルがフィアナの背を押した。その力に押され、数歩踏み出し足が縺れフィアナは倒れ込んだ。手を伸ばせば直ぐに触れられる、助けられる、そんな距離。でも……届かない。
「フィアナ!」
「……じょえる、さま」
しっかりと目があった彼女の瞳が滲み大きく揺れた。
「うん、魔人じゃない……だって、とても……」
倒れ込んだ体勢から体を起き上がらせ、床に座り込んだフィアナが手を伸ばす。
その指が私の頬にそっと触れ、彼女の瞳からは大粒の涙がこぼれ落ちた。
「……深い青……とても、綺麗……」
にこりと優しく私に微笑んだ彼女は、私を押さえつけていた騎士に視線を移した。虚ろな表情だった。
そこからは本当に、一瞬だった。フィアナが騎士の腰から素早く剣を抜き両手で持ち……その手を振り上げて、微笑む。
「ありとう、ジョエル様」
「フィアナ! やめっ……」
全ての言葉を待つことなく、振り下ろされた剣が彼女の胸元に突き刺さる。笑顔だった口元からケポっと変な息が漏れ鮮やかな赤が流れ出た。
「あー……自害なんて。女性の力だと苦しいだけでしょうに」
がくんと倒れこんだフィアナから、ヒューヒューと空気が漏れるような呼吸音がする。
「これでは辛いですね。首を」
頭上でカチャリと音がした。
押さえつけられていた力が弱まったが、体は全く動かなかった。
視界に剣が振り下ろされて、生ぬるい赤が床を染めていく。
「……ふぃあ……な……」
「うーん、貸せませんでしたね。残念です」
ーー……プツン、頭のなかに小さな音が響いた。感情が溢れだす。体の中から魔力が溢れてくる。
「……ふぃあ……あっ……うあ"あぁぁあああああッ」
目の前が赤く染まった。
溢れ出た黒に包まれ、そして……そのまま暗くなった視界をうっすらと映しながら目を、とじた。
◆ ◆ ◆
「……エル様っ、ジョエル様!」
呼ばれた声にはっとして声の主を見た。
アクアブルーの瞳がこちらを覗き込んでいる。耳元にはエメラルドグリーンのイヤリングが揺れていた。
「すみません、アリシア嬢」
「ぼーっとしてどうしたんですか?体調が悪いなら無理はしないで下さいね」
「いいえ、問題ないです。ただ……夢見が悪くて」
「眠れていないのですか?」
「眠れてはいるんですけどね。なんと言うか……怖い夢を、見るんです」
そう伝えると彼女は、寝付きにいハーブティーだとか、入浴の仕方だとか、はたまた聖魔法で何か効力のあるものはないか等と考え始めた。その光景に思わず広角が上がる。
……同じ魂を持った、別の人物。彼女ではないのに、今度こそは守りたいと願ってしまう。あの時何も出来なかった私にそんな資格があるのか、自分に問いかけても出ない答えは捨てることにした。
「あ、もうすぐルシウス様がくるので、ルシウス様にも聞いてみましょう!」
「あの人がそんな繊細なこと気にするようには思えませんが……」
「じゃあ……ナフタック様?」
「彼は知ってても教えてくれない気がします」
「ふふっ、そうかも」
ーー願わくば
「一番効果がありそうなのは……アリシア嬢に添い寝をしてもらうことでしょうか?」
「沿いっ、もう! からかわないで下さい」
ーー今この時代の貴方を守ることを
「はは、すみません。あ、副団長が来たいみたいですよ」
「わ、本当だ。行きましょう、ジョエル様」
ーーどうか、貴方の幸せを。
お読み頂きありがとうございます。
X:@sheepzzzmei




