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あなたが幸せであることを  作者: 卯月めい
第三章 想いの場所

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消えない記憶 1

「はじめまして。セルシオ伯爵家長女のフィアナ・セルシオです。フィアナとお呼びください」


 ふわふわとウェーブのかかったその銀髪は、自分の髪と同じ色なのにまるで違う色のように見えた。

 暖かそうで、柔らかそうで、自分の髪の毛にはない特殊効果でもついているのかと思ったくらいだ。

 にこりと微笑んでくれたけど、どうやら緊張しているらしい。彼女をここまで連れてきてくれた陛下が微笑ましそうにこちらを見ている。

 私は幼い頃から数年一緒にいるので、兄弟のような感覚だけど、本来私達と歳が近い子達は緊張するんだろうな。この場にいるのは王家長男で私より1つ年下のヴェルナー・ド・ユグナージュ。そして私、ルシュブル公爵家長男、ジョエル・ルシュブルだ。


「はじめまして、ヴェルナー・ド・ユグナージュだ。よろしく」

「私はジョエル・ルシュブルです。よろしくお願いします」

「は、はいっ、よろしくお願いします、あえ、えっっと……」


 なんと呼んだら良いのかわからないのだろう。きっと伯爵家よりも高位の爵位を持つものとコミュニケーションが初めてなのかもしれない。

 陛下に視線を移すと、にこりと笑ってくれた。


「私のとこはジョエルと呼んでください」

「ああ、おれの事もヴェルナーとそう呼んで欲しい」

「ありがとうございます。……ヴェルナー様、ジョエル様」


 そう言った彼女はまるで花が綻んだようで、その笑顔に一瞬で目を奪われた。呼ばれた名前に鼓動が高鳴ったのを感じた。


 あの日から、ヴェルナー、フィアナ、私は3人で遊ぶようになった。彼女は意外と活発で、それでいて少し抜けているような一面もある。

 ある時は勉強を抜け出したヴェルナーと3人で彼の教師に魔法でいたずらを仕掛け隠れたところ、フィアナのドレスが見えており3人まとめてお説教を受けたり、またある時はフィアナが図書館から魔法書を持ち出して練習すると言い、魔法が暴発。彼女が聖属性だったからその時はライトが城の上部に撃ち上がる事だけですんだけど、攻撃を主とした属性だった場合は説教ではすまされなかったかもしれない。……否、違うな。ライトだけでも騎士団がざわついて大変な騒ぎだったし、騎士団長からも両親からもそれはもう叱られた。十分大変だった。

 そして本日、今しがた。木に上って降りれなくなった猫を助けるべく木に上ったは良いがフィアナ本人も降りれなくなり、ライトを飛ばして少し離れた場所で騎士の真似事をしていた私たちに助けを求めてきた。

 私は慌てて上って助けようと思ったのだけど、それより早くヴェルナーか風魔法で救出した。

 風に浮いて降りてくる彼女は、さながら精霊のようだった。その精霊がヴェルナーの腕のなかに降りてきて、彼に向けた笑顔は……今までで一番暖かく美しかった。


「ありがとうございますっ」

「危ないではないか。おれ達が気付かなかったらどうなっていたか」

「でも、猫が降りれなくなってたのです」

「猫を助けようとするのはいいですが、自分が降りれなくなっては……近くにいたのだから、もっと早くに私たちを頼って下さい」

「はい、ありがとうございます、ジョエル様」

「まったく。フィアナは危なっかしくて、放っておけないな」


 そう、放っておけない。守ってあげたい、そう思う。

 ヴェルナーの言葉に、頷きなからふと頭の中に浮かんだ言葉が自然と声になった。


「……私が、フィアナを護る騎士になればいいんだ」

「えっ」


 しまった、そう思ったけれど驚きの声の後に「騎士様に?」と目をキラキラと輝かせるフィアナを見たら、"彼女を護る騎士"は一瞬にして私の目標になった。


「はは、そうだな! ジョエル程強いやつがフィアナの騎士なら安心だ! ジョエルの魔法属性はすごく珍しくて……魔人になれる属性なんだぞ!」


 自慢げに話すヴェルナーに思わず口角が上がった。

 表現方法は置いておいても、兄弟のように思っている彼に褒められるのはくすぐったい気もするが嬉しいのだ。何より、それを聞いたフィアナが目をキラキラと輝かせている事に胸が高鳴った。


「ヴェルナー、人間は魔人にはなれないですよ。あれは昔話で、意味合い的には魔人みたいに強くなれるって例え話だと思います」

「そうなのか、でも今はこの国に1人しかいないときいている。それがジョエルだ! すごいだろう!」

「ええ、すごいです!」

「どんな危険からもフィアナを護れるように、稽古がんばりますね」

「ジョエル様が騎士様だなんて、すごく嬉しい! 私もお二人を護れる女騎士に」

「うーん、それは無理だろう」

「えっ、何でですか?!」

「ふふ、フィアナは騎士って感じではないですね」

「ジョエル様まで! じゃあヴェルナー様は何になるのですかっ」


 1人ぷんぷんとしているフィアナをみて、微笑ましく笑う私とヴェルナー。

 彼女の質問はおかしいのだ、ヴェルナーが何になるかなんて、もう、決まっているのだから。


「おれは国王になって、国ごと民を護ろう。フィアナ、もちろん君を護るよ」


 長年一緒にいるけど、少し照れているようなヴェルナーは初めてだ。何故だかわからないけれど、胸がざわつく。でもその時は特に気にも止めず、3人で笑い合った。輝かしい未来に溢れている、そんな光景だった。

 それから少し経った頃、ヴェルナーとフィアナの婚約が決まったと父から聞いた。その後本人達からもその事を聞いて、やっと自分の気持ちを自覚した。

 きっと出会った時から……私はフィアナに惹かれていた、フィアナが好きだったんだ。


 3人で過ごすようになってから5年、私は13歳になった。

 この歳になると以前のようにイタズラをして遊んだり、木に上ったりなんて事はなくなった。

 私は魔属性と貴重な属性持ちなので、騎士団長に稽古をつけられている。あの頃抱いたフィアナの騎士になるという目標は未だに冷める事はなく、今では更に明確な目標も出来た。

 未来の王妃の護衛騎士、これが私の目指す自分。その為に剣術魔術と日々の稽古をこなしている。

 ヴェルナーは王太子としての教育が本格化しているし、フィアナは妃教育で忙しいようで、3人で集まる事はなかなか難しくなっているが、それでも茶会と目してお互いの近状を報告したりする時間を月に1度は設けているので関係性は相変わらずだ。

 だからだろうか、叶わないとわかっているのに彼女への想いは、日ごとに募るばかりだ。

 茶会での3人の他愛もない会話がすごく楽しい。近況報告も自分が知らない時間の彼らを知ることが出来てそんな出来事があったのか、と驚きで溢れている。……でもふとした瞬間。


「そういえばこの間行った店、今度はジョエルも一緒に行きたいな」

「そうですね。アップルパイがとても美味しくて、今度はジョエル様も行きましょうねっ」

「ええ、是非」


 2人だけで共有している時間があることを、まじまじと思い知らされる。

 笑顔は得意だ。幼い頃から、母や父から口を酸っぱくして言われ続けていた。貴族たるもの真の感情は表には出してはならない、と。

 二人はきっと想い合っている。ヴェルナーは絶対にフィアナを幸せにするし、フィアナも彼と一緒であれば幸せだろう。兄弟のように大切な親友と、心から大切な女性。二人の幸せは、私の幸せでもあるのだから。

 最初からわかってた事だ、そう言い聞かせ

紅茶をこくりと飲み干した。


 騎士団の稽古に本格的に参加するようになったのは、16になったからだ。貴族の息子には徴兵義務がある。それは公爵家であっても例外はない。

 騎士団と共に稽古や討伐に出る日々が続き、ヴェルナーやフィアナに会えない日々が続いている。

 ここのところは、ヴェルナーの異母弟であるルグドル殿下の派閥に動きがあるようで、少しだけピリついている。

 ルグドル殿下はフィアナと同じ歳で、殿下より濃い茶色の髪に母親譲りのアイスグレーの瞳をしている。派閥の関係上そこまでの関わりがなかったのが現状だ。ただたまに、私たちのお茶会を見ているようなときがあった。これは私が魔力関知できたので気付いただけなのだけど。

 ルグドル殿下自身は大人しいような穏やかな印象があり害があるような人物には見えないのだけど、騎士団で警戒をしているとなると、回りの派閥の大人達の影響が大きいのだろう。

 城の噂、近隣の魔物の情報と討伐、剣術と魔術の稽古。代わり映えのないような毎日を過ごす日々。唯一の楽しみは茶会で、幸せそうな二人を見ることになっていた。ヴェルナーに向ける笑顔と意味が違っても、彼女から向けられたその笑顔に頑張る意味を見出だせる。

 護衛騎士になるという目標に、ただひたすらに向かい続けた。


◆ ◆ ◆


「んっ……んー……」

 

 小さな寝息と寝返りであろう人の動きで目が覚めた。起き上がると、隣には見知らぬ女がシーツにくるまって寝ていた。


「……そうか、討伐……」


 まだぼんやりとする頭のまま、回りを見渡すと、夜営テントの外はまだ薄暗いようだった。

 昨日はフェンリルの討伐予定だった。隣国との故郷近くの貿易が盛んな街に最近魔物の被害が多発している、そんな内容での遠征だ。

 魔物の被害はフェンリルに寄っており、討伐対象が定められた。それ事態は想定より数は多かったものの問題なく終えた。


「はぁ……」


 ため息が漏れる。

 今日は王都に戻り、半年振りの待ちに待った茶会だ。2人の姿を浮かべると自然と口元が緩むのだが……。


「はぁ……」


 再び漏れるため息。

 戦いの熱を治めるのに女性を抱くことは今回が初めてではない。もちろん私だけではないし、女性側もそれを生業にしてるので、なんの問題もないのだけど。

 愛しい人がいるにも関わらず、その日会った女性を抱けるなんて。妻帯者や婚約者がいる身ならばまた変わってくるのだろう。本来罪悪感なんて全く関係ない身であるはずなのに、この感情はなんだろうか。ただただ胸が締め付けられるような、この感情は。


 王都に到着し解散が掛かると、すぐに自宅に戻り湯浴みをした。急いではいたが、あのままフィアナに会いたくはなかったからだ。

 支度を終えて、城の庭園に向かう。中庭に当たる場所にあるので、一度城内を通らなければならないのは多少面倒なところだ。いつもは室内が多いが、この季節。暖かさに、咲き乱れる花を眺めながらというのは、3人にとって心の休息にもなるだろう。

 広い園庭へ続く扉が見えた。開いた扉の外は色とりどりの花や緑が風に揺られていた。奥にある東屋に二人の姿が小さく見える。足早に扉へ向かった。

 遠征先の見慣れない食べ物の事、騎士団での他愛もない話、遠くにいても聞こえてくる王家を称える国民の声、遠征先の美しい風景、この半年で部隊長になった事……話したい事は沢山ある。ヴェルナーは、フィアナはどんな半年を過ごしていたのか、聞きたいことも沢山あった。

 城の扉を出た。二人の笑顔が、声がもうすぐ聞ける。そう思った矢先だった。

 東屋に座る二人のシルエットがゆっくりと近づいていく。それと同時に、私の足もゆっくりと歩みを遅め、二人のシルエットが重なった時には……足が止まっていた。

 ヒュっと呼吸がつまる感じがして、ざわざわと胸の奥が乱される。

 ……想い合う二人だ。当然だ。そう言い聞かせ、ゆっくりと深呼吸をした。


「やぁ、ジョエルさん。こんなところでどうしたんです? ……ああ、兄達と待ち合わせかな?」


 突然声をかけられ、勢い良く振り向いてしまった。

 2人に会える喜びに浮き足立ち、そして動揺し回りを把握できていないなど、騎士としてあるまじき事だ。

 素早く姿勢をただし声の主に答える。


「大変失礼いたしました、ルグドル殿下」


 殿下はにこりと柔らかい笑みを浮かべている。


「気にしないでください。それに兄の友人に”殿下”なんて。僕の方か年下ですし、公の場でもないので気楽に、ね?」

「お心遣い、感謝します」


 「気楽にって言ったのになぁ」とクスクス笑う姿はとても派閥で警戒されてる中心人物には見えない。ヴェルナーやフィアナとの交流もゼロではないようだし、当人の意志はそこになく、派閥の大人が良からぬ動きをしているだけな可能性も多いにあるのだ。

 もちろん要注意人物である事には変わりないので、気を許すことはしない。


「ヴェルナー殿下とフィアナ嬢との約束があるので、こちらで失礼させていただきます」

「恒例のお茶会ですね。楽しんで。……やっぱり、僕と同じですね。では」


 同じ? 小さい声だったけどしっかりと聞こえたその言葉に疑問をもち、聞き返そうと思った時には、殿下はそのまま園庭沿いの道を去っていってしまった。

 

「おーい! ジョエル早く来い!」


 東屋からヴェルナーの声がした。

三章は過去の記憶からスタートです。

お読み頂きありがとうございます。



X:@sheepzzzmei

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― 新着の感想 ―
ジョエルの過去というか、生い立ちいいですねぇー! 幸せになってほしいキャラですよね(๑o̴̶̷᷄﹏o̴̶̷̥᷅๑) 思いがある人が他の人と幸せそうにしてるのを 嫉妬したりせず、2人が幸せならそれでいい…
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