エピローグ
「次は―。終点ー。岡山―。岡山ですー」
岡山駅に止まった電車からは、スーツを着た会社員や制服を着た学生たちが降りてくる。
朝の岡山駅は、いつも人でごった返す。
大都会テクノロジーをもってしても、満員電車の回避は今のところ実現できていない。
人と、企業と、県。
三者が絡む問題は、どれだけ技術が発展しようとも難題だ。
駅前には自動車と自転車がせわしなく動き、会社や学校に向かう。
いつも通りの一日が、始まりを告げていた。
「状況は?」
「はい。一晩見張っていましたが、温羅が復活する気配はないとのことです」
「そうか。引き続き、見張っておいてくれ。何かあれば、すぐに私へ連絡を」
「はっ!」
温羅は、吉備津神社にて崩壊した。
今度こそ心臓を貫き、封印ではなく退治を行った。
しかし、赤鬼たちが死をもって地球に還元され、温羅の力となった前例がある。
温羅もまた、死をもってなんらかの干渉を引き起こす可能性は捨てきれない。
とはいえ、現時点での平穏を聞いて、吉備武彦桃温羅は安どの表情を浮かべる。
秘書からの報告を聞きながらも、吉備武彦桃温羅の手は止まることを知らない。
岡山県庁の知事室で、吉備武彦桃温羅はいつも通り書類に目を通し、必要な文字を綴っていく。
岡山県のさらなる都市開発。
日本の少子高齢化対策。
世界に溢れる紛争の終息方法検討。
仕事は山積みだ。
岡山県県知事の仕事は、鬼退治の翌日だというのにいつも通り。
もっとも、鬼退治は時間を停止して行われた。
それ故、岡山県の市長村長、そして県知事以外がその事実を知らない。
岡山県以外から、日常の仕事が回ってくるのは当然と言える。
「ふう」
仕事のキリがついた吉備武彦桃温羅は背もたれに背を預け、ぐっと背を伸ばす。
そして椅子から立ち上がり、窓から岡山の町を見た。
誰もが笑い、誰もが楽しそうに道を歩いている。
大人も子供も、活き活きとした顔をして人生を歩いている。
守り切った、平和な岡山県の姿がそこにはあった。
「知事。なんだか嬉しそうですね」
秘書から声を駆けられた吉備武彦桃温羅は、自身の口角が上がっていることに気づき、咳払いと共に仏頂面へと戻した。
「公務中だ」
そして、照れ隠しをするように椅子に座り、残りの仕事に取り掛かり始めた。
今日も、岡山県は平和だ。
今日も、世界は平和だ。
今日も、人々は人生を生きている。
「どうぞ」
「ああ、ありがとう」
吉備武彦桃温羅は、今日もまた平和な一日が送れることに感謝し、ながら、熱いお茶を一杯啜った。
「うむ、美味い」
後楽園のお煎茶『お庭そだち』の香りが、知事室を優しく包んだ。




