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現代解釈桃太郎 ~大都会鬼討伐戦記~  作者: はの


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第38話 笠岡市

 吸って、吐く。

 一見誰でもできる単純な行動だが、毒ガスの中となれば話は別だ。

 吸った瞬間、全身に毒が回り、吐くに繋がることはない。

 

 だが、笠岡兜はやってのけた。

 毒の効かない体質によって。

 

 黄鬼は、何度も目を瞬かせ、周囲の澄んだ空気を見渡した。

 そして、毒ガスが吹き飛ばされた事実を理解した時、天を仰いで笑った。

 

「はは! ははははは! そうか! これでも俺は甘えていたのか! 毒があれば殺せるだろうという! 甘え!!」

 

 自分の常識を超えられることは、黄鬼にとって喜ぶべき体験だ。

 自身の甘えをへし折られ、また自身の中から甘えが消えるのだから。

 

「いいぞ! 次は、もっと強力な毒を作ってやる! 毒に耐性がある生物も殺せる、毒を越えた猛毒を!」

 

 黄鬼は、さらに成長を遂げた。

 このまま無事に母星へ帰還できていれば、母星の科学力を向上させることに著しく貢献したことだろう。

 

 ガシャンと、鎧の音が響く。

 一歩一歩、笠岡兜が黄鬼に近づいていく。

 

「次などない! お前はここで! 退治する! 三人の敵討ちだ!」

 

 笠岡兜は、三人の市町長がいた場所に黄鬼しかいない事実を、三人が既に殺されたと解釈した。

 怒りのままに手にした硬い剣は、斬るのではなく殴ることに特化しており、地面にぶつかって大きな音を立てた。

 

 黄鬼は三人を殺していない。

 逃げられた、というのが解釈だ。

 が、このまま笠岡兜が怒っていた方が限界を超えた力を引き出し、その力を受けきることで自身の成長につながるだろうという打算の元、否定をすることはなかった。

 

「ははは! 来い! 人間!!」

 

 黄鬼の光速の拳と、笠岡兜の斬らない刀が衝突する。

 ゴン、ガンと、鈍い音を出してぶつかり合う。

 一発一発の攻撃力は、ほぼ互角。

 が、黄鬼の手数は光速の手数。

 拳を当てた回数は、黄鬼が断然多い。

 とはいえ、笠岡兜の鎧は破れない。

 黄鬼の拳は、笠岡兜へのダメージにはつながらず、ただただ鈍い音を響かせ続ける。

 

「面白い! 面白いぞ人間! お前を倒せば! 俺は成長できる!」

 

 そして現状を、黄鬼は拮抗などと捉えていなかった。

 光速の相手を倒すために、光速にまで辿り着いたのが黄鬼だ。

 現在の攻撃が相手にとって無傷であろうとも、時間をかければ必ず進化し、破ることができると確信していた。

 

「ははははは!!」

 

「おおおおお!!」

 

 二人の攻撃が、激しく火花を散らす。

 

 

 

 

 

 

 一方。

 

「あらあら。ようやく到着したみたいね」

 

 吉備中央風太、井原電次、里庄椿の三人は、黄鬼から逃げることに成功していた。

 毒ガスの色と備中松山城の木々を利用し、黄鬼の視界から逃れ、山の頂上へと逃れていた。

 

「逃げるってのは、しょうにあわねえが」

 

「命あってよ。県知事だって、坊の死なんで望まないわよ」

 

「だが」

 

「あらあら。どうしても死にたいのなら、平時の時にしてくれる? こんな有事で町長選挙なんて、混乱しか引き起こさないわよ」

 

 不満げな吉備中央風太を、里庄椿が諫める。

 そして、先程までいた場所の毒ガスが散っていく様子を眺めていた。

 

「適材適所ってことよ。私たちにできるのは、足止め。毒を防ぐのは笠岡の坊が向いているし、黄鬼に止めを刺すのは……」

 

 里庄椿が、空を見上げる。

 つられて、吉備中央風太と井原電次も空を見上げる。

 透き通るほどに綺麗な岡山の空が、三人の瞳を吸い寄せた。

 

「あらあら。感じるでしょう?」

 

 心地よい風。

 小刻みに震える大気。

 

 里庄椿は、それが近づく気配を感じ取っていた。

 

「何がだ?」

 

「ふうむ?」

 

「あらあら。まだまだ、修行が足りないわね」

 

 里庄椿の言う、それとは何か。

 愚問だ。

 

 ここはどこか。

 ここは高梁市。

 登場人物が、一人足りていない。

 

「ああいや、やつが足りないな! そうか、近づいているというのはやつか?」

 

 井原電次が、少し遅れて気づく。

 歌舞伎という物語を知り尽くす彼にとって、登場人物と舞台を紐づけるのはもはや日常だ。

 

「何だと言うのだ!?」

 

 気が付かぬは、吉備中央風太のみ。

 

「すぐにわかるわよ。すぐにね」

 

 里庄椿はくすりと笑い、視線を下へと落とした。

 黄鬼と笠岡兜が戦っている場所へと。

 

 そして、これから起こるだろうことを予想し、両手を合わせて礼をした。

 

「さようなら、鬼さん」

 

 それは、敗者への敬意。

 これから散り行く黄鬼への、最後の情け。

 拝みである。

 

「いいや待て。あそこには鬼もいるが、笠岡の市長もいるんじゃないか?」

 

 思い出したように言った井原電次に対し、里庄椿は首を傾げた。

 

「あらあら。大丈夫でしょう。笠岡の坊なら。言ったでしょ、適材適所」

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