表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
現代解釈桃太郎 ~大都会鬼討伐戦記~  作者: はの


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

37/62

第36話 里庄町

(何故だ!? 俺の辿り着いた力が、こうもあっさり!)

 

 黄鬼の攻撃は、ことごとく里庄椿にいなされた。

 殴ろうが蹴ろうが、里庄椿の知識の前では掌の上。

 

 物理学とは、自然物や自然現象の仕組み、性質、法則性などを明らかにする学問である。

 つまり、物体そのものの解明。

 言語は国により変わり、歴史も国によって変わる。

 しかし、物理法則とは唯一無二。

 地球に――否、観測されている宇宙空間に存在する以上、あらゆるものが物理学の中に納まってしまう。

 

 速さ、時間、距離。

 物理学に精通した里庄椿の前では、あらゆる攻撃が予定調和でしかない。

 

「捨てろ! もっと! 甘えを!!」

 

 黄鬼は、自身に対してさらなる甘えを捨てさせる。

 だが、物理法則の壁は越えられない。

 里庄椿の知識の壁は越えられない。

 

 右から左から届く拳をいなしながら、里庄椿は吉備中央風太と井原電次の方へ向く。

 

「あらあら。私にばっかり働かせないで。ちゃんと貴方たちも働いてもらわないと」

 

 そして、ポケットから紙飛行機を取り出して、二人の方へと投げた。

 吉備中央風太と井原電次は紙飛行機を受け取り、中を開く。

 

「……これは、はれまにの作り方? 物理学的に、より硬度を上げる方法が書かれてやがる」

 

「ううむ。スペースデプリの落とし方も、だ。入射角を意識しなければ攻撃力の最大化ができないとは……いやはや。戦い中にここまで考えているか、恐れ入ったよ」

 

 二人の足は、自然と黄鬼の方へと向かう。

 

「…‥‥っ!!」

 

 一方の黄鬼はというと、里庄椿を止めることで精いっぱい。

 うかつにも、二人の足音に気が付かなかった。

 

 そんな黄鬼の横っ面に、吉備中央風太と井原電次は容赦なく攻撃を叩き込む。

 

「はれまに!」

 

「落ちろ!」

 

 地面から生える石の壁が、黄鬼の顎を撃ち抜く。

 宇宙からの飛来物が、黄鬼の額を撃ち抜く。

 

「ぐお……!?」

 

 突然の攻撃に驚いたのは、黄鬼だけではない。

 攻撃を放った吉備中央風太と井原電次が、何よりも驚いていた。

 里庄椿のアドバイスを受けただけで、明らかに威力の上がった一撃に。

 

「あらあら。手を止めちゃ駄目よ?」

 

 里庄椿が、ふらりと揺れる黄鬼の顔面を殴りつけ、地面へと叩き落す。

 黄鬼の頭がぶつかった地面は割れ、黄鬼はそのまま意識を失いかけた。

 

 

 

(ああ、俺はまだ、甘えていたのかもしれない……)

 

 

 

 かすかな意識が、黄鬼に何度目かの甘えを指摘する。

 

 黄鬼は、強くなっていた。

 地球に来たときよりも、はるかに。

 生物が、光速の動きにまで到達したのだ。

 その成長は、甘えがあればできようはずもない。

 

 それでも、黄鬼は甘えていたと自分に言い聞かせた。

 何故なら黄鬼は、自分一人の力で戦っていたのだから。

 

「あらあら。じゃあ、止めを刺しますよ」

 

 里庄椿は手を緩めず、仰向けに倒れた黄鬼に近寄った。

 

 黄鬼は里庄椿の接近を確認し、自身の腹をグッと抑えて胃の中に隠していた物を取り出した。

 

「あらあら……それは!?」

 

 黄鬼が隠していた物を見た瞬間、里庄椿は余裕の表情を崩し、顔を青くして後退する。

 近くに立っていた吉備中央風太と井原電次の手も掴み、三人で黄鬼から離れる。

 

「? なんで下が」

 

「毒ガスよ!」

 

 黄鬼が口の中で噛んでいるカプセルは、銃弾のように小さく、しかし透明なケースから覗くガスはあまりにも毒々しい色をしていた。

 対人間殲滅用毒ガス。

 鬼には効かず、人間を即死させる効果を持つ。

 

 個の戦いにおいて、自身の肉体的強さに依存しない武器を使うことは、鬼にとって恥以外の何物でもない。

 自分の力では相手に勝つことができません、と明言しているようなものだからだ。

 

 しかし、黄鬼は例外。

 黄鬼は、そんな考えを甘えと捉えた。

 勝つためならばどんな努力も、どんな方法もとるべきで、自分の力で戦いたいという鬼の考えそのものが甘えだと。

 

「ああ! 使いたくはなかったが! 仕方ねえな!!」

 

 黄鬼は、口の中のカプセルを思いっきり噛み砕いた。

 カプセルが割れて、周囲に毒ガスが充満する。

 透明な空気中を、毒々しい紫色に染めていく。

 

 空を飛んでいたカラスが一羽。

 毒ガスを吸い込んだ瞬間に、絶命し、落下した。

 

 べしゃりと落ちた烏を見ながら、里庄椿は表情を歪める。

 

「里庄さん、あれ、どうにかできますかい?」

 

「あらあら……。無理、ね。私、毒は専門外だもの。特定の毒の広がる範囲から、粒子の個数と質量を逆算して、どの程度の風力をどの角度で当てれば安全に霧散できるか計算はできるけど」

 

「じゃあ、それで!」

 

「でも、私毒に詳しくないから、肝心の何の毒かがわからないの。地球上に存在しない毒だと、学校でも習ってないだろうし。あらあら、どうしましょう」

 

 物理学とは、自然を理解する学問だ。

 自然を超えるための学問ではない。

 

 対し、毒とは自然そのもの。

 虫や魚の生み出す毒。

 キノコや花が生み出す毒。

 生き延びるために生み出された、自然の欠片。

 

 自然が、学問に牙を向く。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ