ミハエラの家族
「ここは龍の国です。何でここに来れたんですか?ここは地中深くにある国で人間が転移を使っても来れるような場所じゃないんです」
「ミハエラと俺の魂は繋がってるんだぞ?痕跡をたどるなんて俺が本気を出したらこんなもんだ」
「レベルが違うんですね。なるほどなるほど。で、場所を教えましたから「無事でよかった」の意味を教えていただけますか?」
「いや、なんてことはないんだが・・・」
ホレスは手紙の内容を話す。ミハエラの顔がどんどん曇っていった。
「なにが「なんてことはない」ですか・・・。その鱗、持っていますか?」
「え、ああ。これだ・・・」
ポケットから手紙と鱗をミハエラに渡す。震える手でミハエラはそれをうけとって膝から崩れ落ちた。
「兄様・・・」
「兄様って・・・」
ホレスはなんとなくだが状況を把握し、ミハエラに近寄って背中を撫でた。
「俺が無遠慮だった。すまない」
「この手紙の持ち主、誰か分からないんですか!」
ホレスはただ首を横に振ることしかできない。ミハエラは急に顔をあげて天に向かって叫ぶ。
「母様、父様、出てきてください。この方は危険ではありません」
ミハエラが空に向かって叫ぶと赤い鱗をもった龍と緑の鱗を持った龍が上から降りてきた。
凄まじい風圧にホレスは少しよろけてしまう。そして、その龍は地面についたかと思うと人型になった。
「わが娘にミハエラという名付けをしてくれた方だな。感謝する」
「いや、そんな感謝されることでもないんだが・・・」
「いや、あなたのおかげでミハエラは解放された」
「いや、俺がミハエラに感謝したいくらい世話になってるから、お互い様だと思ってくれ」
「いや、そう思うわけにもいかないんだ」
「いや、思ってくれ」
「いや、思わん」
「ホレス様もと父様も頑固なんだからっ!とりあえず、座ろう?」
「ミハエラ、我々は龍だから家はないし、座るところもないぞ?」
不思議そうに首をかしげる。
「あなた、今から作りましょう!」
ミハエラの母親は楽しそうに森の木をいじって30秒もしないうちに家を作り上げてしまった。
「さ、入って入って!」
ぞろぞろと家に入る。
(驚いたな。ここまで魔力の操作が精密とは・・・)
家の中はしっかりとソファや時計、必要な家具が置かれていた。
ツタで作られたソファの座り心地は想像以上によく、ずっと気を張り詰めていたホレスはようやくリラックスすることができた。
「本題に入りましょう」
各々好きな席に座り話し合いを始める。
「まず、自己紹介から。ミハエラの母、エルシィです。よろしくね」
「ミハエラの父、ビルだ。よろしく」
「ミハエラの主、ホレスだ。よろしく」
「ねえ、その自己紹介の仕方なに?なんか、うん・・・むずがゆい。私の自己紹介はいらないよね。みんな知ってると思うから」
「にしてもびっくりよ。お兄ちゃんが行方不明になったからこっちに来てって言ってきてもらったけど・・・まさかあなたがヒト型になってるとはねぇ。家出して、なにしてるのかと思ったらいろいろあったみたいだし」
そう言ってチラリとホレスを見る。
「ミハエラ、この機会に家に帰ってこい。今、いろいろと物騒だからな」
「ちょっと、父様!私は家に帰る気なんてないから!そんな話するために帰って来たわけじゃないの!」
「まだ、反抗期なのか。今はそんなことを言ってる余裕はないんだ。言うことが聞けないなら力ずくでやらせてもらうぞ」
「やってみなよ。いつもいつも力ずくじゃない」
「そうか」
ビルは頷いて椅子から立ち上がり、ありえない速さで動く。
ミハエラは衝撃に備えて目をつむるが一向に衝撃は来ない。
「おいミハエラ、いつも教えているだろう。最後まで相手の動きを見ろ、と。目なんかつむるな」
ゆっくり目を開けるとビルの拳を手一つで受け止めているホレスの背中が見えた。
「ほお。俺とやるきか?」
ビルが面白そうにホレスに尋ねる。
「ミハエラに手を出さないと誓うならな」
「それはミハエラ次第だ」
ニッと笑って次の攻撃を繰り出してくる。
「そうか」
ホレスはそれを受け流して、反撃を始めた。