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12,「いい人! タケット、いい人!」。

 

 いやね。

 最終的には、魔王さんを殺していたとは思うんだ。


 ただやっぱり、魔王の間とかで倒してあげるのが、筋というものだと思う。

 ところが、まさか便所でっちゃうとは。


 さすがに、おれの良心が痛む。


「いやぁ、すいません。なんか小便中に後ろに立たれたもので、つい。雑魚モンスターだとばかり思って。悪気はなかったんですよ」


 おれが弁解したところ、魔皇妃の側近に睨まれた。


「愚かなことを言うな。貴様のような半魔物に、我らが魔王様を殺せるはずないだろうが」


 それから、いまだ号泣中の魔皇妃に向かって、


「魔皇妃さま、我らが魔王さまが討たれるとは。これは勇者の仕業に違いありません!」


 そういえば、こっちは偽装ステータスのままだったな。

 しかもイチゴの下僕という設定だし。

 おれが魔王を殺ったと言っても、信じてはもらえないか。


「あのー。ちょっとイチゴ、じゃなくてストロベリー閣下とともに、勇者を迎え撃ってきますね」


「おお、頼めるかぁぁ、あなたぁぁぁあ」


 と魔皇妃がおいおい泣く現場を後にして、おれは貴賓室に戻った。

 イチゴがソファに座って、出された菓子を食べながら、実にくつろいでいた。


「よーし。勇者を倒すぞー」


 イチゴが驚いた様子で、


「え、タケト様。一体どうしたんです? おしっこ行くまでと、言っていることが違うんですけど」


「あのなイチゴ、『男子三日会わざれば刮目して見よ』という慣用句もあるだろ」


「三日というか、三分くらいなんですけど」


「分かった、話そう。まずおれは小便をしていたんだが」


「いちいち報告してくれなくていいですよ。タケト様の脳内にいるとき、何百回と見ましたから」


 こいつ、腹立つ。


「で、後ろを触手の魔物が通りかかった。『うごー』とか言いながら」


「見るからに雑魚っぽいですね」


「ところが雑魚じゃなかったんだな、これが。なんと魔王ゾルザーギだった」


「魔王のくせに『うごー』とか言っていたんですか。悲しいです、わたしは」


「『うごー』のことはもういいんだよ。というかなぜ、お前が悲しむ」


「それで魔王ゾルザーギと話されたんですか?」


「そこが問題だ。小便中に後ろで『うごー』と言われたものだから──」


「あ、まさか問答無用で、殺したんじゃ」


「その、まさかだ」


「うわぁ。それは鬼ですね悪魔ですね、さすが我らのタケット!」


「なんか悪いことした感じだから、勇者くらい追い払ってやろうと思う」


「いい人! タケット、いい人!」


「……あれ、ひとり足りなくね?」


 いまさら気づいたが、アーダがいないんだけど。


「アーダさんも、おしっこらしいですよ」


 いや、あいつ絶対、トイレじゃないだろ。

 勇者の一行を迎え撃ちに行っただろ。


「おれたちも行くぞ、ストロベリー閣下」


「へーいです」


 イチゴを連れて、城内を移動。

 戦闘している気配を感知して、向かう。 


 城の前で、魔族と人間が戦っていた。アーダの姿はないので、別の戦闘ポイントに行ったらしい。


「人間サイドに、一人だけ飛び抜けたステータスの奴がいるな」


 この世界でレベル120とは、なかなかだ。


「さては勇者か。行くぞ、ストロベリー閣下」


「へーいです」


 こいつ、どんどん態度が悪くなってるんだけど。


 イチゴの襟首をつかんで跳躍。

 勇者疑惑の人間の前に着地した。


 紫色の髪をサイドテールにした、10代の女だ。やたらとでかい剣を振り回している。


「あんたが勇者だな」


「貴様らは何者だ?」


 と、相手の勇者疑惑の女。

 おれはイチゴを前に押し出して、


「こちらが大魔王ゾルザーギ四天王の一角を誇る、ストロベリー閣下だ!」


「え! わたし、そんなポジでしたっけ?」


「我こそが、勇者ドロシーの生まれ変わり、勇者アリスだ!」


「いや生まれ変わりって、まだ当人、生きてるんだけど」


 さらに言えば、地球を滅ぼしかけたりしていたけど。いまは子育て中で──


 そうだぁぁ、オムツだぁぁ。忘れてたぁぁ。


 そのとき異世界でも使えるスマホに着信が。

 ドロシーからだ。さては催促の電話……


 あとイチゴが、勇者アリスに殺されかけている。


「タケットぉぉぉ、こっち忘れないでくださぁぁぁぁい!!」



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