11,悪気はなかった。
大歓迎されたイチゴとともに、貴賓室を与えられた。
「しかし、おれたち、何しにきたんだっけ」
「たしか師匠、魔王をボコって≪幽冥ダンジョン≫の在処を聞き出すのでは?」
うーん、いやそうなんだけども。≪幽冥ダンジョン≫が行くことが最終目的ではなかったような。
何か重~要なことを忘れているような気がしてならない。
「とにかく魔王を探してボコるか」
イチゴがつんつんとつついてくる。
「待ってくださいよ、タケト」
「地味に『様』抜きされたところに、地味に腹が立つ」
「わたし、せっかくレインボーな一族として待遇がいいんですから、もう少し様子見でいきましょうよ。というか、みなのものわたしを崇めろ、とかやらせてくださいよ」
「案内係時代も、モンスターとか従わせてなかったっけ?」
「従わせてないですよ。一般の案内係は冒険者のサポートに過ぎんですよ。わたしは【神に愛された案内係】として特別枠でしたけど、そこは影の実力者ポジでしたからねぇ。誰も崇めてくれなかったです。たまにトイレ掃除とかさせられたです」
それ、影の実力者ポジでさえないんじゃないか。ただの雑用じゃないか。
とか話していると、城内が騒がしくなってきた。
魔族の一体が貴賓室に駆けこんできて、
「た、大変ですストロベリー閣下! 勇者の一行が、王都奪還のため攻め込んできました!」
イチゴはどうでも良さそうに言った。
「へぇ、そうですか。大変そうですね」
完全に他人事モードである。まぁ他人事だけどな。
「実はいま、魔王様は王都にいらっしゃらないのです。そこで魔皇妃さまは、ストロベリー閣下にお願いしたいと」
「はぁ。何をです?」
「勇者一行を追い払っていただきたいのです!」
腹をかかえて大笑いしだすイチゴ。
「面白い冗談ですね!」
「いえ冗談とかじゃないんですが。ストロベリー閣下には、レインボー一族の力を解き放ち、是非とも勇者一行を滅ぼしていただきたい!」
「……」
魔族が立ち去ると、涙目でおれを見てくるイチゴ。
「タケト様ぁぁあ、魔族のアホどもに無茶ぶりされましたぁぁぁ」
「知るか。にしても、魔王は不在か。じゃ王都にいても仕方ないな。ここの解放は勇者とかに任せるとして、もう行こう」
アーダがチェンソーを取り出して、
「しかし勇者がいたのだな、この世界にも。手合わせ願いたい」
「こらこら、お前、すっかりモンスター思考が入ってるぞ」
「あ、そうですよ。アーダさんが、どこぞの勇者を潰してくればいいんですよ。そうして、わたしの手柄にするのです。イチゴ万歳です」
「お前はお前で、どこを目指しているんだ。ちょっとトイレ行ってくるけど、二人ともおかしなことするなよ」
貴賓室を出て、トイレをさがして城内を歩く。
ようやく見つけたので、小便器の前にたって用を足す。
壁が破壊されて、なんか異形な物体が入ってきた。
数多の触手を蠢かせながら、『うごー』とか言いつつ、這ってくる。
おれは小便しながら思った。
いま入ってきた触手の魔物にぶつけられて、狙いを外し、ズボンを汚したらどうしようと。赤っ恥ではないか。
そこで背中から《絶命の牙》を伸ばして、後ろで蠢いている触手の魔物を刺し貫いた。
「よーし。これで一安心だ」
膀胱を空にして、ちゃんと手も洗う。中世風の世界だが上下水が完備されているとは、偉い。
さっき刺し貫いた触手魔物の死体を蹴とばしながら、廊下に出た。
ちょうど避難中の魔皇妃と遭遇。
「あ、魔皇妃さん」
魔皇妃は、おれの足元の死体を見て叫んだ。
「あ、あなたぁぁぁぁぁぁ!」
「はっ?」
魔皇妃と同行していた側近たちも、叫び出す。
「そんなぁぁぁあ! 魔王さまがぁぁぁぁぁぁ」
えー。いまさっき殺した触手の魔物、これが魔王ゾルザーギだったの? 『うごー』とか、雑魚っぽいこと言っていたのが?
触手の魔物──つまり魔王の懐から、花束が転げ落ちてきた。
魔皇妃がさらに大号泣。
「あなたぁぁぁ」
側近の魔物もやっぱり嘆き悲しむ。
「あぁぁぁあ魔王様は、サプライズで帰還して、魔皇妃さまを驚かせようとしたのだぁぁぁ! プレゼントの花束までもっていたのにぃぃぃぃぃぃ!」
「……まって。これ、おれのせい?」
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