10,イチゴ改めストロベリー閣下で。
王都に入るぞー。
ただし王都内は魔族がゾロゾロ歩いている。
「潜入スキルでも使うかね」
「タケト様は魔神ですし、普通に入っていっても同類としてスルーされるのではありませんか?」
「魔神設定をいつまで引きずるつもりだ」
「称号としてもらっているんだから、タケト様が死ぬまでです」
だがイチゴがそう言うなら、わざわざ潜入スキルを使うまでもないのか。
アーダもオーガなので、魔族の親戚のようなものだろうし。
そこで堂々と入ったところ、5秒で魔族どもに囲まれた。80体近くはいる。
「見ない顔だな!」
「侵入者だ!」
「八つ裂きだ!」
「殺せ!殺せ!」
「おいイチゴ、話が違うじゃないか」
アーダがチェーンソーを取り出し、
「師匠。ここは私が、8秒以内に皆殺しにする」
いまのアーダなら有言実行するだろうが──その前に、魔族の一体が何かに気づいた。
「あ、まて! その虹色の髪は、あなたは──魔皇妃殿下の親戚の方ですか!」
イチゴが「ほげっ?」という顔をする。
「わたしですか? 確かに、わたしは『天才で美女なイチゴ大先生』とよく言われますが」
「誰も言ってねぇよ」とおれ。
魔族たちが、あろうことかイチゴの前に跪きだした。
「これは失礼いたしました! 魔皇妃殿下のご一族の方とは知らずに、ご無礼を働きました! お名前をうかがっても?」
イチゴは胸を張った。
「私の名は、ストロベリーです!!」
まて、なぜ英語にした。
「おおストロベリー閣下!」
そして這いつくばる魔族の連中。
「してストロベリー閣下、そちらの半魔族どもは?」
おれとアーダのことらしい。半魔族って、どういう扱いだ。すでにアーダが健康的に殺意をみなぎらせている。
「この2人は、わたしの下僕どもでーす!」
と調子に乗るイチゴ。
「誰が貴様の下僕だ」
アーダがガチで首を斬り落とそうとするので、おれは《固定》で止めておいた。
「心を広くもて、アーダ。ちょっとは許してやれ」
「師匠がそう言うのなら」
イチゴがおれを指さしてきて、
「こっちの男はタケトといって、わたしの洗濯係でーす。わたしの靴下を洗わせるのですよ」
「分かったアーダ、殺せ」
「了解した」
まぁ《固定》は解除しなかったけどな。イチゴめ、おれの心の優しさに感謝するがいい。
その後、ストロベリー閣下と下僕のおれたちは、魔族どもに案内され王城へ。
いまは魔王が支配しているので、魔王城だな。
魔石造りの階段を上がりながら、イチゴが困った様子で囁いてきた。
「タケト様。あのー、どこに連れていかれているんですか?」
「魔皇妃のもとにじゃないか」
「えー! それってつまり、魔王の奥さんですか?」
「だろうな。どうやら虹色の髪が同じらしいぞ。だから親戚と間違えられたんだろ」
「まーたバッタもんですか! このわたしの唯一無二のレインボーな髪をパクるとは!
かつて≪樹海ダンジョン≫にいたころ、わたしを尊敬する案内係の部下たちも、誰一人として、わたしのこの髪の色は真似しませんでしたよ! もちろん、それはわたしへのリスペクトがあるからこそです」
それ、たんにレインボーな髪色なんかしたくなかっただけでは。
こうして謁見の間に到着。
魔王の姿はなかったが、かわりに魔皇妃とやらはいた。
妙齢の美女であり、髪の色は黒。レインボーではない。しかし発せられるオーラが、紛うことなき虹色である。
そうか、魔王の嫁さんはレインボー一族なのか。
魔皇妃は、イチゴを冷ややかに見る。
「その者はなんだ?」
魔族の一人が紹介。
「ストロベリー閣下でございます! えーと、魔皇妃殿下のご親戚の方では?」
すぐに否定されて、戦闘に突入だなぁ。
そんなことを呑気に考えていたら、展開は想像の斜め上へ。
魔皇妃は、イチゴをまじまじと眺める。主に、そのレインボーな髪を。
「わらわはそなたを知らぬが──確かに、そなたの美しい虹色の髪色は──レインボー一族の証!! おお、こんなところでわらわの同族に出会えるとは。ストロベリーよ、よくぞ参った!」
イチゴが、おれに向かってガッツポーズしてきた。
いやまて、お前はどこに向かおうとしている。
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