新しいお役目様と私
後日。
私は御影様のお母様からお招きを受け、室生家ではなく白川家の本邸へと足を運んでいた。
通された客間には上等なお茶と美しいお茶菓子が並べられている。私がこの家で心から歓迎されていることは、肌で十分に感じ取れた。
「全く、初音さんには驚かされるわ。……良い意味でよ?」
お母様は優雅に湯呑みを置くと、ふぅっと息を吐いた。
「御影の過去の恥部をほじくり出して、光をわざわざ探し出したと聞いた時はね、このお嬢さんは一体何をしてくれるの、と思ったのよ。正直、内心では良く思っていなかったわ」
「あ、申し訳ありま……」
「でもね」
お母様は私の言葉を制し、穏やかな目を向けた。
「結果として、次期お役目との決定的な繋がりができた。それを何の策略も巡らさずにやり通してしまうなんて……まるで鮮やかな手品を見ているようだったわ」
さすがの貫禄に圧倒され、私は思わず恐縮して首を横に振った。
「いえ、あの……先々の結果を計算して動いたわけではないんです。ただ、御影様のお子さんが無事に生まれているのなら、きちんと保護して、手厚い環境で育ててあげないといけない。そう思っただけで。……まさか、光くんが次期お役目様に選ばれるだなんて、夢にも思っておりませんでしたから」
「…………ふふっ。そこが、あなたが屋敷神に気に入られる所以なのね。よくわかったわ」
お母様は憑き物が落ちたように微笑むと、隣に座る息子へと視線を移した。
「御影、本当に良いお嬢さんを選んだわね。今回だけは、あなたを褒めてあげましょう」
「ああ。全く、初音には感謝しかないよ」
御影様は愛おしそうに私を見つめ、深く頷いた。
光くんを探し出して以来、彼は私に対して常に深い敬意を持って接してくれるようになった。事あるごとに「天然」だと私をからかっていた頃の彼は、もうどこにもいない。
*****
光くんは今、療育に通いながら、少しずつ外の世界に触れている。
先日は、室生家の庭に出て、初めて池の鯉を見た。水面に手を伸ばして、ぱしゃりと跳ねた水に目を丸くしていた顔が、今も忘れられない。
いくら尊いお役目様とはいえ、ずっと屋敷の奥に閉じこもっているべきではない。これからは外の世界をたくさん見て、学んでいかなければならない時代だと、私は思うのだ。
光くんが立派に成人するまでは、ハザマ様がお役目様の代理を務めてくださることになった。
私は無事に大学を卒業し、光くんの専属のお付きとして室生家で働いている。奨学金の返済も、毎月欠かさず続けている。
籍こそ入れていないものの、愛する御影様の実質的な妻として、穏やかで満たされた日々だった。
——そして今、私のお腹には、御影様との間に授かった新しい命が宿っている。
そっと手を当てると、まだ何も分からないはずなのに、ほんのり温かい気がした。
あの不思議なハザマ様との出会いから始まり、いくつもの打算や回り道を経て、私はここまで辿り着いたのだ。
余次元住まいのハザマ様!part7
御影の光 編<完>




