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魔、降る夜  作者: 夢出 啓示


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30/30

30.エピローグ

 十カ月後、総合病院マタニティセンターの廊下で、忠通と学は緊張した面持ちで長椅子に座っていた。


 分娩室と書かれた扉を、荒い息づかいで見守りながら、男二人は手に汗を握り、ただ待つ事しか

出来ない無力さを味わっていた。


 出産は悠久の歴史の中で女性だけが果たしてきた人類存続の要だ。


 そして男たちは新しい命が無事生まれてくることを、傍で祈って待つしかない。


「新しい命を生み出せる女性は、神様と同じだよな」


 学が天井を見上げて呟いた。


「確かに。元々、香帆は女神様だったけど、本物の女神様が憑依したからな。それに香帆の中にまだ

マザーがいらっしゃる感じがするよ」


「俺もそうだよ。実際、愛ちゃんはマザーの残った分身を返していないからね」


 男二人は静かに唸った。


「俺たちは男神ではないから、ナイトとして愛する女神と、生まれてくる子に一生尽くすんだな」

「その通り」


 二人は笑った。


 あの夜、愛し合った記憶は夢の中の出来事だと今でも思う。


 傍にいるのに遠い存在だった香帆が、あの日から一緒に居るのが当たり前になった。


 そして燃え上がった勢いのまま、一か月後には約束を果たすべく、二組同時に結婚式を挙げた。


 そして今朝、女神を愛した男同士は、産気づいた妻を車に載せて、病院の車寄せで鉢合わせした。


 四人は驚きと共に、何度も重なる偶然を抱き合って喜んだ。


 緊張がピークに達したとき、分娩室から元気な産声が響いた。


 忠通と学が顔を合わせると、また別の元気な産声が聞こえた。


「生まれてくるときも一緒なのか……」

 

 二人が眼を丸くしていると分娩室の扉が開き、看護師が微笑みながら現れた。


「元気な赤ちゃんが生まれました。母子共に問題ないのでご安心ください」


 虚脱感に包まれながら二人は固い握手を交わした。


「男の子か女の子か言ってた?」


「言ってないね。あれはきっと口止めされているよ」


「そうか」


 三十分後、案内された病室にはベッドが左右に並び、香帆と愛がベッドの上で赤ちゃんを抱いて

二人を迎えた。


「無事に生まれて良かった」


 男二人が同じ台詞を同時に言うと、香帆と愛は声を出して笑った。


 忠道が赤ちゃんの顔を覗くと、ぱっちりとした眼を開け、キャキャと声を上げて微笑んだ。


「女の子?」

「そう、二人共可愛い女の子よ。さあ抱いてあげて」


 忠通がぎこちない手で赤ちゃんを受け取り、両手で抱き上げ、顔を近づけた。


「初めまして。パパだよ」


 微笑む忠通の顔に、赤ちゃんは両手を伸ばして頬に触れた。


 小さな手から伝わる温もりが、忠通の心の中を愛おしさで一杯にした。


 忠道と学は向き合い、抱いたお互いの愛娘を近づけた。二人の女の子は双子の様に瓜二つだった。


「俺は、香帆と貴女を一生守るからね!」

「俺も、愛と貴女を一生守る」


 忠道と学は顔を合わせた。


「俺の台詞、マネするなよ」

「一度、言ってみたかったんだ。許せ」


「そうか、じゃあ許す」


 女の子二人は会話が分かったかのように微笑んだ。

                                      了


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