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第252話 今度来るときは

「あっ、それから」


看護師さんが、何かを思い出したように言った。


「メンタルの会のことなんだけど、明後日の日曜日、夕方から開くことになったの」


「そうなんですね」


彼女が答えた。


「これ以上、お休みするわけにもいかなくてね。


集まるのを楽しみにしてくれている人たちもいるから……」


すぐに彼女が言った。


「私、お手伝いしますからね。


この前、いいって言ってくださいましたよね?」


「うん。ありがとう。頼むね」


私も口を挟んだ。


「私も、メンタルの会のメンバーですよね。


一回しか参加していませんけど」


「そうだったね。


今度、二人をみんなに紹介するよ。


私の大切なお友達だって」


私は、少し不安になった。


「あの……メンタルの会では、話したくなかったら、何も話さなくていいんですよね。


私、人前で話すのが苦手なので……」


「もちろん。


誰も無理に質問したりしないから、安心して。


それは、みんなで大切にしているルールなの。


話したい人だけ、話せばいいんだから」


看護師さんは続けた。


「私は、ついいっぱい話しちゃうけどね。


ほとんど聞いているだけの人もいるの。


でも、それでいいと思ってる。


来てくれるだけで、私は嬉しいんだよ」


私は、看護師さんの顔を見ていた。


また、この人のようになりたいと思った。


誰かの支えになる。


そんな生き方を、私もしてみたい。


心から、そう思った。


その時、看護師さんのスマホが鳴った。


「もしもし。


うん、大丈夫……


えっ、マスカット?


うん、わかった。


ありがとう」


誰からだろう。


電話を切った看護師さんは、少し嬉しそうだった。


「オーナーさんからだったの」


私たちは、看護師さんを見た。


「娘から、オーナーさんに電話があったんだって。


それでね、私に伝えてほしいことがあるって……」


「何ですか?」


彼女が尋ねた。


「今度、お母さんが来るときには、マスカットを持ってきてほしいって」


私は、思わず看護師さんの顔を見た。


「それって……」


「うん」


看護師さんは頷いた。


「私に、来てほしいってことなのかな……」


彼女が言った。


「そうですよ。


きっと娘さん、お母さんに会いたいんですよ」


「そうだといいんだけどね……」


看護師さんは、嬉しそうに目を伏せた。


「明日、マスカットを持って行ってみるよ」


私は、思わず言った。


「また、ついて行ってもいいですか?」


「うん?」


「娘さんには会いません。


ただ、ついて行くだけです。


あそこのロビー、落ち着くんです。


あそこで小説を書きながら待っていようと思って」


看護師さんは、私の顔を見た。


「やっぱり、そういうことだったんだね。


あなたが小説を書くのね。


彼女をモデルにして」


「あっ、はい」


私は頷いた。


「出来上がったら、娘さんにも読んでもらえたらと思っているんです」


「そうだったの……」


看護師さんは、しばらく黙っていた。


「娘に書いてくれるって言ってた手紙が、小説になったんだね」


「はい。


最初は手紙を書こうと思っていたんです。


でも、考えているうちに、もっと長い文章を書いてみたくなって……」


「小説か……」


看護師さんは、何かを思い出すように言った。


「娘は、子どもの頃から本を読むのが好きだったの」


そして、私を見た。


「ありがとうね。


いろいろ考えてくれて。


嬉しいよ」


「いえ、まだ一文字も書いていないんですけど……」


「あっ、そうか」


看護師さんは、急に何かに気づいたようだった。


「それで、あのタイトルなんだ。


『屋上に神様が舞い降りた』」


「はい……まあ、そんな感じです」


私は、少し落ち着かなくなった。


「じゃあ、ももとカールも登場するのかな?」


「はい。もちろんです。


台詞はないと思いますけど」


彼女が、楽しそうに声を上げた。


「えー、カールにも台詞をつけてあげたら?」


「犬がしゃべったら、おかしいでしょ」


そう答えると、彼女は笑っていた。


私は看護師さんに向き直った。


「娘さんに読んでもらう前に、看護師さんにも見てもらいますから。


安心してください」


「うん。楽しみにしてるよ」


すると、彼女が言った。


「私も、この子が小説を書けるなんて、全然知らなかったんです」


「えっ?」


私は、思わず声を上げた。


「私、小説なんて書いたことないよ。


初めてだよ」


「えっ!」


今度は、二人の声が重なった。

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