三姉妹こども塾
本日の、三人娘こども園の保育の部の業務は、朝のラッシュ時間帯が終わり、小康状態となった。
今日から、忘れ去られていた執事のトマスの婚約者であるキャロラインさんも、参戦。
そのキャロラインさんは、昨日までの俺の代役として、フィオナちゃんの支援を如才なくこなし、今は、園児たちのお世話と見守りを一手に引き受けている。
と、いう事で。
今から、三人娘と三姉妹に近所の年長のお子様たちを加えたメンバーを対象とした、三人娘こども園の初等教育部門である三姉妹こども塾の、開講となった。
* * * * *
まずは、初日の最初の、一時間目。
読み書き算盤の、読み書き。つまり、国語の時間。
俺が生産職プレイヤーに依頼して特注で作って貰った大きな黒板とチョークを使い、こども園の校舎の二階にある教室で、授業を行う。
生徒たちには、ノートの代わりに、画板サイズの小型の黒板とチョークを配布した。
残念ながら、紙は高価なので、文字の練習用としては使えないのだ。
先生役が大きな黒板に文字や単語の見本を書いて説明し、生徒が手元の小さい黒板で練習する。
生徒たちは只管、黒板に、書いては消して、書いては消して、の繰り返しだ。
今日の先生役は、ラナさん。
フィオナちゃんとリナちゃんは、既に一通りの文字の読み書きは出来るので、今日は、読みやすい綺麗な文字を書く練習が主体となる、そうだ。
あと、教える内容と順番や教え方など、先生役のノウハウ修得も、主要な目的の一つとなっている。
ので。フィオナちゃんとリナちゃんも、真剣だ。
みんな、真面目に、ラナさんの話を聞いて、ラナさんの書く黒板の文字を見て、勉強している。
そう。相変わらず、ラナさんの、煽り文句はうまい、のだ。
文字が読み書きできないと将来困ることと、出来ることのメリットなどを、子供たちの興味を引く話題を織り交ぜながら話すので、当初はやる気満々とは言い難かった男の子も、途中からは真剣な顔になって取り組んでいるのだ。
うん。みんな、頑張れ。
四十分で、一時間目は終了。
二十分ほど、休憩時間として、校庭の一角の端側に設置した遊具を案内、開放した。
今日はまだ、三人娘と三姉妹に数人のご近所の同年代のお子様が加わっただけ、なので喧嘩にまでは至らなかったが、遊具の順番待ちには焦れている子供も居たので、今後の課題、だな。
続いて、二時間目。
読み書き算盤の、算盤にあたる計算。つまり、算数の時間。
今日の先生役は、俺。
ただし。明日からは、フィオナちゃんとリナちゃんに、お任せする予定だ。
という事で。
まずは、ウォーミングアップも兼ねて、お子様たちにどの程度の学力があるのか、確認しておくことにする。
カツ、カツ、カツ...。
と、簡単な、一桁と一桁の足し算と引き算の問題を、黒板に書く。
「はい。答えが分かる人は、右手を真っ直ぐ真上に挙げて!」
セリシアちゃんが、ニコニコ笑顔で、さっと手を挙げる。
が、無言。
「あ。えっと、右手を真っ直ぐ挙げて、はいっ、と元気に声を出す!」
「はい!」
セリシアちゃんが、元気な声をあげて手を挙げた。
「じゃあ、セリシアさん。前に出て来て、一番目の問題の答えを書いて下さい」
「はい、アッシュさん」
「えっと...。授業中は、先生、と呼ぶように」
「はい、先生」
セリシアちゃんが、とことこと前に出て来て、大きな黒板にチョークで答えを書く。
書き終わってから俺の方を見たので、頷いて、席に戻っていいよと目線で合図する。
「セリシアさん、ありがとう。うん、正解だね。よく出来ました」
「わぁ~い」
「では、他に、残りの問題の答えが分かる人はいるかな?」
「「「はい!」」」
ルナちゃんと、レナちゃんと、レベッカちゃんが、元気に手を挙げる。
三人の中で最初に手を挙げたのは、次女のルナちゃん。
「では、ルナさん。二番目の問題の答えを書いて下さい」
「はい!」
と。
順番に、子供たちを指名しながら、問題の難易度を上げていく。
その結果から、子供たちの計算能力を推定すると...。
全員が、数字の読み書きには問題なし。計算は、指折り算をしている子も居たが、足し算と引き算は正しく理解できていた。
ので、まずは、足し算引き算のスピードアップと、掛け算のための九九の暗記から、であろうと想定。
買い物や商売に必要なのは、理論より実践。質より量なので、数をこなして速度アップと誤答の撲滅を目指す、と方針を決定する。
その手段は...。百マス計算、の入門編としての、二十五マス計算、が良いだろうか。




