これからの運命、守られたメリッサの運命
徹夜の会議は続き、質問もある程度まとまったが、ほとんどがゼルクに弾かれ、不満は相当あるものの、ひと段落ついた。
やがて明日の調査に同行させるメンバーを絞る段階に入り、
「明日は白銀からは俺とエドガー、調査員側からは、今までの記録を追えている者と昨日映像を撮った者は残してください。あとはギルド側から数名と雑用を任せられる方ですかね」
「失礼、白銀の戦慄のメンバーは3人ですよね?もう1人の方は?」
「万が一に備えて、既に王都へ帰還し、白銀のメンバー2名を連れて来て貰います。また王都のギルドと危機管理局でSランカー認定か厄災指定にするのか早急に話し合わないといけないので」
「本気で言っているのか?」
「本気にならない根拠は?」
「リーダー落ち着けって、人はある程度のキャパ超えたら戻るんだよ」
「進まないでしょ、それじゃー」
「だから、リーダーが進めて進めて」
「わかったよ」
「すまない。では、受付ならメリッサはどうですか?彼女は優秀です」
「メリッサさんは外してください。彼女が優秀なのは知っていますが外します」
「わ、わ私できます! やらせてください!」
「俺もメリッサさんとは、全く知らない仲じゃないので、彼女が優秀なのは知っています。
ただ、映像を見る限りグレンさんにかなり強い警告を出しています」
「……」
「あの時の判断が間違っていたとは思ってません。あの状況なら、ギルド職員として止めるのは当然でしょう」
「なら、何故です?」
「今は、グレンさん、いやサリーさんの印象を悪くしている可能性がある人間を出したくないのです。『気分が悪い』と、言われ街を消されても困るので」
その言葉に、誰かは反論しようにも、この数時間で同じやり取りを繰り返してきたのでやめた。
「俺たち白銀は、最初からグレンさんたちを怒らせたくない領域にいます。あなた達もやっと近付いてきましたね」
メリッサの顔は青白く、当然反論などできないまま、黙って俯くしかなかった。
徹夜明け、まだ空が明るくなる前、メリッサはギルド併設のカフェで1人コーヒーを飲み考え込んでいた。
既に喧騒はかなり収まっており、ギルド内にはまだ人の気配が残っているものの、時折声をかけられるだけで、自分の席の周りには誰もいない。
頭から離れないのは、ゼルクの言葉と、グレンに向けてしまったあの警告だった。
あの時は、ギルドの品位を守るため、グレンやサリーを止めようとしたことは、あの場では必要なことだったし、あの時の自分の判断は間違っていないと思いたい、思ってるが、自分は何も知らないままグレンを責めていたのは事実。
「……私、本当に何やってるんだろ」
ぽたっと、涙がコーヒーの入ったカップの横に落ちた。
「お疲れ様」
顔をあげるとゼルクだった。
「お疲れ様です。すいません。あっ、コーヒーなら持ってきますね」
泣き顔や自分の愚かさを見られたくないメリッサは、立ち上がりその場を去ろうとしたが、
「メリッサさん、落ち込まないでね。あなたが優秀なのは知ってるから」
(何故今ここでそれを言うの?縋りたくなる)
思わずゼルクの胸に手を……
(だめ!しっかりしろ私、かっこ悪い!縋るな!立て!)
伸ばしかけた手をギュッと握り、
「あ、ありがとうございます。お忙しい中お気遣いいただき……ぅっ」
メリッサから嗚咽が漏れるが、
「す、すいません。シャワーを浴びたいので戻ります。失礼します」
そのまま足早に立ち去った。
(いや、そこはそのまま来いよ。泣いとけよ。
そういうところで止まるから、重たいって思われるんだよー、メリッサさん)
「……メリッサさん」
呼んだところで、どうせ振り返らないし、振り返ったら振り返ったで、こっちも困るけど。
「リーダー」
背後から、嫌な声が飛んできた。
「やっぱり思い違いじゃねーか、フラれてやんのw」
「うるさい」
「しゃーないw俺とホテル戻る?」
「戻るよ……シャワー浴びたい。くさい男の子はモテないんだよ!」
「え、俺いま口説かれてる?」
「違う。早く歩け!」
そして、運命の朝9時。
ギルドに現れたのは、サリーを抱えたグレンだった。
「……っ!」
ギルドに入ってくる前から、覇が漏れていることをゼルクは悟っていた。 そして、現れたグレンが腕に抱えていたサリーを見て、その理由を理解した。 グレン本人は、覇が漏れていることに気づいていない。 腕の中のサリーが、何ともない様子なのだ。
(これなら覚えたてで帰ったら垂れ流しになるな)
「グレンさん!覇が漏れてます、お願いです!」
「えっ?あれ?だってサリー、お前何ともないよな?」
「ないよぉ、どうしたの?」
「いや、サリーさん、あなたも大概な人ですね!寒気とかもないのですか?」
「グレンはあったかいよ!」
「わ、わかりましたが、グレンさん、周りを見てもらってもいいですか?」
グレンが周囲を見回すと、ほとんどの者が青ざめ、震えていた。
「抑えるんだっけ? ……えーと」
「力を戻してイメージです。あれです、あの殺気とか威圧って必要な時に出すじゃないですか、あれと同じです」
「ん?あぁ、そういうことか……教え方上手いですね。了解」
グレンが力を戻すように意識すると、先ほどまでギルドを満たしていた圧がすっと消える。
それを感じたゼルクは、ようやく胸を撫で下ろしたが、心の中はぐちゃぐちゃだった。
(駄目だ、もっと認識の修正入れないと、グレンさんだけじゃない、このサリーって女の子。この子ヤバい!絶対、深淵関係者だ。何にも感じ取れないのが怖い、王都の関係者にこの状況が正確に伝わるか?クソ!1人だけ先に帰したのは失敗か?)
受付嬢が案内を始めようとした時、サリーは遠くで自分たちを見ているメリッサに気づいた。
顔色は悪く、今にも泣きそうな顔をしている。
(うわぁ、あの人やっぱり、管理者ぁぁぁ、お前のせいで自信失くして、奥で泣きそうな顔してるぞ!)
サリーは、元気を出して、管理者に負けるなと、軽くメリッサに手を振った。
(お姉さんは悪くないからね、悪いのは管理者だから!見てるか、管理者~お前のせいなんだぞぉ。
私はお前のフォローをしてるんだ!どぉだ?そろそろ、犬に戻そうよ?)
そんな管理者が聞いたら怒りそうな自論を、サリーは勝手に説いていた。
「サリーどうした?」
「ほら、受付のお姉さん。タグ作って貰う時の」
「あぁ、スタッフリーダーの人か」
「うん、なんか元気なさそうだったから」
「そっか、じゃー元気になって欲しいな」
「ミルクはあげないけど」
そんな会話を聞いていたゼルクは、すぐさま声をかけた。
「メリッサさん、後でグレンさんとサリーさんに飲み物をお願いします」
「はい!」
メリッサの運命は、守られた。




