覇?
ほんの少しだけ時は遡り、
公園から家に戻ってきたグレンたちが、家に着くと、既にタブレットは鳴り響いていた。
真っ赤な画面に、通知音とバイブ音がひっきりなしに鳴り続けている。
「わかっていたが、うるせぇ、あぁ、でもなぁこの前、注意受けたばかりだよな」
グレンは、画面を確認しながら、
風呂入って、飯食ってからでもいいよな?
副ギルド長へ、指を滑らせメッセージを打つ。
『ご飯を食べたら行きます』
「よし」
グレンはタブレットを毛布で包むと、その上からさらにクッションを置いた。
「少しはマシだろう」
「グレン、ミルク!」
「の前に、風呂な」
「……」
不満そうな顔をしたまま、サリーは大人しく風呂へ向かった。
その間にグレンは、買ってきた屋台のご飯を見ながら、ふと野菜が足りないか?
何日か前に見た『新米パパの奮闘記』で、子供が野菜を食べないって泣いていたのを思い出した。
彼は、「子供には野菜は必要だから食べて欲しい」と、色々と工夫していた話がよぎる。
「よし!サリーには野菜が必要だな、サラダを作ろう」グレンが温野菜サラダを作り上げたころ、
不満顔のサリーがお風呂から出てくる。
「お、ちょうどいいな。ご飯できてるぞ」
「わーい!」
不満顔は一瞬にして満面の笑みへ変わり、
「お前本当に犬みたいだな、じゃあ俺も風呂入ってくるか、
サリー、先にご飯食べてていいぞ~」
「ふぅ、あ~さっぱりしたほんとお風呂は最高だ」
風呂から上がったグレンが戻ってくると、サリーはご飯にも手をつけず、
毛布に包まれてるタブレットをじっと睨みつけていた。
「サリー、ご飯食べ、」
「グレン、これピコンピコンうるさい!」
「あー、ごめんなぁ、ご飯食べたら行くって送ったのになぁ……」
それでも止まらない通知。
グレンはもう一度画面を操作すると、念のため同じ内容を送った。
『ご飯食べたら行きます』
「よし」
もう一度、タブレットを毛布でぐるぐるに包み、ソファに置いた。
「これでいいだろ、もう少ししたら鳴らなくなるから」
「わかったぁ」
「じゃあ、飯にするか」
「うん」
こうして二人は、呑気に夕飯を食べ始め、食べ終わる頃には、最初よりは静かになってはいたが、タブレットは頑張って主張していた。
「ギルド行くのめんどくせー」
ご飯を食べ終わると、説明しても信じて貰えないのに、わざわざ行かなくてはいけない。
かなりめんどくさいという気持ちがグレンの中では大きくなり、無視しようかなと思ったが、
サリーがソファの上で眠そうに目を擦りながら、
「グレン、やっぱりこれピコンピコンうるさいよぉ」
「そう……だよなぁ」
「もう、また鳴ったぁ」欠伸をしながら文句を言うサリー
「サリー、眠いのか?」
「うん、ねぇむぃい……」
「まだ寝るには早いだろ」
「でも眠い、ふわぁ」
「まあ、今日は色々あったしな。おい、寝るならベッドで寝ろよ」
「んー」
「まったく、一応聞くけど、サリーギルド一緒に行くか?」
サリーは、ふるふると首を横に振ると、そのままソファの上で丸まった。
「行かない?」
「うん」
「なぁ、サリー、俺、今日の事はどう話したらいいんだ?まぁ、何を言ってもどうせ嘘だと決めつけられて終わる話だしな」
グレンは小さく笑うと、サリーを起こさないようにそっと抱え、
サリー専用のベッドに寝かせ部屋を出た。
ピコン。
ピコンピコン。
ピコン。
鳴り止まない通知音、真っ赤な画面
「ご飯食べたら行くって言ったのに」
再び毛布にくるみ、クッションを乗せ玄関に向かった。
◇◇◇
グレンがギルドに到着して扉を開けたとき、
数人のランカーが既に剣を抜いていた。
「……え?」
驚きながらも、ギルドに一歩足を踏み入れると、
「ぐっ……!」「う、うわ……!」と、
2、3人がその場に崩れ落ち、腰を抜かしてる。
さらにランクの高い者ほど顔を強張らせ、身体を震わせ剣から手を離さない。
「……なんだよ、一体……」
受付に行こうとすると、ゼルクが、声を絞り出しながら、
「グ、グレン・ハルヴァードさん!」
「……?」
「そこで止まってほしい!出来れば……覇を出さないで!」
「は?」
「はい!覇です」
「は?<は>を言ってはだめ?なに?」
「違います!覇です!圧が凄いんです!」
「俺、何もしてないが?」
「それが一番怖いんですよ!!」
「俺、どうしたらいいんだ?」
「まず、覇を抑えてください」
「だから、その<は>?ってなんだよ。
抑える?圧なんか出してないぞ?」
「簡単です、自分の中にある力を外へ出さないように意識するんです。今のグレンさんは、力が勝手に漏れてる状態です」
「漏れてるだけ?それでこうなるのか?」
と周りを見るグレン
「なります」ゼルクは即答した。
「深淵じゃ、もっと酷いのが普通にいますからね。
ただ、数時間前まで普通に会話していた人間が、
数時間後に、この覇っていうのが、1番おかしいんですよ!」
「…………」
「とりあえず、息を吐いてください。
ゆっくりと吐いた息を吸い込むように自分の圧を中に戻してください」
「……こう?」
「そうです。そのまま」
周囲に漂っていた圧が、少しずつ薄れていく。
倒れていたランカーたちが、ようやく息を吐いた。
「できてる?できた?」
「できてます」
ゼルクは額の汗を拭う。
ギルド長も副ギルド長も、へたり込むわけにはいかず、必死にその場に立っていた。
副ギルド長は、震える足に力を込める。
(怖い……怖すぎる……)
目の前にいるのは、確かにグレンなんだ、
知っているグレンのはずなのに。
(グレン……お前、どうしたんだよ……)
怖い。本当に怖い、泣きそうなのに、
別の意味でもなぜか悲しくなり、更に泣きたくなった。




