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第49話 柿森海香はお嫁さんになりたい(真エンディング)

 柿森さんに薬を飲んでもらうように頼み込んでから一か月が経った。

 俺は柿森さんと一緒に漫画喫茶に来ていた。彼女曰く、漫画読みたいとのこと。


 二人だけの個室に入る。

 こんな狭い空間に二人っきり……ドキドキしないわけもない。

 

「ねえ、物部くん」

「は、はい。なんでしょう?」


 肩どころか体が触れ合いそうな距離感で柿森さんが囁く。


「実は……漫画読みたいのは嘘で、物部くんと二人っきりで真剣な話がしたくて、この場所を選んだんだ」

「……!」


 ちょっとだけ身構える。

 もしかして薬が効いてないのか、と嫌な想像をしてしまう。


「物部くんからもらった薬ね、本当に宝石病に効果があるみたい。定期検査でみるみるうちに数値が良くなっていくの」

「ほっ……よかった~~!」


 心の底から安堵した。

 こんなにも嬉しいことは、人生で何回も訪れないだろう。


「お医者様は治るかもしれないって言ってるんだけど……わたしはどうしたらいいのかな?」

「どうしたらって何が?」

「治った後のこと」


 柿森さんは苦しそうな顔をしていた。

 治るという前向きな話題なのに……なぜ?


「わたし、ずっと死ぬことを前提に生きてきたのは物部くんも分かるでしょ。今更生きれるって言われても、どうしたらいいのか分からなくて……」


 確かに柿森さんには硬すぎる決意があった。

 誰にも砕けない鋼の意思。

 それが今、意味のないものになろうとしている。


「良いんじゃないかな、喜んで」

「実感がないんだよね。体調も数値上も良くなった……でも心が追いついてない感じ」


 やっぱり、死を覚悟し過ぎていた反動なのだろう。

 困ったような笑顔を浮かべている。


「じゃあ……何か目標を決めたらどう? これから生きる上での」

「目標……」

「これに向かって何か命燃やすぞって。時間かけても成し遂げるぞって!」


 恐らく、生きられるかもというお祝いはすでに家族内でやっている。

 それをやっても尚、素直に喜べないのなら……将来を見据えればいい。


「今までの柿森さんでは、絶対に不可能だったこととか。将来を考えて、楽しそうなことを幸せを思い描く。今は実感がなくても、それを達成したときに生きてて良かった! になるんじゃないかな」


 別にこれから時間ならいくらでもある。

 生きている実感なんてなくとも、あとから見つければいいのだ。


「そっか……そういう見方もできるんだ」

「だから今、無理して喜ばなくていいと思うよ」

「ありがとう。物部くんのお蔭で気分が楽になった!」


 柿森さんはいつものように明るい笑顔を見せてくれた。

 

「じゃあさ、今、目標を一つ宣言してもいい?」

「どうぞ」


 柿森さんは俺のことをキラキラとした目で見つめて、太陽のように笑う。


「わたし、物部くんのお嫁さんになりたい!」


 とんでもない宣言にひっくり返りそうになった。

 だけど、柿森さんは真っすぐに俺のことを見つめていた。


「いいよね? 目標だし」

「う、うん。柿森さんの自由だよ」

「よしっ! 頑張るぞ!」


 これからも柿森さんには振り回されそうなのが決まった。

 でも、そんな元気な彼女ならずっと一緒にいたら楽しそうな気もしていた。

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