第15話 オリチャー発動!
「いや、ちょっと待ってください。訂正します。正確には勉強会じゃないです」
ニュアンスとしてはその表現が近いだけで、勉強会はしない。
そもそも、学年が違う二人で勉強会をしたところで利点はない……はず。
「俺は他人に勉強を教えられるような力はないです」
「……?」
津宮さんはポカンとした表情を浮かべている。
まあ、攻略本を頼らずに適当なことを言った俺が悪いのはある。
「これでも一応、俺は高校一年を乗り越えてきたわけだから、出されてきた予習とか宿題とかやって来たんです。だから、それ……丸写ししましょう! 時短にはなると思います」
クズな提案をしているのは分かり切っているので、清々しく。
胸を張って言わなくちゃ。
「あたしからすれば、ありがたいですけど、先輩に余りにもメリットが無いじゃないですか。三段アイスのこともありますし、返せるものが何も……」
津宮さんは真面目だ。
もし俺が彼女の立場なら、ありがたく受け入れてしまうだろう。
「津宮さんが納得いかないなら、交換条件はどうですか?」
「どういう条件、ですか?」
ここで温いことを言うようなら、彼女の気持ち的に納得できないだろう。
ただ昨日、重くも軽くもなる魔法のような条件を偶然知ってしまったのだ。
「できる範囲で俺の言うことを聞いてください」
「……ッツ! な、なるほど、分かりました」
そんな息を呑むようなことなのかは分からないが、納得してくれたようだ。
鵜川先輩とゲームしたときに出された悪徳条件最高!
「じゃあ、日程は今度の津宮さんの休みでいいですか?」
「了解です。じゃあその日は――」
とアイスを食べながら、詳細を決めていった。
「先輩、ごちそうさまでした。今度は学校で」
「ですね。お疲れさまです」
津宮さんは深々とお辞儀をしてから、家に帰っていった。
オリジナルチャートに行った割には、上手くいっただろ! 多分……。
ただ、攻略本自体には勉強会のことも書いてあった。
自分が攻略本を読む中で、主人公風の行動に引っ張られているかもしれない。
◆ ◆ ◆
かったるい授業を終えて放課後。
このギャルゲー世界のクリアを目的に生きている俺の立場からすれば、学校での授業は体力を削るだけのイベント。あまりにクソ!
隣で教科書をバッグにしまっていた柿森さんが、じとっとした視線を向けてきた。
「物部くん……そういえば今度遊びに行く話があったじゃん」
「そうだね」
「……忘れてない?」
頬が強張る。
確かに約束をした覚えはあったが、津宮さんルートの攻略を始めてしまったので色々と忙しかった。言い訳になるわけもないが。
「忘れてはないよ。ただ、ちょっと忙しくて」
「ふーん。バイト初めたばっかりだし、大変なんだろうね」
いつもはもっと天真爛漫って感じだが、今日はしっとりとした感じがある。
そろそろ梅雨だからだろうか。
「本当にすいません……」
「いいんだけどね。ただ最近は放課後もすぐ消えちゃうから」
ちょっとだけ悲しそうなに俯く柿森さん。
もしかして柿森さんは……。
「もしかして最近、会話すら少ないから寂しかったりした……?」
自意識過剰な認識だが、柿森さんの様子を見てるとそう思ってしまう。
言わない方がいい発言の可能性は大いにあるが、彼女には素直すぎるくらいの向き合い方が良い気がする。
「そ、そうだよ!」
柿森さんは指摘通りだったのか、頬を赤く染めながら大きな声で肯定した。
「少しくらいは放課後残るようにする」
「そうして欲しいな。ゲームのことだって聞きたいし、それに……友達になったんだから」
まっすぐにそんなことを言われると、こっちが恥ずかしい。
やっぱり可愛過ぎるな……。柿森さんルートも同時攻略とかできたらいいけど、彼女は明確に最後に解放されるルートになっているし。
◆ ◆ ◆
それからちょっとだけ柿森さんと雑談をしてから、玄関へ行く。
そこにいたのは制服姿の津宮さん。
ボタンもきっちり上まで止めていて、スカートも適正な長さ。
ただ制服が新入生のものにしては、使い込んでいる感じがある。
「ちょっと遅くないですか? 先輩」
「ごめんなさい。クラスのやつらと喋ってたら、遅くなっちゃって」
「そうですね~女の子と話すのは楽しいですもんね」
げ! まさか見られてた?
あれ? でも俺が焦る必要性はないんじゃないだろうか。
悪いことしてないし!
「そのくらい別にいいじゃないですか」
「ま、まあ、そう言われたら、そうなんですけど!」
津宮さん、普段はあまり見せることのないようなムスッとした顔を見せている。
真面目に何が不満なのか分からないぞ……。
「じゃあ、そろそろ行きましょう。俺の家に」
「で、ですね」
勉強会らしきものは、俺の家でやることになっているのだ。




