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008:魔法少女は制御が出来ない

008:魔法少女は制御が出来ない


SIDE リーナ


現実世界に意識が戻る。

冷たかったはずの体が、内側から燃えるように熱い。

乾いて白髪になったはずの髪が、ぱちぱちと音を立てて燃え、皺だらけになった肌が、枯れ木みたいに炎に包まれていく。


でも、不思議。全然痛みを感じない。

むしろ、その炎は心地よい温かさで私を包み込んで、失われたはずの命を、その熱で再び作り直していくみたい。


激しい炎が路地裏を照らし、その中心で、私は生まれ変わる。


崩れ落ちていく灰は、絶望の残滓。

その内側から、燃え上がる命を纏って、私は静かに立ち上がった。


背後の業炎は雄大な黄金の翼となって私を抱き、薄汚れた路地裏を清烈な聖域へと塗り替えていく。


「な…に…?」

目の前にいた怪人が、信じられないものを見るような目で驚きの声を漏らした。

さっきまで死にかけのお婆さんみたいだった私が燃え上がり、炎の中から無傷で、ううん、前よりも元気な姿で立ち上がったのだから、無理もないよね。


「ありえない…わたくしの『時間』は…!」

化け物が叫んだ瞬間、その体に異変が起きた。

ひび割れた肌がさらに乾き、その体から淡い光の粒子が霧のように立ち上り始めたのだ。


そして、その光はまるで吸い寄せられるように、私の中へと還って来た。

奪われてた温かさが、生命力が、私の体に戻ってくるのが分かる!


「ああ…ああっ…!返せ!わたくしの若さを!わたくしの美しさを返せェェェ!」

絶望の叫びと共に、化け物は狂ったようにあの気味の悪い腕を私に向かって振り下ろしてきた、私はとっさに身構え目を瞑る。


……!?


だけど、いくら待ってもその攻撃が私に届いてこない。

恐る恐る目を開けると、目の前で怪物が炎にまみれてタタラを踏んでいた。

私を包む炎が、まるで私を守るみたいに壁になって、その魔の手を焼き尽くしてくれたのだ。


「熱い!熱い!」

化け物が腕を引っ込めた隙に、私は自分の体を見る。

傷一つない。

それどころか、肌は前よりもすべすべしている気がする。

ただ、一つだけ、大きな問題があった。


「ふ、服が…ない…!」

炎は私の体だけを元に戻して、着ていた服は燃え尽きてしまっていたのだ!


あ、あ、あ、ありえない!!

どこ?

私の服はどこなの?


恥ずかしさで顔が真っ赤になる、頭の中は真っ白だ!

でも、不思議なことに、私を包む炎はゆらゆらと揺らめいて、見えそうで見えない、絶妙な感じで私の体を隠してくれていた。


「大丈夫だよ、リーナ!その炎が良い感じに隠しているから問題ない!」

足元から、いつものひよこの声が聞こえる。

見下ろすと、彼は小さな翼でサムズアップしていた。


「それより、これを!」

ひよこがクチバシで器用に弾き上げたのは、手のひらサイズの、綺麗な飾りがついたチャームだった。

私は慌ててそれを受け取る。


「それが君の変身デバイスだ!生体認証やコスチュームのサイズ調整は済ませておいた!あとは、それに変身コードを声で入力するだけでいい!」

「ちょ、ちょっと待ってください!体のサイズって、いつ取ったんですか!?」

「そんな事は後だ!いいから早く変身するんだ、早く!変身コードは『システム・エンゲージ!マテリアライズ・コード『アルカナ・フレア』だ!』」


そういえば最近ずっと誰かの視線を感じていたんだけど、もしかしてこのひよこのせいだったんじゃないの?

疑問は尽きないけど、今はそれどころじゃない。

今の裸の状況から逃れられるなら、変身でもなんでもやってやろうじゃない!!


「システム・エンゲージ! マテリアライズ・コード『アルカナ・フレア』!」

私が叫んだ言葉に応えるように、手のひらのチャームが黄金色の火の粉と共にカシャリと音を立てて展開した。

鳥の翼を模した装飾がスライドし、中央から現れた光が私の体を通過する。


『Authentication, complete. Transformation sequence, start.』

(認証、完了。変身シークエンス、スタート。)


無機質だけど、どこか綺麗な英語のシステムボイスと共に、チャームから放たれた光が私の足元に魔法陣を描き出す。

足元から噴き上がったのは、巨大な炎の渦。

闇を裂いて舞い踊る虹色の火の粉が、まるで祝福の舞のように私の周囲で激しく弾け飛ぶ。

渦巻く炎が私の髪を優しく、けれど力強く洗い上げた。

栗色だった髪が、熱に浮かされるように根元から鮮やかな深紅へと染まり、毛先に向かって燃えるようなオレンジ色へと変化していく。


炎がそのまま一本のリボンとなって髪を縛り上げると、美しいグラデーションを描くポニーテールが夜風になびいた。

続いて、火の粉が私の肌の上で結晶化し、衣装を形作っていく。


純白のビスチェが胸元をきつく引き締め、その下には幾重にも重なったフリル付きのスカートが、燃え盛る花のように広がった。

腰の後ろには、不死鳥の尾羽を模した長いリボンが結ばれ、熱風を受けて優雅にたなびく。

手足には、縁に繊細な金の刺繍が施された手甲とブーツが、吸い付くように装着された。


ふと視界の端を見ると、フェニックスがいた。

彼はいつもの騒がしさが嘘のように静まり返り、じっと私を見つめていた。

まるで、何千年も待ち望んだ奇跡が今まさに成就したのを目の当たりにした、聖者のような万感の表情。

その小さな瞳には、静かに、深く、熱い涙が溜まっていた。


(……そんなに感動してくれてるんだ)

私は少しだけ照れくさくなって、サービスのつもりで、彼に向かってパチンとウィンクを贈ってみた。


「……っ!?」

その瞬間、フェニックスは心臓を撃ち抜かれたように大きく仰け反り、胸に羽を当ててプルプルと震えだした。

言葉にならない歓喜と衝撃が、彼の小さな体を駆け巡っているのがわかる。


そして、変身の締めくくり。

炎の輪が私の右脚を強く、優しく締め付けた。

深紅のガーターリングが形を成した瞬間、柔らかな太ももに確かな圧迫感が走る。


(……わ、可愛い。……けど、これ……やっぱりちょっと大胆すぎないかな!?)

14歳の私には、この「食い込み」を強調するようなデザインは刺激が強すぎる。

ドキドキと心臓が跳ね、恥ずかしさで顔が熱くなる。

でも、この締め付けが「魔法少女」としての最後のスイッチを入れ、私を完成させるのだった。


さあ、いよいよ変身完了――その時だった。


「なんなんだ!なんなんだ、おまぇはぁ!!」

神聖な炎の障壁を、ヘドロのような闇が侵食した。

怪人が、なりふり構わず醜い触腕を炎の中にねじり込んできたのだ。

壁の向こう側から、血走った怪人の巨大な目が、光と美しさを拒絶するように私を凝視している。


「ひっ……! め、目が……目が怖いんですけどぉぉ!!」

私が怯えた、その刹那。

さっきまで心臓を撃ち抜かれていたフェニックスから、全ての慈悲が消え失せた。


「貴様ァァァッ!! 変身バンクが見えねぇだろうがァァァッ!!!」


その一言。

次の瞬間、ひよこの姿が天を突くほどの巨大な炎の不死鳥へと一瞬だけ膨れ上がった。


本物のフェニックスの幻影。

その巨大な翼がひと振りされると、神聖な聖域(変身バンク)を汚そうとした怪人は、文字通り「ゴミ」のように路地裏の奥まで一気に吹き飛ばされ、派手な衝撃と土煙をあげて瓦礫の中へ叩きつけられた!


邪魔者が消え、変身が完了した静寂の中で、フェニックスは私の足元に再びポスンと着地した。

「……ふむ。今の変身は65点だね」

「え?あんなに感動してたのに!? ウインクもしたのに!」


「リーナ、君のウィンクは1000点満点だ! だが、あの醜い怪人のせいで、カメラアングルに致命的なノイズが混じった!せっかくの 『至高の完成シーン』が台無しだ!マイナス935点だよ!」

彼は不機嫌そうにクチバシを尖らせ、私のスカートのフリルを整えながら続けた。


「それに、まだまだ変身シーンの頂には至っていない!まず、尺が長すぎる!もう少しテンポを意識するんだ!それから振り付けだ!エフェクトの炎で隠れているとは言え、あれではただ隠しているだけで芸がないよ!視聴者の『見たい』という欲求を刺激し、その想像力を掻き立てるような、『見えそうで見えない』ギリギリのラインを攻めた振り付けを心がけないとダメだ!あと、変身完了後の決めポーズと名乗り口上!あれは今後の最重要課題だ!」

私の肩の上で、フェニックスが大興奮で熱弁を振るい始めた。


うん!

知ってた!

このひよこ、めんどくさいタイプのオタクひよこだ!


私の肩で太ももの角度について熱弁しているひよこの異様さに、化け物は恐怖を感じたらしい。

瓦礫の中から這い出すと、一目散に逃げ出した。


「あ、待って!」

慌てる私をよそに、フェニックスはちゃっかりと私の肩の上で仁王立ちしている。


「何をぼさっとしているんだ!追え、アルカナ・フレア!」

「え?あっ!はい!」

言われるがままに、私は地面を蹴った。


その瞬間、自分の体に驚く。

軽い。

まるで羽が生えたように体が軽い。

数歩で逃げる化け物の背中に追いつきそうになった、その時だった。

化け物は行き止まりの壁に飛びつくと、まるで蜘蛛みたいに、その垂直な壁を這いずるように駆け上っていく。


「どうしよう?!」

慌てる私に、フェニックスは「ピッ」と音を立てて、一枚のカードを私の目の前に提示した。


「慌てないで!デバイスにこのカードを装填して!ウイングモードに切り替えるんだ!」

私は言われるがままに、カードを左腕のガントレット型デバイスのカードスロットに差し込んだ。

カードがセットされると、羽の飾りがバシュっとカードと共に閉じ込んで、装甲の隙間からオレンジ色の火の粉があふれ出した。


『Skill Card, Set. Wing Mode, Activate.』

(スキルカード、セット。ウィングモード、起動。)


機械的な声が響くと、背中の翼の飾りが展開する。


何枚も重なった装甲がスライドして、美しい不死鳥の翼のように広がると、その先から炎が噴射された。

「あっ、出力調整はまだだから! 気合で制御するんだ!」

「えっ?」

体がふわりと浮き上がった…と思ったのも束の間、次の瞬間、背中の翼が轟音と共に爆発的な炎を噴射した。


「んぎゃあああああ!」


気合って何?

制御なんて無理!


加速による横殴りのGが私の全身を打つ!

巨人に全力で叩きつけられるカエルみたいに、逃げる化け物のすぐ横にあった建物の壁になすすべもなく激突した!

ズガァァァン!という轟音。


石壁がクモの巣状に砕け散り、衝撃で建物全体が揺れる。

壁に激突して止まっても、背中の翼は業炎を吐き続け、凄い圧力で私をグリグリと壁に押し潰しつづけてくる!

全身の痛みで意識が飛びそうだ!


驚いたのは、化け物の方だった。

まさか追跡者が自爆するように突っ込んでくるとは思わなかったのだろう。

呆然とこちらを見つめていたが、すぐに我に返ると、好機とばかりに近くにあった古びた建物の窓を突き破って中へと逃げ込んでいった。


「フレア!ナイス突撃だ!掴みはバッチリだね!」

瓦礫の中で痛がる私の肩で、嬉しそうに無傷のフェニックスがビシッとサムズアップする。

私は怒りでこめかみがピクピクするのを感じた。



Liner Notes

■Track 08

【分類】

  [[1]:アイテム紹介] > [[11]:変身・武装]


【日本語名称 / English Name】

アルカナ・ドレスコード / Arcana Dress Code

(通称:バトルドレス)


【概要 / Overview】

 魔王フェニックスが、持てる情熱のすべてを注ぎ込んで完成させたアルカナ・フレア専用の可変礼装。

 異世界転移の際に持ち込めた『第零元素(Element Zero)』のほぼ全量をこのドレスの生成に費やしたため、現時点でドレスの方が「魔王フェニックスの本体に近い」と言っても過言ではない。

 その代償として、フェニックス本人は、当面の間「ひよこ」の姿のままである。


【特性・スペック / Properties & Data】

・三位一体(Trinity)システム

 以下の3つのコンポーネントが相互に連携し、魔法少女の戦闘能力を定義する。


1. インナースーツ(Inner Suit)

 身体能力の飛躍的向上を担当。

 着装者の筋力、反射速度、および耐G性能まで強化する。  


2. ドレスアーマー(Dress Armor)

 魔力運用と防御を担当。

 防御結界の展開や、大気中のエネルギーを効率的に変換・供給する機能を備える。  


3. モルフォウィング(Morpho Wing)

 背面に装備された可変光翼ユニット。

 フェニックスが提供するスキルカードを左腕のガントレットにセットすることで様々な機能・形態へと変化する。

 高機動飛翔のみならず、狙撃や打撃武器としても機能する可変型マルチウェポン。


【特記事項 / Secret Note】

・開発協力(Technical Collaboration)

 開発協力として「多元魔界・魔法少女制作委員会」の名が記されている。

 これは、メンバーの詳細はいずれも非公開だが、フェニックスが自ら次元を超えかき集めた、偏屈な天才たちの共同体である。

 名前を出すことすら憚られる深淵の有力者たちが、フェニックスの熱意(あるいは執念)に押されて、禁忌の技術を提供しあった奇跡の委員会である。

 

・フェニックスのこだわり(Phoenix’s Extreme Obsession)

 二の腕と太ももの露出バランスには、設計段階でフェニックスの脳の血管が数本切れるほどの苦悩とこだわりが詰め込まれている。

 腰から流れる飾り尾を模したリボンが、彼一番のお気に入りポイントらしい。


Tags: #共同開発 #魔法少女制作委員会 #アルカナ・ドレスコード #通称:バトルドレス #様式美の追求




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