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33、関わりたくない人

 高級な魔石を散りばめた淡青の魔導服に一点の汚れもない白革のブーツが、目線を下げた私の右端にうつる。私はスルーした様だが、やはりダグラスに足を止めた様だった。


(ほら!! やっぱりおかしいよね!?

 スルーしてくれないじゃん!! 

 高貴な置物に興味をお示しですよ?

 貴方のせいですよね??)

 とダグラスに文句を言いたかったが、今はこちらは受け身しか取れないので、ただ嵐が過ぎ去るのを待った。


「これは、ルクセル侯爵家子息ではなかったかな?

 いつの間に弁える様になったとは、大人になったと言うことかな?

 良い心がけだ」


 低音の声を響かせ、ガードナー侯爵(お父様)は隣のダグラスにゆったりと話しかけた。

 今も昔もかなりの信奉者を生んでいるらしい威厳のある声はそれほど大きくないにも関わらずかなり遠くまで聞こえる。ここまで響くのは、さすが6大侯爵家当主と言えるのか……はたまた、防犯の為、廊下響く様に出来てはいるためか。

 それでも、ワザと他の者達にも聞こえる様に発言しているとしか思えない。

 6大侯爵の威厳を保つ為の声音かもしれないが、内容がイヤラシくて吐き気がする。


 今の言い方だとガードナー侯爵家の方がルクセル侯爵家よりも上だと言わんばかりだ。

 基本的に6大侯爵家に上下関係はない。

 ただ当主と次期当主とでは身分に差があるのは間違いないので、そう言う意味では間違いとも言い切れない。

 どちらをとっても、返答には誤解を生みかねない言い方だ。


 イエス。と言えば侯爵家に上下がある様に思われる。

 ノー。と言えば当主と次期当主の差もわからない愚か者と言うつもりなのだろう。


 誤解されない様に、まわりくどく枕詞をつけると、言い訳がましくて、やはり小童と蔑むに決まっている。

 この人の考えが読めるくらいに近しい人物である自分が、恨めしい。



 ダグラスは顔を上げず、そのままの姿勢であろう事か私に返答してきた。


「治癒師様、申し訳ございません。

 職務中ではございますが返答させていただいてもよろしいでしょうか?」


 おーい!! ダグラス!! 私に振るな!!

 ってか治癒師様ってなんだ!? 見える限りには3人しかいないので私の事だよね? なんの設定?? 

 巻き込まれるのはごめんだ!!

 けれど、ダグラスから発言の許可を求められたのだから、何も言わずに黙っているわけにもいかない……。


「……許します」


 仕方なく私は、返答した。

 ガードナー侯爵は、今までそこに、人がいたのか? くらいの感じで、少しだけこちらに体を傾ける。

 興味を示さなくて大丈夫です。早く立ち去ってくれと思い、ずっと下を見続けた。


 ダグラスはまるで私を敬うかの様に許しを得た後、顔を上げずに返答した。勿論私は下を向いたままだ。


「今朝ぶりでございます。ガードナー侯爵。

 私は今職務中ですので、職務に忠実に従っているまででございます」


 ダグラスの返答は、今は職務中だから普段とは違うんだよ。

 だから誤解するな。と遠回しに言った様だ。

 どちらの回答もせずに、スルーしたと言ってもいい。

 護衛対象が最敬礼をしているのだから、護衛(ダグラス)も例に倣ったまでと言う解釈だ。

 私と言うクッションを挟む事で、上下関係を有耶無耶にした。

 上手い返しだろうが、私を巻き込むな!!

 ガードナー侯爵が、更に私の方に体を向けた。


「ほ〜。それはそれは凄い治癒師殿なのだろうな?

 私に最敬礼している様に思うが……?

 その様な役目を任されるなど、哀れな立場だな」


 高位の治癒師は、手厚く保護する為、爵位を与えられる事が多いが伯爵位までが多い。どちらにしても6大侯爵家の足元にも及ばないと言いたいのだろう。自分より身分の低い者に合わせなければいけないなど、ガードナー侯爵はダグラスの職務を貶したとも言える。相変わらずの人だわ。身分でしか人を測れない可哀想な人。


「ふっ。治癒師様のお心のままに……。私は従うまでにございます。

 確かに、治癒師様は、まだこの国に来たばかりなので身分はございません。

 なので、今の形をとったのでしょう。

 この国で誰も治療できなかった王子妃様を完治させた方ですから、国賓として迎えられる予定です。それ相応の身分となるでしょう」


 ダグラスは、嘲る様に笑った後、とんでも無いことを言い出す。

 えっ? なんだよその話? そんなの聞いてないけど、そんな予定なの??

 国賓? この国で国賓として招かれた人は今まで1人もいない。前代未聞だ。アーレン王国は魔法使いしか入れない国なのだ。外国にそもそも魔法使いが殆どいないし、高位の魔法使いはそれは珍しい。身分的にはどの地位になるの?


「王子妃候補だがな。ほう……此奴が国賓ね」


 それにガードナー侯爵は、未だにローザを認めてないらしい。醜い足掻きである。


 とうとう完全にこちらに足を向けたガードナー侯爵は今度は私に話しかけて来た。

 いやいやいや。お父様? 敵意あり過ぎですよ。

 せめて隠して下さいな。そりゃぁ、あなたの計画を潰したのは私ですが、友達の命の方が大事なので仕方がありませんことよ?


「それはそれは素晴らしい治癒師殿なのだろう。是非、治療法については私も伺いたいものだな」


 言葉は丁寧であるが、私に威圧をかけて来た。

 大人気無いですよ? そんなに計画を潰されたのが気に食わない?

 怖いですわ。ホホホホホ。

 実の娘とは多分気が付いてないだろうが、実の娘であっても同じ事をしてきそうだな。と思いつつ、私は微動だにせず、涼しい顔で受け流す。

 まぁラルフのローブのおかげで殆ど感じない為、耐えているわけでもないのだが。

 ガードナー侯爵も、王城で許されるギリギリの威圧の為、本気では勿論ない。お遊びくらいだろう。それでも下位魔法使いなら失神するレベルである。中位魔法使いでも冷や汗ものだろう。


「誠に恐縮でございます。流浪の治癒師にございます。

 僭越ながらローザ様の治療をさせていただきました。

 私めは高貴なるお方の足元にも及びません。

 私の治癒方法は独学で理論等は全く理解しておりません。

 ご期待に応える事は出来かねます。

 どうかお許し下さいませ」


 私は平静のまま、断りの言葉を返す。

 私の理論は他の人から見るとめちゃくちゃらしいので、仕方ないのだ。

 それが気に食わないのか、今度は鑑定魔法までかけて来た。

 デリカシーのかけらもないなんて、失礼しちゃうわ。

 戦闘時には当たり前の鑑定魔法でも今は王城内。品位のかけらもない。

 勿論鑑定拒否してやった。と言うか拒否できた。

 鑑定魔法は少し変わっていて、魔力量は関係なく熟練度と双方の意思の強さによって、成功率は決まる。


 絶対に知られたくないと言う意思は折り紙付きだ!!

 正体バレたくありませんので!!

 それでもあまりにも熟練度に差があると看破されてしまう事もある。

 どうやら私は、ガードナー侯爵よりも熟練度が同じか上の様だ。

 ラルフと一緒に魔道具研究のお手伝いで、鑑定ばかりしていたのが役に立ったのかしら? よかった。

 ガードナー侯爵は私に鑑定拒否された事に驚いて、更に不機嫌になっている様だ。


「理論がわからず? そんなことが?

 まぁいい。顔を上げろ。名はなんと言う」


 理論がめちゃくちゃなのは貴方のせいでもあるんですけどね! と声を大にしていいたい。

 が、アーレン王国の階級は絶対だ。

 拒否すれば面倒なので仕方なく顔を上げるしかない。

 まぁ私は外国人の設定らしいので、このままお断りしても良いのだろうが、どうせ押し問答が続く。

 ガードナー侯爵は一度言い出したら、折れる事はない。今までの殆どの事を思い通りに動かしてきたらしいので、折れる必要がなかったのだろう。


 魔道具で変装しているとはいえ……、幼い頃の記憶は朧げな筈なのに痛烈に残っている。


 今にも震え、動悸がしそうな自分を叱咤激励しながら、顔を上げた。


 大丈夫。


 今の私は違う。



 顔を上げると、本来の私と同じ、黄金の目に淡い青色の髪をもつ美丈夫と目が合った。



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