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32、嫌味な奴

「よっ! 久しぶり!」


「お前……全然変わってないな」


 クリードとは変な距離感で話してしまった。

 なので扉を開けてすぐ、そばに居たダグラスにはこれでもかと気安く話しかけたら、あの言い草だ。

 少し眉を寄せて言い放ったダグラスの言葉にイラッとした。

 変わっていない……いい意味で言ったんじゃないのは話し方でわかった。



 成長してなくて悪かったですね!! 相変わらず嫌味な奴である。そう言うダグラスだって変わってないじゃん!!

 私は隠さずにブスっとしてやった。私はもう貴族令嬢でもなんでもないつもりなので、表情筋豊かで良いはずだ!

 ん? 貴族令嬢のままなんだけっけ? まぁいっか。

 そう言うところが変わってないと言わんばかりにダグラスは更に眉を寄せた。うきーっ!!



「ダグラスはこのまま警備? 私の部屋が残ってるみたいだから、そっちで休むわ」



 これ以上話すとさらにイライラしそうだったので早急に話を切り上げ、自室に行く。

 数年離れていたとはいえ王城は庭みたいなもんだ。

 少々変わってても大丈夫だろう。

 スッとダグラスを横切り、自室へ向かおうとすると何故かダグラスも付いてきた。

 付いてこなくていいのに!



「クリードの警護はいいの?」


「部下達に任せてきた。それにあの部屋は王城で1番安全だ」


「えっ? そうなの? 普通に入れたよ?」


「本来は窓からは侵入不可な筈だが……悪意や危害を加えようとする意思がなければ大丈夫だ」


「へ〜? すごい部屋なんだね?」


「まぁな」


「えぇっと……別に変な事しないよ?」


「そこは信用している」


 今思えば私は、婚約破棄をした上に失踪した要注意人物として見られても仕方ない。魔道具で髪の色は変えたが、分かる人にはわかるだろう。

 そう言えば、ローザもクリードもダグラスも一目見てアリシアとわかった様だ。流石!! と思いつつ嬉しくなった。

 どうやら保安上、私が要注意人物で見張っているわけではないらしい。



「案内は不要だよ?」


「ここ数年で部屋の改装が行われていた。大丈夫か?」


「流石に改装しても廊下の構造までは変わってないでしょう? それなら大丈夫だよ」



 あからさまの子供扱いにゲンナリしつつ、ここは大人の対応をして、驚かせようとした。

 ただダグラスの次の一言で私の方が驚いたのだった。



「…………ガードナー侯爵が今王城内にいる」


「…………何故?」


「6大侯爵家の1人だ。いてもおかしくはないだろう?」


「そう……なの?」


「まぁ……そう言った俺も同じことを思った。本人に問いただしたらさっきと同じ返事が返ってきたよ」


「……そう」


「最近は頻繁に来てたな」


「なるほどね」


 私が王城に出仕していた時は、私と顔を合わせたくない為か、基本的に使いの者に任せていた。

 お父様が王城に上がるのは、月に一度、侯爵本人でないとダメな時だけだ。

 緊急ではない限り、それは月初めに行われる。今は月末、領地の月末決済資料を作るのに忙しいはずだ。

 まぁ殆ど家令が準備しているから侯爵本人はそれほど忙しくはないはずだけれど。


 それなのにお父様はここ最近はよく登城していた。

 何か企んでいたのだろうか? ローザの印との関係があったのかもしれない。また新たな計画があるのかも。

 気を引き締めて行かないと……と思いながら勝手知ったる道を進む。


 そんな事を考えているとピリリと空気が変わる。王城の様々な経路を考えたけれど、どうやら避けられそうにない。

 私は仕方なく顔と声も変えた。ラルフの魔道具は本当に凄い!! 私の事をカケラも気にしないあの人なのだ。なのであの人にそこまでする必要はないかもと思うが……。

 念の為。

 ……私の心の安定のため。認識阻害の魔法もかけようかと思うが、魔法は怪しまれそうだったのでやめた。



 私は平静を粧い、通路の左端による。両手をクロスさせて胸におき、膝をついて首を垂れる。

 この国の最高の敬意を現す姿勢だ。ダグラスも私にならい左端により片膝をつき、利き手を、胸に手を当ててお辞儀する。



 遠くからコツコツと音が鳴る。大理石を歩き慣れたあの人は相手が待っていても気にしない。

 端に避けている分には置物と変わらないと思っているだろう。

 靴音から珍しく従者を連れておらず1人の様だ。王城は防犯上の観点から通路は大理石でできている。寝室の近くのみ絨毯をひいてある部分もあるが、それも中央のみだ。この近くには誰かの寝室はないので、遠くまで足音が響く。


 相手側もこちらの魔力を感知しているはずなのに急ぐ様子はなく、わざとゆっくり歩いている感じがしてイライラする。


 だいだいダグラスは次期侯爵家当主だ。

 道を少し譲ったとしても膝をついてまで、お辞儀をする必要はない。

 ダグラスが、そこまでする必要ある? と思いつつ、ちらりと横目でダグラスを確認する。

 それに気づいたダグラスなこちらを見てふっと笑う。

 どうやらワザとやっているようだ。

 ダグラスがそうしているから、これが合理主義(ダグラス)の正解なのだろう。


 大体私との距離も近い……。これだと知り合いだと言わんばかりの距離だ。

 変装しているとはいえ、なるべくあの人とは関わりたくないので、私はメイドでも装いたかった。がそうはいかないみたいだ。

 ダグラスは何を考えているのかしら??


 まぁダグラスが間違えたところは、今まで見たことがないのでこの距離感も間違いないのだろう。


 私は反論せずに、視線を床へ戻した。足音がすぐ側まで聞こえてきた。

 本来なら私達は置物……嫌味なくらいゆっくり通り過ぎていくと思っていた。


 ……嫌味なくらいゆっくりだった歩調が止まった。


 どうやら、ただでは通り過ぎてくれないようだ。


 やっぱりダグラスのせいだよね?



クリードは、アリシアが大人になったと思ってますが……。

少し遠慮があったのと、家族が出来て余裕が生まれたのは確かですが、アリシアの本質は変わってません。

あっ、でも、ちょっとは遠慮する様になったから大人になった? のかしら?

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