原作視点 悪役令嬢VSヒロイン ーーことね視点
あの邂逅から数日後の深夜。 私は、自らの気持ちを抑えられないでいた。
秀五郎に湊を軟禁したことがバレたのだ。
湊はことねの監視役。 それが、私が自由に行動できる条件だった。 監視役を軟禁していたことがバレたらーー 私は、無敵ではなくなったのだ。
「柳田秀五郎⋯⋯気付かれた⋯⋯すべて⋯⋯⋯桐原彩乃⋯⋯のせい⋯⋯⋯⋯処す⋯⋯消す⋯⋯壊す⋯⋯潰す⋯⋯殺す……」
「ことね様! お静まり下さい」
「うるさい、うるさい!うるさい?」
「ことね様!お許しを!」
黒装束姿の柳田美月に気絶させられる私。 薄れて行く意識の中で私は、地下で湊と話していたことを思い出す。
◇◇◇
「ここの生活には慣れたかしら?」
「⋯⋯」
「また頭の中で、桐原彩乃のことを考えているようね」
「⋯⋯」
「⋯⋯ねえ、ここから出れる方法を教えてあげるわ」
「⋯⋯方法⋯⋯」
「桐原彩乃のことは忘れなさい」
「⋯⋯」
「なに? 簡単なことでしょ? ⋯⋯貴方は私の駒。 忘れたの? 貴方のせいで私が今、こうなっていると言うことを」
ーー貴方が他の女とイチャイチャしてるから私、憎くて堪らないの。
「ねえ、湊⋯⋯寂しいよ。 私がそばにいるのに、別の女のことを考えるなんて」
「⋯⋯!」
「そう、貴方は川端ことねのお世話係。 ⋯⋯川端ことねから離れられない」
ーー湊と私は一心同体。 離れるなんて、許さない。
◇◇◇
次の日の朝、私はいつものように登壇していた。
「今日も一日、規律に基づく生活を送りなさい」
「⋯⋯あの生徒会長。 文化祭は行わないのでしょうか?」
ーーまだ無知な生徒が残ってたようね?
この三つ編みの女。 どこかで会ったことあるかしら?
「⋯⋯ひ、ひぃ。 私はただ疑問に思っただけで⋯⋯ 」
「⋯⋯そう。 貴方の頭の中は、随分と呑気な物のようね」
「⋯⋯入学する前から聞いていたんです⋯⋯体育大会と文化祭は、この学校⋯⋯土地にとって、そして貴方にとっても大切な行事だと⋯⋯」
「くだらない、説明は終わったかしら? ⋯⋯そんなどうでもいい行事、この学校には必要ないの」
その時だった、桐原彩乃が私の視界に現れた。
「⋯⋯なんのつもりかしら、桐原彩乃」
「もうこれ以上貴方の好きにはさせない! みんな、やろうよ文化祭!」
「⋯⋯面白いことを言うわね。 かわいそうに。 この前、会った時に見逃してあげたから誤解したのね⋯⋯私に逆らっても問題ないと」
「川端ことね! 独裁もここまでよ! これ以上、貴方の好きにはさせないわ」
「ふふ。 桐原彩乃、貴方になにができると言うの?」
「みんな! 文化祭やろうよ! ⋯⋯そして、取り戻そう私たちの学校を!」
『ぬ~力が抜けていく⋯⋯』
彼女から発生した正気が悪霊の力を弱らせる。 生徒達に正気が戻っていくーー
桐原彩乃。 彼女は、私の天敵のようだ。
「⋯⋯今日の朝礼は以上よ。 今日も規律に基づく生活を送るように⋯⋯」
私は逃げるように、この場を去ることしかできなかった。
ーーおかしい! こんなのおかしい! 桐原彩乃! 私は貴様を許さない!
私の心は既に、憑いた悪霊よりも禍々しかった。
朝礼の後、私は体を引きずるように、湊の元へ向かった。
「お嬢様!」
「おい! ここを出ろ! 高坂湊!」
私はドアを乱雑に開けて、湊に指示を出す。
私の心は今、あの女から溢れた生気で気分が悪くなっていた。
「あり得ない、あの女! 桐原彩乃!」
「⋯⋯彩乃⋯⋯」
「⋯⋯貴方、勘違いしているようね。 学校が救われても、貴方は誰にも救われないわ! 残念だったね⋯⋯湊」
「ことね? ことねがいるのか! ことねを返せ悪霊め!」
「勘違いしているのね湊! 私は最初から正気よ! 貴方は私の駒! 貴方は私だけを見ていればいいの! ⋯⋯桐原彩乃なんかじゃなく、私のことをね!」
「⋯⋯そんな! 嘘だ! ことね!」
『いいぞ! この絶望感! まさに生き返るようだ!』
ーー堪らないわ! 彼の絶望した表情! そして何より、私のことだけを考えていることじたいが! そうよ! 貴方はずっと私だけを、私のことだけを見てればいいの! ああ、ゾクゾクするわ!
「くくく⋯⋯いいぞ絶望! 力がみなぎる! 絶望がある限り、我は不滅だ!」
地下室に私の声が響き渡る。
その後、私と湊は生徒会長室に戻っていた。
私は、椅子に堂々と座ったが、湊は部屋の端に座りこんでしまっていた。
その時、ドアが蹴破られる様に開いた。 その後、中に入って来たのは、忌々しい女、桐原彩乃だった。 部屋の主である私は、それを迎え入れる。
「桐原彩乃⋯⋯貴方、本当にここまで来るとは思わなかったわ」
「川端ことね! 貴方の独裁はもう終わりです!」
「終わり? ⋯⋯ふふ、面白いことを言うのね。 桐原さん。 どんな手を使おうと、無駄よ! この学校は、私の掌の上にあるのだから」
私の発言を聴いていないのか、この女は視線をあたりを見回すように見た後、端で蹲っている湊に駆け寄り、声をかける。
ーー私はそれが気に食わなかった。
「⋯⋯ふん、何しているの? コイツは、私の駒のひとつにすぎないのに」
「会長のことなんて気にしないでいい! 私と一緒に、もう一度立ち上がろう湊」
「⋯⋯彩乃、ありがとう」
見る見るうちに生気を取り戻す湊を、私は見ていられなかった。
ーーなんで? なんでなの? 私のなにがいけないの? 私は湊を! 私は湊のために頑張っていたのに! 許せない! この女!
「⋯⋯なるほど。貴方のやり方で、この私に抗うつもりなのね⋯⋯いいわ。 全校生徒の前で、私と貴方たちで最後の勝負をする覚悟はあるかしら?」
「もう、怖くない。 湊、私たち一緒なら絶対に負けない」
「うん、彩乃⋯⋯君と一緒なら、俺はなんだってできる!」
「この学校は私の王国。 私の理想に逆らう者は、粛清する」
◇◇◇
「うぐ! グアアア」
「悪霊⋯⋯ここはアンタの場所じゃない! 今すぐに消滅せよ!」
全校生徒の目の前で大恥を晒す私。
なんだ? なんだよ! 見るんじゃないわよ!
桐原彩乃は封印の札を私に貼り付けて来る。
ーーコイツ何者なの? この私を退治しようとでも言うの?
「小癪な技を! この体がどうなってもいいの?」
「⋯⋯! アンタこそどう言う意味よ!」
「ハハハ、なにも知らないのね」
『俺様が離れるとコイツの体がどうなるかな?』
「アンタ、宿主になにをしたの!」
『ハハハ! 俺様はただ事実を言ったまでだ!』
ーーその通りだった。 もはや私たちは一心同体。 いや、私の方が最初から上だった。 コイツは人間の絶望感を糧に生きる悪霊。 そして私はその力を使い過ぎた。 もはや、絶望感しかない私は、コイツがいなければ、廃人になるだけだ。
悪霊が抜けた私はただ、寝転がることしかできなかった。
そんな私の前で見えた光景は、今にも消えそうな悪霊と、二人が喜んで抱きしめ合う姿だった。
ーー許せない! お前たち! この学校! すべてが! 憎い!
『感じるぞ、⋯⋯ハハハ。 やはり最高だ! 絶望の味は⋯⋯』
悪霊が私の負の力を使い私を転送させるーー
私は唖然とする二人を、朧げに見ながら消えるのであった。




