原作世界 悪役令嬢VSヒロイン
理想学園の朝、地獄のような一日の始まりーー生徒会長の川端ことねの朝礼が行われていました。
「今日も一日、規律に基づく生活を送りなさい」
「⋯⋯あの生徒会長。 文化祭は行わないのでしょうか?」
静寂の中、その弱々しい声が響いた。 会場に声が響いたことに驚いたのは、その言葉を発してしまった、本人であった。 ーーという設定です。
その本人ーー黒装束のボスは、この場でことねの権威を見せつけるために、吉澤ひとみという人間として、現れたのです。
周りにいた生徒が逃げるように、ひとみから一斉に離れました。
そして、孤立した人物へ、ことねの視線が向けられました。
実は、ひとみはことねに視線を向けられたのは、初めてだったのです。
直視される喜びに内心震えながら、言葉を繋ぐひとみ。
「⋯⋯ひ、ひぃ。 私はただ疑問に思っただけで⋯⋯ 」
「⋯⋯そう。 貴方の頭の中は、随分と呑気なようね」
「⋯⋯入学する前から聞いていたんです⋯⋯体育大会と文化祭は、この学校⋯⋯土地にとって、そして貴方にとっても大切な行事だと⋯⋯」
ひとみの発言は、嘘ではありませんでした。 本来なら、ひとみは両方とも楽しむつもりだったようでした。 ーーしかし。
「くだらない、説明は終わったかしら? ⋯⋯そんなどうでもいい行事、この学校には必要ないの。 影よ! この愚かな愚民を捕らえなさい!」
「……」
ことねの号令により、黒装束が現れ、ひとみを捕縛しようとします。
しかし、その時。 桐原彩乃が黒装束の前に現れました。
黒装束たちは動きを止めます。 この状況は、予想外だったからです。
黒装束のボスであるひとみは、内心苛立ちを隠せませんでした。
川端ことねは、冷徹な眼差しで桐原彩乃に問いかけます。
「⋯⋯なんのつもりかしら、桐原彩乃」
「もうこれ以上貴方の好きにはさせない! みんな、やろうよ文化祭!」
彩乃は、ここに集まっている全校生徒に呼びかけます。 生徒たちは、ぼんやりした様子で二人を見ていました。
「⋯⋯かわいそうに。 この前、会った時に見逃してあげたから誤解したのね? 私に逆らっても問題ないと……」
「なんですって?」
二人は互いに、睨み合います。 生徒たちはその様子を見つめることしかできませんでした。
「川端ことね! 貴方の独裁もここまでよ! これ以上、貴方の好きにはさせないわ!」
「ふふ。 桐原彩乃、貴方になにができると言うの? ⋯⋯影よ! 桐原彩乃を捕らえなさい!」
川端ことねが指示を出しました。 しかし、黒装束は動きません。
まさかの事態に、生徒たちから声が漏れ始めます。
それに一番驚いたのは、ひとみでした。 彼女は、目の前の黒装束がよく見ると、自分の部下たちではないことに気づきました。
いつの間にか、部下がすり替えられていたのです。
「みんな! 文化祭やろうよ! ⋯⋯そして、取り戻そう私たちの学校を!」
桐原彩乃の発言で、生徒たちの目に生気が戻っていきます。 それと比例するように、ことねの様子がおかしくなっていきます。
生徒たちの希望の意識が、絶望を糧にして稼働していることねにとっては、有害だったのです。
「⋯⋯今日の朝礼は以上よ。 今日も規律に基づく生活を送るように⋯⋯」
川端ことねは、まるで体を引きずるようにその場を離れるのでした。
独裁者が退散した校庭に、桐原彩乃の声が響きます。
「みんな! 私は戦うわ! そして川端ことねを倒し、この学校を元に戻すわ!」
桐原彩乃は、生徒たちに呼びかけるように声をかけているのでした。
「一体、どうなってやがるんだ……」
ひとみは呟くように、呆然とするしかありませんでした。
校庭で、学校革命が起こる中。 ことねは、地下にいた湊を連れ出して、生徒会室へ戻って来ました。
「あり得ない、あの女! 桐原彩乃!」
「⋯⋯彩乃⋯⋯」
「⋯⋯貴方、勘違いしているようね。 学校が救われても、貴方は誰にも救われないわ! 残念だったね⋯⋯湊」
「ことね……正気に戻ってくれ!」
「……私は最初から正気よ! 貴方は私の駒! 貴方は私だけを見ていればいいの! ⋯⋯桐原彩乃なんかじゃなく、私のことをね!」
「⋯⋯そんな! 嘘だ! ことね!」
告げられた発言に、高坂湊はその場に跪きました。 ーー信じたかった。 ことねをこんな人間だと思いたくはなかった。 俺は今まで、なにをやっていたんだろうなーー
湊に強い絶望感が漂いました。
「くくく⋯⋯いいぞ絶望! 力がみなぎる! 絶望がある限り、不滅だ!」
高笑いする声が、生徒会長室に響く中、湊は昔を思い出していました。
「湊! これからお出掛けしましょう!」
「駄目だよ、いつも勝手に出歩いて怒られているだろ!」
「⋯⋯父様も母様も私に過保護すぎるよ!」
「当たり前だろ! ことねは、大事な存在なんだから……」
「⋯⋯大事? ……それって私のこと自身が? それとも存在が?」
「⋯⋯それは⋯⋯」
「⋯⋯湊。 答えてくれないんだ⋯⋯」
ーーあの時、なんで俺は答えなかったんだろう。 なぜ今、あの時のことを思い出しているのだろう。
湊が絶望するほど、ことねは力を取り戻していくのでした。




