ひとみファンクラブの強行
深夜、少し寒くなって来た教室の中に、美羽はいました。
中にはすでに、人だかりが。 その中の中心人物は吉澤ひとみでした。
『神子様のご加護を⋯⋯』
そう、この集まりは神子様を慕う者達の集いでした。
「美羽⋯⋯準備は出来ております。 こちらへ⋯⋯」
「わかりましたわ⋯⋯」
美羽は、そんなひとみの横へ座りました。
「これより、近況報告を行います。 お手元の資料をご覧ください」
ひとみが指示した資料には、ことねのことが細かく書かれた、資料がありました。
「我々の目的は⋯⋯神子様を崇拝すること。 そして、彼女の存在を世間に、知らしめることです」
『神子様栄光あれ!』
「この度の文化祭⋯⋯そこで行う舞台劇に、神子様の名前を入れることに成功しました」
『素晴らしい!』
「これにより、ますます我々の目的達成に、近づくことでしょう⋯⋯嗚呼、そう言えば美羽殿、本日の神子様の晩食はいかに?」
信者たちーーひとみファンクラブの面々が美羽を期待の目で見ました。
そんな中、美羽は胸を張り自信満々に声を張り上げました。
「ふふふ、本日はなんと! カレーライスですわ!」
「⋯⋯なんと、素晴らしい⋯⋯」
「神よ感謝いたします⋯⋯」
「この喜びを、後世に伝えなければ⋯⋯」
ひとみが喜び、それを見た面々が喜びました。
しばらくトリップした後、ひとみがワザとらしく声を上げました。
「ははは⋯⋯はあ、それにしても嘆かわしい。 我々の野望が、頓挫する事態になるとは⋯⋯誠に遺憾だ」
「しょうがないですわ。 瑞稀が帰って来ましたもの⋯⋯」
「そう! それですよ! ⋯⋯ざっけんなよあのアマ! 神子様の願いを阻止するなど言語道断だ。 存在自体が憎いぜ!」
髪を掻きむしり、目を爛々とさせる。 そして汚い言葉を吐く彼女は、とても昼間の彼女と同一人物には、見えませんでした。
「ひとみん⋯⋯神子様は瑞稀のことが大好きなのですわ。 ⋯⋯瑞稀になにかあれば、傷付きますので⋯⋯」
美羽に説得されたひとみは、正気に戻りました。
「⋯⋯失礼しました。 つい苛立ってしまい⋯⋯申し訳ございません」
まあ、失礼ですわね。 ご飯を食べる時は、しっかり起きてますわよ。
「とにかく、文化祭では神子様に、楽しんでいただけるよう施策と、我々の影響力の拡大を目的に進行していきます。 ⋯⋯そう、全ては偉大なる神子様のために⋯⋯この命捧げます」
『偉大なる神子様のために⋯⋯』
◇◇◇
昼休み。 そこには、昼寝をしている瑞稀と美羽の姿がありました。
「ぐ⋯⋯シュシュ。 上、下、右」
「焼きそば、たこ焼き、ラーメン⋯⋯」
「瑞稀、美羽。 ⋯⋯二人とも起きなさい」
姫様が、二人を叩き起こしました。
「ぐ、うぇ? 朝?」
「ああ、ことね。 いただきますわ!」
「痛。 ⋯⋯今はもう昼休みよ。 美羽、私に噛みつかないで」
「ご飯、ご飯! ですわ〜」
美羽は、歌を歌いながら教室から、出て行きました。
「瑞稀。 ご飯食べなさいよ、じゃないと体が持たないわよ」
「えっ。 うん、ありがとう」
今やすっかり馴染んでしまった、学校の姫様。
瑞稀は思いました。 最後に『ことね』と話したのはいつだったかと。
「⋯⋯『ことね』は、もういないのかな?」
「はあ。 ⋯⋯だからそれは、私が一番聞きたいわよ。 私が寂しくて、泣きそうな時⋯⋯『私』はいつも励ましてくれた。 ⋯⋯今だってそう。 なのに、最近あの子が遠く感じるの⋯⋯どうしてかしら?」
胸に手を当てながら姫様は、空を見上げ問いかけていました。
その後、しばらくして美羽が戻ってきました。
「ふふふ。 校内バイキングは最高ですわね。 後は蛇口ジュースがあれば、よかったのに⋯⋯」
「ミウミウ。 また、変なこと言ってるの?」
「クスクス⋯⋯ですわ」
突然、笑い出す美羽に狼狽える瑞稀。
「⋯⋯瑞稀。 私には、協力者がおりますのよ。 それもたくさん! ですわ」
「なんだって! ⋯⋯買収したのミウミウ?」
「まあ! 瑞稀ったら、物騒ですわね。 私はただ、一声かけただけですわよ」
そう言うと、瑞稀の方を見て自慢気に笑う美羽。
するとそこへ、ひとみがやって来ました。
「ああ、美羽。 忘れ物です〜」
「あれ? えっと⋯⋯はわわさん?」
「吉澤ひとみです」
瑞稀の呼びかけを軽く流した後、美羽の側に近づきました。
「ひとみん! どうしたのだわ?」
「美羽。 こちらデザートです!」
そう言うと、ひとみが取り出したのは、巨大なホイールサイズのケーキでした。
「わぁ。 いただきます〜 美味しいですわ」
「それは、よかった⋯⋯」
「美羽⋯⋯コイツに手懐けられたのね」
姫様が、つまらないものを見る表情で、ひとみを一瞥しました。
一方、ひとみは、緊張した表情を浮かべ、姫様に挨拶をします。
「はわわ。 みこ⋯⋯川端さん、初めまして。 吉澤ひとみと申します」
「ことね。 モグ、ひとみんはいい子ですわよ。 モグモグ」
「⋯⋯そう。 貴方にとってはね」
姫様は、ひとみへの警戒を緩めませんでした。
気まずい空気に混ざりたくない瑞稀は、寝たふりをしました。
「⋯⋯瑞稀。 なに寝ようとしているのよ。 起きなさい」
「⋯⋯え、いやだよ」
嫌がる瑞稀に声をかけたのは、ひとみでした。
「倉石さん。 川端さんの言うことに従いなさい」
「えぇ? どうしようかな?」
「モグモグモグ。 ご馳走さまですわ! ふふふ、瑞稀⋯⋯この方こそ蛇口ジュース計画の協力者ですわよ」
「君か! なんてことをしてくれたの! お陰でミウミウが調子に乗ったじゃない!」
「全ては⋯⋯の意のままに」
瑞稀が文句をいうと、ひとみは姫様に向かい、祈り始めました。
その後、苦虫を噛んだ表情で瑞稀にこう言います。
「別に⋯⋯この件で貴方と会話する気持ちはありません⋯⋯」
「なんですの? 私はただ蛇口ジュースを設定したら『ことね』が喜ぶと思って⋯⋯実行しようとしましたのに」
「⋯⋯はあ。 美羽、たしかに『私』は喜ぶでしょうね、その蛇口ジュース」
「ですわ!」
「⋯⋯神子様信仰会に告ぐ。 今すぐに蛇口ジュース施工開始だ」
『全ては神子様のために』
すると、隠れていた。 ひとみファンクラブの人たちが暴れ出しました。
「⋯⋯まあ、瑞稀にとってはいい目覚ましかしら?」
「わぁ! 蛇口ジュースですわ! ⋯⋯これで私の夢の学園生活が達成されましたわね、オホホホ」
瑞稀は、完成した蛇口ジュースの前で跪くのでした。




