美羽とことねと姫様 その5 ーー川端ことね視点
静かにしておくつもりだったのに。 ーー呼ばれたなら出るしかないようね。
「⋯⋯その通りよ、美羽が探していることね、は私よ……」
「どういうことですの?」
「……貴方が今まで、接していたことねは、私ではないの。 本当の私は……」
私はミステリアスに決めようとしたーー その時、櫻井家の別荘の愛犬ジョセフが入ってきたーー
「ワンワン」
「ジョセフですわ! おはようですわ!」
「⋯⋯あ。 ワンちゃん……」
「ワンワン」
私はジョセフを見つめる。 なんてかわいいのかしら? ーーまあ、好きで言ったら猫の方が好きなんだけど。
「ことね?」
「⋯⋯ワンちゃん。 かわいいワン……」
『ジョセフだよ私。 ⋯⋯それよりも今、美羽ちゃんと大事な話の途中じゃなかったの? ⋯⋯駄目だ。 ごめんね、美羽ちゃん。 姫様がそれどころじゃないらしくてね! ほら! 一緒にお父さんを説得しに行こ!』
そういうと、私は体の主導権を奪われた。 ワンちゃんが、私から遠ざかっていくーー ガッカリだわ。
結局その間、二人で和馬に説得をして、渋々ながら承諾を得た私たちは、祭に向かった。
祭の会場に着くと、もう一人の私ーーことねは、ニコニコしながら屋台を見周した。
『わあ、美羽ちゃん! いっぱいあるよ! どこから食べようか?』
「ことね、食べ周る気満々ですか?」
『そうだよ! 全部食べるんだ!』
「そんなの無理ですわ! ⋯⋯さすがに祭の屋台のご飯を食べ尽くすには時間が足りませんわ⋯⋯」
うん? このお嬢様、とんでもないこと言わなかった? ーーなにかしら? 嫌な予感がするわね。
『まずは唐揚げ棒だよ! 美味しい!』
ーーまったくことねは呑気ね。 横から変なオーラを感じているのに。 それとも、これが貴方のいうサディストと言うことなのかしら?
だったら私には無理ね、さっきから怖いからーー
「⋯⋯一口食べてもいいかしら?」
『当然だよ! はい、どうぞ!』
「とても美味しいですわ! もっと食べたいですの!」
『お! 美羽ちゃん、やる気だね! どんどん食べようね〜』
美羽は唐揚げ棒を手に持っていた。
ーーそこまでは、目で追えていたわ。 でも、いつの間にか、唐揚げが消えていたわ。 ちゃんと噛んだのかしら?
『あれ、美羽ちゃん? もう食べちゃったの! ⋯⋯待っててね、買ってくる!』
ーーこうして、私は見事に配膳係を任されることになったーー
『唐揚げ棒、フランクフルト、たこ焼き、豚平焼き、焼きそば、チョコバナナ、りんご飴、クレープ、綿菓子、ポン菓子、ベビーカステラ、かき氷⋯⋯』
「なんですの! 呪文見たいに唱えないでください!」
『全部、美味しかったね!』
「そうですわね! ⋯⋯でもまだまだいけましてよ!」
「やめなさい。 貴方食べすぎよ。 ……体、大丈夫なの? 祭だからって食べ過ぎは⋯⋯」
「はい。 祭だから、しっかりと抑えてますわ! 私はしっかりと加減ができる人間ですので!(キリ!)」
なに決めポーズとっているの? 全然加減なんてしてないわよーー
『大丈夫? ゆっくりしとく?』
「いいえ、むしろ、食後の運動をしたい気分ですわ!」
『ちょっと! 美羽ちゃん、あんまり走り回ると危ないよ!』
「⋯⋯なんなのかしらあの子」
『でも元気なのはいいんじゃない?』
「⋯⋯ふん。 ⋯⋯ってあの子、なにしているのよ」
『うん! 遊戯屋台にクレームを入れているね!』
「はあ。 ……行くわよ」
私は美羽に駆け寄る。 彼女は的当てをしていた。
「⋯⋯イチャモンをつけているのかしら?」
「この屋台、景品に接着剤を塗っているのですわ! だって何度当てても手に入りませんもの!」
「⋯⋯で? どうなんですか?」
私が問いかけると、店員は困った顔をする。
「お嬢ちゃん! それは、掠ってたぐらいじゃ落ちない大物だからだよ」
「⋯⋯だ、そうよ」
「くう! 次なのだわ!」
次は、スーパーボールすくいね。 あ、破けたわ。 美羽の顔が怒りで歪んでいるわね。
「このポイ詐欺ですわ! ワザと破れ易い素材を使用してますのね!」
「美羽お嬢様。 そうでなければ遊戯にならないでしょう?」
「お嬢様?! ……えっと、次ですわ!」
私が指摘すると、美羽は赤面しながら離れていった。
ーーそれで次はなんなの?
「くう! 大将! このカラボールのバネおかしいですわ! 全然跳ねませんわ!」
「⋯⋯お嬢様。 こちらはこのように使うのです……」
「素晴らしい! お客様! 大当たり!」
まあ、こんなものね。
「ことね! 凄いですわ!」
「ちょっと、抱きしめないでよ。 痛っ。 ……この子、力強いわね」
そう思っていると、ことねが口を開いた。
『的当て、スーパーボール、金魚すくい、カラボール⋯⋯』
「また、呪文ですの⋯⋯」
『全部楽しかったね! ⋯⋯ね、美羽ちゃん?』
「すみませんでしたわ!」
『美羽ちゃん、落ち着いた?』
「ええ、そうですわね。 ⋯⋯そろそろ、お腹もすいてきましたし、たこ焼き食べますわ!」
『美羽ちゃんのお父さんが説得してた理由がわかったよ⋯⋯』
まったくなんなのかしらこの子は。 ーーだけどいいわね。
「ことね! この場所が一番綺麗に花火が見えるんですわ!」
『すごいね! 美羽ちゃん! 自分で見つけたの?』
「いいえ。 昔、パパがここに連れて来てくれたの! でも、最近のパパは意地悪で屋台のご飯は駄目! とか、ちゃんと食べた量と値段を申告しろなどと、うるさいですわ!」
『あ、そうなんだね⋯⋯』
私は花火を見上げる。 花火はまるで、悲鳴のように音を奏でる。
ーーというか、うるさいわね。 誰か叫んでいるんじゃない? 「美羽、美羽」って瑞稀の声がするわよ?
美羽が私の方を向いて、不思議そうだった。 私は美羽に話しかけた。
「美羽、なにかしら?」
「やっぱりですわ! 貴方! ことねですわ!」
「はあ。 ⋯⋯まあ、そうだけど? ⋯⋯なに?」
「困りましたわ! 読み分けられませんわ! どうすればいいのかわかりませんわ!」
困っている彼女に私は囁く。
ことねと姫様でよろしくとーー




