痛
楠の復活を皆で喜び、本当の意味で事態が終わりを迎えた。
白鴉が見上げる空は不穏な霧雲が漂っていたのが嘘のような青天だ。
「この場はもう大丈夫そうだな。私は戻るぞ。」
「……あぁ。」
何か思うことがあったのか、ひと呼吸置いてから阿蘭が返して白鴉を見守った。
上空に舞い上がる頃には既にいつもの鴉の姿へ戻っており、楓の中ではそれも相まってこの一件の完結を感じた。
「ねぇ、手当しなくて大丈夫?二人共…」
「寝たら治る。」
答えながらゆっくり立ち上がる吽蓮。見るからに重傷だ。
「…嘘でしょ?そんな傷だらけで…」
「強ち間違いではないのだがな。…その腕は添え木させろよ、蓮。」
明らかにおかしな角度になっている吽蓮の左腕を痛々しそうに見、阿蘭が手招きをする。
「……。」
吽蓮は黙り込んで険しい顔で地面を見ている。
「蓮。どうした」
「…多分、これ…“痛い”。」
「おい…蓮、耐えろ!今は…っ__だめだったか…」
「蓮くん…!どうしちゃったんですか?」
突然倒れ、狛犬の姿に戻った吽蓮に心配そうに駆け寄る杏。
「簡単に言えば気絶しただけだ。」
「は?さっきまでピンピンしてたのに?」
「痛覚が戻ったんだろうな。痛みに耐え切れなかったんだ。はぁ、そんな気はしていたんだ。白鴉さんを引き留めようかとも思ったが…せめて人型を保っておけよ…」
今痛覚というものが欠如していた吽蓮だったが、それが今になって戻って来たらしい。怪我の具合から見ても相当の痛みだろう。倒れても仕方がないが、阿蘭にしては珍しくブツブツと文句を言っているのが少し愉快だ。
「どうするの、吽蓮。」
「このままにしておけないだろう。社までどうにか連れて行く。」
盛大に溜息を吐く阿蘭。それもその筈だ。狛犬の姿は、人型の時よりずっと重い。
三人で知恵を絞り、枝を編んで楓と杏の帯紐を結び、簡易の橇を作る。
楠の力も借りて、やっとの思いで彼らの社に到着するまで今回の完結をお預けになった。




