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白鴉と楓が吽蓮達の元へと降り立った時には事態は収束していた。

傷だらけの阿蘭、吽蓮、そして杏が倒れている楠を見守っている。

「杏…」

「楓ちゃん!…どうしよう、楠…どんどん身体が…」

近付くと、涙声で訴える杏の言わんとしていることがわかった。

「崩れていってる…?」

「力の使い過ぎだ。成ってすぐにあれだけ暴走すれば瓦解もするだろう。」

阿蘭が冷静に分析する傍ら、吽蓮は黙って楠を見つめている。

「もう…何も出来ない、ですか?私達…っ、見ているだけ?」

涙の止まらない杏の視線から逃げるように阿蘭が視線を逸らした。

それを答えと受け取ったのだろう。杏もそれ以上何かを尋ねたりはせず、鼻を啜りながら楠に向き合った。

「……。」

頭を撫でどう捻っても慰めの言葉など出てくるはずもなく、楓も静かにその哀しい光景を眺める。

ピィィ_

(飛燕?…_!)

楓を探しているのだろうか、遠くで飛燕の声がした。飛燕の存在である事を思い出した。

「杏、まだ間に合うかも。」

「え…っ?」

「杏が楠と契約するの。使妖にすれば形を留められるかも…!」

かつて、巣から落ちて、妖に成りかけながら消えそうになっていた燕を哀れんで楓は契約をして使妖とした。それが飛燕だ。自らの生命力を分け与える代わりに使役するその儀さえ杏が出来れば楠の瓦解は止められる可能性がある。

説明し、少し希望を抱く楓と違い、杏に明るさは戻らない。

「私…そんな、契約の儀なんて…」

「でも何かやらなくちゃ何も変わらないでしょ?」

尤もな楓の言葉に杏も曖昧に頷く。

(出来るのに…自分で否定しちゃう。)

杏の一番の弱さを目の当たりにし、だからといって無理強いも出来ず手詰まりを感じる楓。そうしている内にも楠は余分に膨張していた部分からサラサラと砂になっていく。

「私…」

もし、これで楠を救えなかったら。その気持ちが杏にのしかかって彼女の行動を止めている。こればかりは杏しか出来ない策であり、代わりに行うことも失敗を阻止すべく手伝うことも出来ず成功を祈るしか無い。失敗した時に杏が負う心の傷を考えると、強くは推せない提案だ。

「大丈夫。」

吽蓮が徐ろに口を開いた。

「蓮くん…?」

「杏は強いから。」

そう言った吽蓮の顔を見、楓は黙って目を瞬かせた。

(笑った…?)

今まで表情に乏しかった吽蓮。その彼の口元が微笑んだように見えた。

驚いて顔を上げ、思いがけず阿蘭と目が合った。同じ心地だったようで、傷だらけの顔をほんの少し綻ばせた。

「私…やってみる。」

里にいる人間ならやり方は心得ている。静かに宣言をして楠にそっと触れて目を瞑る。

消え入りそうな詠唱を聴きながら、祈る心地でただ見守る。

「……、汝、共に在れ」

杏が結びの言葉を言い終えると、楠の身体が淡く光った。杏が緊張した面持ちで楠から手を離した。光が収まると、辺りが更に静まり返ったように感じた。

「楠…」

不安に満ちた杏の声。

「楠…?」

次にはもう泣きそうな声に変わっていた。

“失敗”の二文字が頭を掠めたその時__

ハタハタと振られた尻尾が砂を撒き散らした。


「楠っ!」

起き上がった楠が、杏が苦手だった筈の犬らしい声色でワンと鳴く。

泣き腫らした赤い目をしながら満面の笑みで杏が楠を抱き締めた。

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