塞
「!」
しばらく走ると何か動くものが見えた。
(獣…犬_?)
目を凝らすといくつもの岩に纏わりつかれて暴れている。
「阿蘭!」
いつか見た山犬の姿を記憶していたわけではない。ただ、何故だか阿蘭だとわかった。
(肥大化した石鼠。大丈夫…火炎符程度じゃ死なない。)
「動かないで息を止めて!」
楓が手早く火炎符を構えて詠唱をすると阿蘭を覆っていた石鼠達が爆ぜ、一斉に逃げていった。
「大丈夫?」
「すまん、助かった。ざまないな。蓮の所に行こうとしたら群れに囲まれた。…気を付けろ。奴ら、何者かの意思が入っている。」
阿蘭の視線の先には逃げて行った石鼠がぞろぞろと隊をなしてじりじりと距離を詰めてきている。
「どうなってるの?黒い雲みたいなのが急に出てきて、狐狸路も全然いつもと違って小屋に行けないし…」
「初めてではないが特殊な荒れ方ではあるな。低級が悪酔いしている。おそらく楠も…」
楓達を囲んでいるのは石鼠だけではない。朧火や鎌鼬の姿も見える。どれも正気を失って敵意に溢れている。山犬の姿でわかりにくいが阿蘭も傷を受けているようだ。
「…阿蘭、杏達の居場所は?わかる?」
「蓮ならわかる。おそらく杏も楠も蓮の近くにいるとは思うが…」
阿蘭は吽蓮と二人で一対の狛犬の化身だ。吽蓮の気配は辿れるのだろう。
「行って。」
「しかし…」
「楠が凶悪になってたとして、厄介なこいつら引き連れていくわけにいかないでしょ?私は杏達の気配を追えないから。大丈夫、殺したりしないから。」
スラリと刀を抜いて峰打ちに構える楓。里を襲わせまいとする阿蘭と同じく、楓もこの山の妖を殺めないと心に決めているようだ。
「…わかった。」
「杏を泣かせたら承知しないからね!」
目の前の低級達からは目を逸らさず、阿蘭を見送る楓。
「あーぁ、明日…筋肉痛かな。」
夜通し退治に勤しみ、山道を駆け抜けた身体はすっかり温まっている。
杏達の事は気がかりだが、阿蘭を信じて彼が走り去った道に立ち塞がった。
「通さないから。覚悟して。」




