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街での妖退治が数件入り、そちらに手を取られていた所為でなかなか様子を見に行けず、数日振りに訪れた廃小屋。

話し声が聞こえ、邪魔をしないようそっと覗いた小屋の中で、ボロ泣きする杏に「泣くやつ嫌い」と辛辣な言葉を掛ける吽蓮に激怒したのがついこの間のことだ。

悪びれず“自分は悪くない”とぼやく吽蓮と、涙ながらに“吽蓮は悪くない”と訴える杏に困惑した。

その後も杏はマメに小屋に通い、妖犬の様子を楓にも知らせてくれている。あの日の涙の訴えも嘘や庇っているわけではなく本心だったのだろう。

吽蓮の突き刺さる物言いは杏に刺激が強過ぎる。もはや妖犬の様子を見に行くのか、吽蓮を見張りに行くのか。目的が変わりつつある。

「だからって次また杏を泣かせたらただじゃおかないんだから!…あれ?居ない…!」

楓が小屋に着くと、そこには妖犬も杏も、吽蓮の姿も見当たらなかった。

(どこ?まさか妖犬が暴走した…?)

不安に駆られる。まず何かを知っているなら吽蓮だ。急ぎ足で涼水の社へ向かった。


道の確認などせず、確信を持って進む狐狸路の先、涼水の社が見えてきた。

「あ、楓ちゃん!」

いち早く楓の姿を見付けて嬉しそうに手を振る杏が居た。

杏の笑顔に一安心して手を振り返すその後ろに見慣れない影が見えた。

(……でか。)

「え…何か…すごい成長してない?」

楓の記憶では仔犬の大きさだった妖犬は、数日見ない内に大人の狼ほどの大きさまで成長していた。

「そうなの、この二、三日でいきなり大きくなってビックリ。」

犬を怖がっていた筈の杏だが、この妖犬には免疫が付いたようで近くに来ても笑顔で撫でている。

「夜な夜な蓮がこっちに連れてきた所為だ。」

声のした方を見ると、社の階段に阿蘭が座っていた。こちらは変わらずいつも通りの仏頂面だ。

「この山の影響ってこと?」

「少なからずな。」

「連れてきてみろって言ったの、蘭じゃん。」

社の木戸を開けて出てきたのはもちろん吽蓮だ。

「様子見もなく一晩中居させるやつが居るか。俺の目測が間違ってたら一大事なんだぞ。」

「合ってたから良いじゃん。」

どうやら、しばらく居させて妖犬の変化を見るべきだという阿蘭の言葉が捻じ曲げて受け取られたらしい。眉間の深い皺を刻んだままの阿蘭の横を通過して杏と妖犬の元に行こうとした吽蓮。

「吽蓮、危ない!」

「_わ」

じゃれつこうとしたのだろう。楓の警告も間に合わず、嬉しそうに飛び掛かった妖犬に弾き飛ばされた。

「蓮くん…!大丈夫?!」

吽蓮に伸し掛かったまま尻尾をブンブンと振る妖犬。杏が心配して駆け付けるも何事も無かったかのように吽蓮が起き上がる。

「いきなり飛びかかんないで。杏が泣くから」

「違うよ。私が泣くからじゃなくて、痛いからダメなんだよ。あとビックリもするしね?」

妖犬にそれぞれ言い聞かせる様子が微笑ましい。

「…ねぇ。あの二人、いつの間にあんなに打ち解けたの?」

二人のやり取りを見ながら阿蘭に問う。人見知りの激しい方だと思っていた杏が出会って数日程度の吽蓮に自らの弟へするような接し方をしている姿が新鮮だ。

「知るか。本人たちに聞け。」

面倒くさそうに頬杖を付いたまま答える阿蘭だが、二人を見る目は穏やかだ。

「杏一人であいつに関わるの…心配してたけど、大丈夫そうで良かった。」

ふっと息を吐いて、二人を眺める阿蘭の隣に座る。

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