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白鴉たちにからかわれた事に腹を立てながら狐狸路を歩いていた楓の耳に、聞き覚えのある声が飛び込んできた。

(阿蘭と吽蓮…?)

そう大きな声には聞こえない声色。時折、狐狸路はこうして音だけを運んでくる事もある。少し気になって、記憶を頼りに彼らの居る社へと歩く方角を変えてみた。

「いいじゃん。」

「駄目だ。」

「俺が面倒みるから。」

「駄目だ。」

近くになるにつれ言葉がはっきり聞こえてくる。どうやら何か揉めているらしい。

「お前何匹こうして連れてきたら気が済むんだ?」

(吽蓮が犬か猫でも拾ってきたのかな?)

耳だけを頼りに推測する。そろそろ狐狸路の先に彼らの居る社が見えてくる頃だ。吽蓮が何を拾ってきたのか、若干の興味を持ちながら進んでいく。

「ちゃんとみんな成長したじゃん。」

「最終的に殆ど俺が面倒見たからな。こいつはまだヨウセイだろ。そんな不完全なやつをこの山に居させない方が良い。」

(ヨウセイ…?)

「見殺しにしろってこと?」

「人聞き悪いこと言うんじゃない。」

「だってそうじゃん。」

「いいか、蓮。俺達は全ての存在をどうにか出来るわけじゃない。今、この時期にこうなったのもこいつの天命だ。割り切って_」

聞こえてくる単語に、自分が踏み入って良い話なのか、素知らぬフリをして顔を出してみるか、それとも存在を察せられない内に踵を返すべきか。完全に止まってしまった足は、答えを見出すまで動かないだろう。

「じゃあ何も出来ない?」

「俺達にはな。」

「……人間なら?」

突拍子もない考えだったのだろう。吽蓮の言葉に阿蘭が溜息を吐くのが聞こえた。

「考えてみろ。これが人里に下りたら即始末されるに決まってる。」

「違う。破魔の里のあいつ。」

(私のこと?)

「…確かに理解さえすれば即始末はしないだろうが…だからといって俺達が訪ねに行くわけにもいかないだろ。」

「その内暇持て余して来るでしょ。いつもフラフラしてんだから。」

(……。)

悪意の無い歯に衣着せぬ言葉に、楓の頰が若干ピクリと動く。

「ふん、どこぞの誰かと一緒じゃないか。」

「オレ?あんな沸点低い暴力的で気が強いじゃじゃ馬とオレが一緒?」

「ちょっと!黙って聞いてたら好き勝手言って!」

自分を指しているであろう遠慮のない言葉の数々に、ついに堪忍袋の緒が切れた楓が二人の前へ飛び出す。

「あ。ほら来た。」

気まずそうにする阿蘭の隣で、特に驚く様子も無く吽蓮が楓を指差す。

「来た、じゃなくて!人が居ないからって何言ってんの!」

「は?思った事言っただけじゃん。」

「誰が暴力的なじゃじゃ馬なわけ?」

「こういうのに怒るのって大体図星だからだって流風が言ってた。」

怒る楓に対して吽蓮は何とも思っていないようだ。飄々としている。

「っ…、あんた私に何か頼もうとしてたんじゃないの?今のところ何頼まれても聞く気になれないんだけど!」

「……。」

楓の言葉にまずいと思ったのだろうか、吽蓮が口を噤み、そのまま阿蘭に視線を寄越した。

「俺に救援を求めるな。蓮、お前が良くない。」

「……。」

「蓮。」

「ごめん。図星でこんな怒ると思わなくて_」

「蓮…!お前少し黙ってろ。」

溜息混じりの阿蘭に、吽蓮が口をへの字に曲げて沈黙する。

「…すまん、配慮を知らないヤツなんだ。気を悪くしないでくれ。」

冷静な阿蘭の声に、楓の怒りも少し冷めていくのを感じながら頷く。

「で、何の話をしてたの?」

楓の問いに阿蘭がチラリと吽蓮を見るが、言いつけどおりに口を開く様子は無い。結局自分か、と小さく愚痴り、阿蘭が楓に向き直る。

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