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日が傾き始める。

楓は数人の仲間と共に山の中に入った。鵠に言われた通り、この山に逃げ込んだ盗人を探す為だ。

捜すとはいえ、ただ闇雲にではなく、使役する妖を駆使し、おおよその居場所を探し出す。

こうした捜索の依頼に関わる面子は殆ど決まっている。

慣れた様子で担当区画を決め、仲間と別れた楓は、飛燕と共に山道を歩いている。


飛燕が空から人の気配を捉え、知らせを受けた楓が直に見て人相描きと見比べ判断する――それがいつものやり方だ。

今も飛燕は歩く楓を中心に上空を旋回して、目ぼしい気配を探している。


里の仲間と来ているからか、早朝に楓が通った狐狸路はまた姿を消していた。山の奥へ入るのも一苦労だ。

「!」

そんな飛燕の鳴き声が響いた。目標を見つけたというより、危険を報せるような鳴き声に、楓は警戒を強める。

ガサガサと草が揺れる音に振り向くと、何かが凄まじい勢いで通り過ぎ、そして足を止める。

大きな犬のような姿をした獣は、薄灰の毛を靡かせ、身構える楓を一瞥して再び走り去った。


(山犬……妖?)


あまりに突然のことに、呆然とその獣が去った方向を眺める楓。その時、今度はバキバキと木の枝が折れる音が聞こえてきた。

程なくしてドスンという音と共に、すぐ近くの木から人が落ちてきた。のそのそと起き上がってきたのは、どうやら少年のようだ。

驚く楓に気付いた彼は一瞬目をぱちくりとさせ、ハッとした様子で辺りを見渡した。

「らん……」

「え?」

「山犬、見なかった?」

さっきの生き物の事だろう。すぐにピンと来た楓が指を差し示すと、少年は後を追わんと即座に立ち上がった。

「あの、それ……」

その彼の足や腕に数本の木の枝が刺さっているのを見つけ、思わず呼び止めてしまった。

「?」

楓の視線に気付いたらしい。少年は自分の足に刺さる枝を目視すると、何の躊躇もなく引き抜いた。

「うん、平気。」

言葉とは裏腹に、血がじわじわと溢れて来ている。

「ちょ……待って! 手当てしないと!」

気にせず走り出そうとする少年の腕を掴んで、無理矢理止めた。

「化膿したら後々面倒よ。」

「いい。行かなくちゃ。」

少年はやきもきした様子で行きたい方向と楓を交互に見る。どうやら一刻を争う事らしい。

「私も捜すの手伝うから!手当てさせなさい。」

楓の手を振り払おうとする少年の腕を、更に強く掴んでそう言うと、彼は目を丸くして一瞬迷い、従った方が得策だと判断したのだろう。どかっとその場に座った。

「あの山犬…何なの?」

手早く止血をしながら聞いてみた。

「あー。…友達…?相方?」

「え?」

予想外の言葉だと思うと同時に、以前に似たような事を言った人物が頭をよぎる。

「悪い奴らを探してる。オレ達の大切なモノを盗んだ奴ら。」

「大切なモノ?」

会話しながら手際よく傷口を洗い、消毒する。深い傷は三ヶ所ある。薬が滲んで痛いだろうと様子をそっと窺ってみるが、少年は眉一つ動かさなかった。

「……今日は何か知らないけど、余計な人間が多い。」

きっと楓や里の仲間のことだろう。楓以外にも数人、山を探索しているはずだ。


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