新宿ダンジョンその3
「つまり、どういうことだってばよ?」
俺の質問に、彼女は畳の上で姿勢を正し、正座し、俺に答える。
「わが父、エチゴ=ミツタケはヒノクニ王国の大臣であり、宰相をしている。その父が王をかどわかし、この異世界に兵を送ったのがつい先日のこと――」
「待て待て、そもそもどうやって送り込んだのさ?」
「異界の門を見つけたのだ。朽ち果てたはずのダンジョンからな。それを掘り起こし、宝を見つけるべく当代随一の冒険者を送り込んだのだ。しかし――」
何か、きな臭い香りがしてきた。
「宝を見つけるって……こっちから何か持って帰るつもりだったわけ?」
「ああ、煌く宝石や財宝がある――そう信じていたからな」
まあ、確かにこちらの物を無制限に持って帰れば一財産どころの騒ぎではないだろう。ならばまあ、そういう奴が出るのも頷けるが……。
「だけど、そういうのは問題になるから厳しめに制限してるって、俺のエルフの知り合いが言ってたぞ?」
「その通りだ。過ぎたる財、そこから生まれる過ぎたる欲は己を滅ぼす。だから――災厄が起きたのだ」
「えーと転送に使った門が暴走した、とか?」
「いや、していない」
何だよ、してないのかよ。てっきり暴走した門がヒノクニ王国を飲み込んで――とか妄想したのに。
「していないのが、問題なのだ」
「してないのが、問題?」
「ああ、転送は上手くいったのだ。ただ、問題は――それは転送する装置――ではなかったということだ」
「――言ってる意味が、よく……」
「転送ではなく、融合――つまり、門を通じ、ヒノクニ王国を一部、この世界と混ぜてしまう、という効果だったのだ」
「――ほお?」
妄想ではあったが、的は遠く外れていなかったらしい。
「そのせいで王宮の一部――そして門を開けに行った冒険者たちがこちらに取り込まれた。この娘は――それを唆した冒険者の一味だ」
「なるほど、しかしこの娘はどうして無事にこの世界に?」
「簡単だ。こいつを私が止めたからだ」
「止めた?」
「ああ、私は元々異界の門を開けることに反対していた。だからこそ、その探索に参加したのだが」
「失敗させるために?」
「そうだ。その門を開ける瞬間、私はこいつの腕を掴んで止めようとした――だが、その瞬間、どこからともなく『地竜』が現れたのだ」
竜――そういえばまだ俺のお目に掛れていない種だ。
「地竜は怒り狂っていた。門を開けたことでその怒りに火が付いた――ように見えた。そして、我に語り掛けたのだ『貴様に加護を与える。必ず、止めよ。――話は通しておく』と。その加護が腕を掴んでいたこいつにも波及したのだろう。私はそのまま異界に吸い込まれ、彷徨っていた時にこの扉の光を見つけた。そしてお主に出迎えられた、というわけだ」
「へぇ……あれ? じゃあつまり今日のお客様……というわけではない?」
「いや、地竜様の考えによると違うらしいぞ? 話を通す、というのはこちらで出迎えて貰う準備を整える、ということらしい。エルフに知り合いがいる――と精神に語り掛けてこられた」
「ええ……ドリスコルの知り合いなのぉ?」
どんだけあいつ顔が広いんだよ? まあ200歳ならあり得るかもしれんが。
「そして融合してしまった物や者はある場所に閉じ込められた。その一つ一つを解放し、元通りにするのが私に課せられた使命なのだ」
面倒だなあ。
「それ、放置すると不味いの?」
「今は転送直後だからまだ送られたものは完全に融合していない。だが、時間を追うごとに徐々に取り込まれ、その場所は異世界とも、こちらの世界ともつかない別物に変質してしまうらしい。その前に――やつらを見つけだし連れ帰らないと」
「そりゃあかんな……」
「うむ、と、言うわけで私は向かうことにする。それで、案内を頼めるか?」
正直放置したい気持ちもあるが、ドリスコルが噛んでいるとなると、俺が協力する前提で送り込んだことは明白である。やれやれ系主人公を気取りつつ、受けるしかないだろう。やれやれ(棒)。
「どこへ行くんですか?」
「うむ、新宿、という場所だ」
ようやく新宿へ。各所の案内や店の紹介がやっとできる。そのうちまとまって完結したら位置を移動させようと考え中。




