母、襲来 その1
私が異世界に来てもう、こちらの暦で一週間が経つ。
基本的に、私は大人しくこの世界のことを学んでいる。どうして大人しいかというと、まだ身分がしっかりしていないからだ。手続きに関してはドリスコル叔父様と伸介が動いてくれているからもう半月もすれば色々問題を起こしても(起こす気はないが)大丈夫そうだ。
だから私は特に遠出するでもなく、近場を回ってこの世界に慣れようとしている。
今のところ大した不満はないのだが、唯一不満なのは――。
「さすがに、3人住まいには無理がない?」
「――だよなあ」
レイと私、そして伸介がどうして同じベッドで横になっているのか誰か合理的な説明をして欲しい。
「というか、あり得ないわよね、この状況」
私が身を起こすと伸介が頭を下げた。
「すまん! というか……このウィークリーマンションしかすぐ借りれるところがなくてな」
なぜならそう、ボヤ騒ぎで住んでいたアパートを昨日追い出されてしまったからだ。私たちの上の階の人の仕業で彼のせいではないのだが、流石にこれは居心地が悪い。前のアパートでもレイはいたのだが、もう一室あったので問題なかったのだ。だが今回は一室しかない。これではちょっと……。
「私何処でも寝れますので」
そう言ってレイは出ていこうとするが――。
「いや、俺だけやっぱりホテルを借りるか、それとも二人でどこかホテルを取って貰うほうが――」
「……それは駄目よ。物入りでしょう?」
ただでさえ暫く伸介は私の生活費を持つのだ。しかも結婚式もするつもりらしい。私は――どちらでもいいのだけれど。
屋敷を使えば、と思ったがこれからしばらく民泊の客が途切れない期間に入っている。
だから今は我慢するしかないだろう。でも――この状況は……。
「傍目で見るととんでもないタラシですよね」
「反論できないことを言うな、レイ」
困ったことになったな、と思っているとマンションのベルが鳴った。
「――どなたでしょうか?」
「保険屋じゃないか? 連絡先聞かれたしな」
そう言って彼が玄関を開けると――。
「げ」
という声が聞こえてきた。
「どうしたの?」
「あ、いや」
「どうかなさいましたか、ご主人様?」
「あら? あらららら?」
玄関から焦るような彼の声と、甲高い声が聞こえてきた。
「アララララララララララララー!?」
ドカドカとすぐに玄関から中に入ってきたのは――。
「――」
「アッラー! マー! ドチラサマー!?」
やたら――そう、やたら身体の大きな、ストライプの派手な服を着た、ショートの赤毛の中年の女性がベッドの上の私たちを見下ろしてきたのだ。
「あ、あのな――」
「ハレンチな! どういうことよ! このエロ息子!」
バチコーンという音と共に、伸介がその女性の平手打ちで宙を飛んだのだった。
◆
「オホホ、やーねー勘違いしちゃったわ」
吹き飛ばされた伸介は白目を剥いて、今私の膝枕で寝ている。どうやらこの女性、伸介の母親らしい。火事になったと実家に連絡がいき、心配になってすっ飛んできたという。あまりにも早口で捲し立てられこちらも答えに一部窮してしたのだが、兎も角、二股だのなんだのそういう関係ではないことは理解して貰えたが――。
「で、どちらの女性とお付き合いなされているの?」
「私がメイドとして伸介様にお仕えしております、玲子と申します。こちらが、伸介様の婚約者です」
「ミリアルと申します。――以後、お見知りおきを」
「あらやだ、あの子に外人さんと付き合う器量があったなんて。で、どこの国の人なの? アメリカ? カリフォルニア? ハワイ?」
「あ、ええと――」
どう答えるべきか悩んでいると、レイが答えた。
「お母さま、それ、すべて同じ国です」
「あらやだ。じゃあ中国? 香港? 台湾?」
何のことを言っているのかわからないが、たぶん頓珍漢なことを言っている、ような雰囲気である。
「ええと、その、あまり知らない国かもしれませんから……」
「あらやだ! 不法入国じゃないわよね!?」
「お母さま、それは失礼です」
レイが窘めてくれた。多分、とても失礼なことをこの人は言っているのだろう。しかしそれは的を射ているので私は思わずドキリ、とした。
「大丈夫です。その、怪しい場所ではないですから」
私は笑顔を崩さずそう答えた。しかしガタイの大きな人物から見下ろされるとやはり緊張する。でも、何も悪いことをしているわけではないのだ。堂々としていればいい。
「――ふうん、なるほどねえ」
なんとなく品定めされたような気がしてきた瞬間、そう言って彼女は席を立ち踵を返した。
「じゃあ、今日は帰るわね」
「あ、お、お帰りですか?」
「ええ、だって肝心の伸介が寝たままじゃない。ほんと、情けない子ねえ」
それ、貴方がぶっ飛ばしたんですけど……。
「だから伝えておいてね、明日、一緒にお昼を食べましょうって」
「え」
「じゃあね、あでぃおーす!」
そう言うと彼女はドッシンドッシンと音を立て部屋から出て行った。まるでそれは――土の大精霊が立ち去った後のような、そんな気配だけを残していた。
新宿編書こうかと思ったら普通にトラブルがあって時間取れませんでした。というわけで母がやってきた編です。ちなみに割といろんなものがモデルになってこの小説は成り立ってますがモデルに忠実な部分が多いのはお察しの通り伸介ぐらいなもんで後はかなり創作色が強いです。(店はかなり忠実だと思っていますが)なので私の実母はこんなんじゃありませんしミリアルは当然私の妻とは程遠いと思われます。唯一参考にしたのは結婚から10年近く経っても劣化が進んでいないと友人が評した「劣化しない嫁」の称号だけでしょう(エルフだけに)




