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藤間伸介の嫁取紀行~ 帰宅の前の姉妹喧嘩 ~

「おめでとう、勇者よ」


 勇者の試練を終え、結婚式の予定が勝利の宴に変わった席上で俺はカミルにそう言われ手を差し伸べられた。


「――やめてくれ、恥ずかしいわ」


 もう日も暮れている中、屋敷の庭で俺達は盃を交わし合う。


「みんなの協力があったからだよ。それこそ――」


 真田十勇士みたいに。皆が俺の、いや、俺達を支えてくれたから何とかなったのだと思う。


「ミリアルの結婚も、ちゃんと祝福して貰いたい、一人でも多くに。だから……兎も角、助かった。その、ありがとう」

 

 逃げたら結局、いつまでも後ろめたい気持ちを持ってしまう。それを俺は、出来れば避けたかった。

 俺達は固い握手を交わした。カミルも元々はミリアルに懸想していたのだ。複雑な胸中なのは間違いないのに、本当に、良い奴だと思う。


「ご主人様」


「あ、レイ」


 変身を解いたレイが俺の傍にやってきた。もういつものメイド服姿である。


「ミリアル様のお父様がお待ちです」


「――分かった」


 俺は縁台から屋敷に上がり、従者に案内されるまま、奥の間へと向かった。

 奥の間に通されると、そこは十畳ほどの空間で、簡素な調度品以外なく、そこにいたのはミリアルの父と、ミリアル、そして、妹のシンディである。


「どうも、改めまして、藤間伸介です」


「――ガイウス、ミリアルの父だ」


 眉間にしわを寄せ、睨まれる。


「で、何でシンディ――妹さんまでいるんですかね?」


 わざとらしく、そう訊ねてみる。


「――分かっているだろう? シンディが此処にいるということは、貴様のたくらみなど全部気付いている、ということだ」


 まあ、そんなところだとは思っていた。


「それじゃあ、ご破算にしますか?」


「――出来るわけがないだろうが」


 恨みがましい声で俺はそう凄まれた。


「これだけの衆人環視の中、勇者が誕生してしまったのだ。今更どうにもならん」


「ちょ、ちょっとお父様、それでいいの!?」


「うるさいシンディ! いいからお前は後継ぎとして嫁ぐ準備でも始めろ! カミル君を引き留めれるように努力するのがお前のこれからの人生だ!」


 いきなりそう宣言されたシンディは絶望的な表情になった。


「我が娘ながら、こんな愚か者だとは思わなかった。どこへなりとも、連れていくがいい」


 吐き捨てるような『許可』を俺は受け取った。


「ありがとうございます」


 俺は草で編まれた茣蓙を敷いてある床に膝を付き、頭を下げた。


「感謝されることなどない! いいか、私は……」


 激高しかけた彼の言葉を受けても俺は額を床につけたまま、ジッとしていた。どちらにせよ――。


「失礼ながら、素晴らしい女性だと思いますよ、ミリアルは。だから、私には感謝しかありません。ミリアルを私に下さり、本当に、ありがとうございました」


「――早く消えろ。もう帰って来るな」


 ガイウスはそう言うと足早に部屋から出て行った。

 残されたのは俺と、不満そうな顔のシンディと、今にも泣きそうな顔をしている、ミリアルだった。


    ◆


 その日のうちに俺達は里を出立した。あまり長いこといてぼろが出ても困るからだ。夜道ではあるが、灯りの魔法のお陰で特に問題はなく、そろそろ異界の門が見えてくる頃合いだった。


「――気にするなよ。本心じゃないさ」


 落ち込んでいるかと思って帰り道に、ミリアルを励まそうかと声を掛けてみると――。


「気にしてないわよ?」


 あら? 思ったよりもあっけらかんと答えられてしまう。


「あれ、でも少し涙目だったじゃん?」


「ああ、しおらしくしてればあれ以上突っ込まれないでしょう? それにあれは――」


「あれは?」


「な、何でもないわよ!」


 ――ちょっと、褒めてくれたから嬉しかっただけ。


「なるほど」


 声色を使ってレイがそう呟く。


「ちょっと! レイ、何で勝手に代弁してるの!? しかもどこで聞いてたの!?」


「さあ、どこでしょうか、若奥様」


「お、奥様って……うんまあ、そうだけど」


 軽口を叩き合う二人を見ていると非常に仲が良さそうで安心した。これから一緒に暮らしても問題ないかな?


「ちょっと、待ちなさいよ!」


「あれ、シンディ?」


 俺達の後ろ、山道を駆け上がってきた生意気エルフ娘が息を切らしながら叫ぶ。


「はぁ……はぁ……あんたが勝手に他所に嫁ぐなんて決めるから、私がババひいたじゃないの! 何とか言いなさいよ!」


「別に、謝るようなことも恥ずべきことも何もしてないわよ?」


「うるっさい! 何であんたにはみんな甘いのよ! いっつも我儘ばかり言って、それで結局押し通しちゃって、ぜーんぶ残った人に押し付けて……」


「うーん、そう見えちゃうのも仕方ないのかねえ? 別に、ミリアルにそんな気はないと思うよ?」


「そうね、何かしたいことがあるなら勝手にやればいいとは思うわ。ただ、そうね……私のせいでって思うなら――はい、これあげるわ」


 そう言うとミリアルは懐から取り出した何かをシンディに手渡した。


「――え?」


「――上げる。母様の形見のペアの魔術具(ネックレス)。これを私が貰って、貴方は何も貰ってないって思ったから、私のこと嫌いなんでしょう?」


「ち、ちが――」


「違っていてもどうでもいいわ。それにこれ、元々私が『持っていないといけない物』だったのよ。貴方に上げてもよかったけど、時期が来なかったの」


「……どういう、ことよ?」


 シンディの顔に当惑の色が浮かぶ。


「これ、呪物なのよ。母様の命を伸ばすために対になっていたの。病気の母に癒しの魔力を送り続け、生き永らえさせるための、ね」


 シンディがまるで信じられないものを見るような目で、ミリアルを凝視した。


「母様は知らないわ。お父様が発案し、私が実行した。でも――昨年母が亡くなったから、もう必要ないのよ」


 そう言って彼女はそれをシンディの手に握らせた。


「だから私は自由になりたかったの。誰よりも」


――もう、縛られたくないから。


 シンディはそのまま俯いて、動かなくなった。俺達は声を掛けず、そのまま彼女を置いて異界の門へと向かった。きっと――わだかまりなく姉妹が話せる時が来る、そう信じて。

これにてエピソード完結。続きは来週。

来週は新宿ダンジョンと合わせて伸介の親族への紹介ふくめやる予定。予定は未定ですが。



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