エルフ夫妻は腹黒い? ~ 藤間家の悪だくみ ~
「はい、ダーリン、あ~ん」
「こらこら、レイラ。他人様の前だよ?」
屋敷に戻った二人は居間でいちゃこらし始めた。レイラさんがスプーンで掬ったカレーをドリスコルの口に運ぼうとする。
「……俺、帰っていいか?」
「え、帰っちゃうんすか?」
「逆に聞くが、いてどうするんだよ?」
「ええ~何か私に聞きたいこと、ないんすか?」
もったい付けた言い方しやがって。つーかこいつ、もう俺の事情察してやがるな?
「はいはい、エルフの性生活について聞きましょうかね?」
「週5ぐらいですかね?」
「多っ!?」
「冗談です」
こいつ相手に真面目に応対するのが間違っている気がしてきた。
「しかし、ダークエルフとエルフ、ねえ? それって不倶戴天の敵同士とかじゃないのか?」
「そうですねぇ。だから大ぴらに言うと私たち殺されますね」
さらっと怖いことを暴露するな。
「だからドリスコル、のほうで名乗っているのもありますが」
「……苗字呼びで?」
「はい。私がエルフ社会では名を捨ててる扱いなので、いないことになってますから。放浪エルフには割と多いんですよ、名捨て」
結構めんどくさいな、エルフ式封建社会。
「それでも愛し合っているので結ばれる選択をしましたけどね。にしても美味いっすね、海老カレー」
ドリスコルはテイクアウトした海老カレーを口にしつついつもの嘘くさい笑顔を崩さない。
「異種族で結ばれる、特に忌みあっている同士の結婚はとかく難しいもんです。それが、人とエルフであっても、ね」
「――知ってんのか、ミリアルとのこと」
ドリスコルは肯定の頷きを返す。
「ええ、だから協力しますよ。『親族として』ね?」
「ほう、親族、ね」
ミリアルとは親戚だとか言っていたな。つまり結婚すれば、俺達は親戚同士ということになるが、気の早い物言いだ。まあ、実現するように頑張るが。
「てか、相談するのは吝かではないが、その……なんだ、それなんとかならんのか?」
「え? まあ、お気になさらずに」
「俺が気にするわ!」
レイラさん、ドリスコルにべったりくっついて離れやしねえ。しかも呼び方が、来たとたん『旦那』から『ダーリン』だ。こいつのどこにそれだけ惚れされる要因があるのかわからんが、暑過ぎて近寄りたくない。
「ええ~と、レイラ、ちょっとだけ席外してもらえます?」
「ええ~? ちょっと、嫌だな~みたいな」
もはやクールなダークエルフじゃなくてビッチな黒ギャルにしか見えん。種族イメージをもっと大事にしなさい。
「――ふう、仕方ない。十分甘えたし、外で待つとしよう」
普通に話せるなら普通にしててね!?
レイラさんが外に出てすぐ、ドリスコルが口を開いた。
「まずですね、結婚ですが、無理です」
「は、ハッキリ言うなあ……」
関係者から言われると結構ショックだ。
「彼女が族長の娘ってのがあかんですね。長女ですし、エルフの貴族以外とは結婚を許してもらえないでしょう」
「はぁ、で、そんなことだけ言いに来たわけじゃないんだろ?」
「ええまあ。だから、遅れたんすよ?」
「へ?」
「だからぶっちゃけるとですね。彼女が名を捨てて逃げる、くらいしか選択肢が無いです。もしくは伸介さんが、あちらの家を納得させるだけの功績を上げる、とか」
「一応聞くが、後者は何をすればいいんだ?」
「魔王とか倒してください」
「ぜってえ無理」
「ですよね~」
この糞エルフ、絶対楽しんでやがる。
「なので~。もはや既成事実を作って頂いて、引き返せないところまでいっちゃうしかないです」
「ず、随分と身も蓋もねえな……」
「ですから、彼女の長期滞在の準備を進めてます。行方知れずになるんで、こっちの戸籍も用意してますし、もう別人になってください」
「ええ……いや、まあ、ええ……」
「え? 嫌なんですか?」
「いやあ、ほかに手が無いっていうならそうするけど、こういうのって親を説得したりとか、なんかイベントこなして認めて貰った方がよかったりするパターンじゃないの?」
「う~ん。まあそれは昔、試したんですけど、止めといたほうが良いですよ?」
「……試すって、誰が?」
「私ですけど?」
「レイラさんの親御さんとやっぱ揉めたの?」
「いや、レイラじゃないですよ。ええと、『二番目の妻』です」
「……は?」
「二番目、つまりこっちの異世界で私、結婚してたんですよね」
「はああああああああああああああああああああ!? お前、バツ……いくつだよ!?」
「失礼な。レイラで三人目ですよ? まだ三回しか結婚してませんからね」
たしかこいつ、200歳って言ってたよな……そうか、ハハハ。そりゃ何回か結婚もするか。
「それで、二番目の妻が、藤間家の、おばあ様の妹さんです」
俺は思わず白目を剥いた。
「お、お前……親戚として、ってもしかして、本当に、もう?」
「病没でしてね。いやあ、あの時は悲しかったなあ……。だからまあ、協力したいんですよ、大叔父として?」
そう言って、シルクハットのエルフは俺に優しく微笑みかけたのだった。
現在漫画のネームやら会社やら古戦場やら夏休みやらのスタックがガッツリありすぎて片付いた端からやってます。いつも通りの22時更新は若干怪しいかな~。




