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エルフ夫妻は腹黒い? ~ 続 幡ヶ谷駅上カレー ~

 運ばれてきた銀のトレイには千切りキャベツのサラダとメインのカレーが小皿に盛られ、そしてでかでかとした、香ばしい焦げ目のついたナンが中央に置かれている。


「シンプルでしょ?」


「誰に言ってるんだ?」


「いやまあ、一応、貴方に?」


「……それにしても、このカレー、随分と風味が強いな」


 彼女は鼻を近付けてその匂いを嗅ぐ。


「まあ、食べてのお楽しみ、ということで」


「……ふん、とりあえず、乗せられてやるか」


 そう言ってお互いがようやく料理に向き合った。俺はまず、横に置いてあるサラダを平らげてしまうことにする。


 もしゃ。


 サラダにはサウザンドレッシングが掛かっていて、そして仄かに辛みを感じる。メインに取り掛かる前には最適な、口の中をカレー腹に変えていく味だ。


「いよっし」


 少し調子が出てきた。これからカレーを食べるという高揚感が落ち込んだ気持ちを上向かせる。

 そう、今日のメインはこいつだ。こいつを食って、元気を出すのだ。

 俺はまだ熱いナンを一ちぎりし、カレー皿に無造作に突っ込む。ドロッとした赤茶色の物体が纏わりつき、俺は躊躇なくそれを口に入れた。


「ん、ん~~~~!」


 スパイスの風味が口の中を駆け巡る。そして、その風味に負けずとも劣らず、口内で主張を繰り返すそいつの正体は――。


「ふ、ふうううう~~~!?」


 左隣に座っているダークエルフが俺と同じくナンを口にほうばったまま妙な声をあげた。


「あ、どうでしたか、味?」


「みょみょみょみょみょ、妙なものを食わせるな!」


「あれ? お気に召しませんでした? 『ガーリックカレー』」


 カレーの強烈な香辛料の中にあって、さらにそれ以上の主張を残す風味の正体、それがガーリックだった。

 

「美味しくないですか?」


「――い、いや、うん、少しびっくりしただけだ。……味は、美味い」


「それはよかった」


 俺はその言葉に満足してもう一ちぎりしたナンに、今度はスプーンで掬った具と共にナンとルーを包む。


 モチッとしたナンからルーが零れそうになるのを慌てて口で受け止める。


 ぷちっ――もにゅ――。


 そして、その後に――。


「くああああ、美味い!」


 ガーリックの香ばしい風味と香辛料、そして乗せた玉ねぎのシャキッとした歯ごたえが喉を抜ける。

 ただでさえ、インドカレーなどのスパイスを大量に使うタイプのカレーは発汗もするし、胃を刺激する。そしてそれは次の食欲へと繋がり、活力が、胃の奥から湧き上がる。

俺はもう止まらない。うおおおおお、食うぞおおお!


 もしゃ! ガツッ! ブチン! ガッ! ザクッ! じゅるる!


 ちぎる、つける、啜る、またちぎる、包む、頬張る。


 俺は目の前のすべてが消え去るまでそれを繰り返す。カレーの味が、スパイスの刺激が、そしてガーリックの風味が俺を包み込みきってもなお、止まらない。


「くううううう……よしっ!」


 俺は最後の一掬いのカレーを小皿にナンを直接当てこそぎ取る。そしてそれを口に放り込むと、漸く一息ついた。


「美味かった~!」


「――ふ、ふううう……」


 と、同時に横のお姉さんも大きく息を吐いた。その息は、当然のようにガーリックの匂いに満ちている。

 見ればお互い汗だくである。ダークエルフのお姉さんに至っては濡れたシャツがピッタリと肌に張り付き妙に艶めかしい。――いやいや、俺はミリアル一筋、だよ?


「美味かった――まだ、残っているみたいだ」


「ですね。お付き合いくださってありがとうございます」


「いや、こちらも楽しかった。それよりも――」


 彼女は店を見渡す。


「一緒に、食べたかったですよね?」


「あ、いや、うん、そうだな……」


 思ったよりも素直に彼女は認めた。


「店を気に入って頂けたなら、ちょうどいいです」


「何がだ?」


「このお店、全部テイクアウト――持ち帰りできますから。この味、ご夫婦で楽しみましょうよ」


 最初から、そのつもりで連れてきたのだ。出来れば、飯は愛する人と一緒に楽しんでほしいから。


     ◆


「すまないな、気を遣わせてしまって」


「いえいえ、これが仕事ですので」


 俺達はテイクアウトでカレーを購入したあと、屋敷に戻るべく商店街を歩く。


「そういえば、名を名乗りそびれていたな」


「おお、そういえば、私、藤間伸介と申します」


「――俺、で構わんよ。私はレイラ。レイラ=ドリュフ=『ドリスコル』だ」


「はいはい、レイラ――ん?」


 何か、聞き覚えのある単語が耳に入る。――ま・さ・か。


「いやあ、ごめんハニー。遅れちゃいましたね~」


 聞き覚えのある、本当によく聞いたことのある声がなぜか俺の後ろから飛んできた。


「ままままま、まさかぁぁぁぁぁぁぁ!?」


「ダ、ダーリン!」


 奴は、トレードマークのシルクハットを取り、俺に頭を下げて自己紹介した。


「レイラの夫、ペリント=グラノラ=ドリスコルです。どうぞ、お見知りおきを」


 知っとるわあああああああああ!


 俺の声にならない叫びが幡ヶ谷六号通り商店街に木霊した。

暑い。なおドリスコルの名前に関してはミスがあったので序盤を直してました。


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