不動通りに猫は潜む~初期設定~
家に戻ってからダイヤはまさに不眠不休、三日かけてばあちゃんの屋敷をリフォームした。
見た目はそこまで変わらない、しかし、中身はもう、別物だ。
「では、さらばじゃ」
満足そうな笑みと共に彼女は帰っていった。よほど出来栄えに自信があったのだろう。
まず、掃除が要らない。ある程度の埃は全部自動で取り除いてくれる。そして、本当に再生する。壊しても元通りに戻る。この時点ですげえ。そして、最も大きな変化は――。
ちょこん、と畳に鎮座する、機構人形。黒髪、黒いメイド服のそれはほとんど人と見分けがつかない。
そう、なんと、管理用メイドロボが付いてきたのだ。この屋敷の実質的な管理を任せられる、らしい。容姿は俺のチョイスで黒髪ぱっつんのスレンダーな女性型になっている。
まじかー、メイドついちゃうかー。
見た目はあまり人と変わらないが球体関節など所々これが機械的な代物であることはわかる。内部にあるミスリル電池に魔力を貯めこんでいて、それを動力にして動くらしい。
俺は高鳴る鼓動を押さえながら耳奥にある起動スイッチを押す。
暫く待つと、ゆっくりと彼女は長いまつ毛のある瞼を開ける。
「じヴぃつあひmちcぁhhbhせbmhhb――ブウウウウウウウウン――言語認識・起動準備完了」
メイドは訳の分からない言語を発したかと思ったが、すぐに日本語に切り替わる。
「――」
「は、初めまして?」
メイドは何も言わない。ただ、俺の顔をジッと見つめている。
しかし、動かない。何か、不具合でもあるのだろうか?
「素体探索・核未取得・起動未完了・休眠」
ヒュウウンという音共に電源が落ちたPCのようにメイドは無反応になった。あれぇ?
「核未取得ってなんだ?」
取説らしきものなんてないので意味が分からない。兎も角まだ、動かないらしい。これではただの置物である。さて、どうしようか……。
俺はとりあえずメイドの起動を一旦諦めた。さて、掃除の必要が無くなった我が屋敷だが、庭の草むしりや落ち葉掃きは別だ。そちらまで自動でやるか尋ねられたが、その機能は保留にしておいた。なぜなら――。
「ばあちゃんに怒られかねんしな」
庭の一角にじいちゃんと一緒に過ごしていた頃の家庭菜園の跡や、幾つか意味の分からないオブジェのような石がゴロゴロしているのだ。何かを象ったような、よくわからない30cmぐらいの石が幾つか整然と並べられている区画があった。掃除して除けてしまおうかと思ったのだが、なんだかよくわからないものを退けるのも怖いし、これ、恐らくじいちゃんが作った造形物なのは間違いなさそうなのだ。だって、小さくどの石にもじいちゃんの名前の一文字が彫られているのだから。
そんな物を捨てるわけにもいかず、庭の一角で特に誰が通るでもない裏にあるものに手を付けるのも億劫なので放置し続けていたのだが――。
「ううむ、流石に捨てるしかないか?」
この間の季節外れの大嵐で石のオブジェ群が何処かから飛んできた木の枝にぶつかり崩れてしまっていたのだ。これはダイヤの来る前の話でリフォームの力が及んでいない。ゆえに、壊れたままなのだ。
「とりあえず、片そう……」
俺は崩れた石を持ってきたリアカーに次々とぶち込んでいく。すると、石の下から――。
「げ」
その土に埋もれかけている白い物体は、どう見ても骨のように見えた。しかもよく見れば大小、細かいものがそこら中に散らばっている。まさか、ここで殺人……。
「ってこれ、動物の墓かよ!?」
見れば犬だか猫だかの小動物の骨である。どうやらこのオブジェ、それらを象った墓の代わりだったようだ。
「セ、センスねえ……」
崩れかけたオブジェを見返すと、確かに四足獣らしいのは分かるが、明らかにキメラの様なものにしか見えない。これを犬猫だと言い当てられたらそれはそれで凄いことである。
「しかし、そうなると、これどうしよう?」
骨は埋め直したとしても、墓はもうない。代わりを作ってやればいいのかもしれないが、俺はここに埋まっていた奴らのことを何も知らない。弔う気持ちもない。気持ちのない奴に弔われてもあまりこういうことは意味がないのではないか、とも思う。特にばあちゃんもこれに関して何も言ってなかったことから、ばあちゃんがやったというよりじいちゃんの手によるものであると推測される。つまり――。
「片付けちまうか」
それが最も妥当な判断だろう。所有者は俺だし、残しておいても滞在者が発見して気味が悪いと思われても困る。ばあちゃんがこの墓を大事じゃないなら俺が義理立てするほどのこともない。俺はスコップを持ち出し全部の骨をあらかたリアカーに乗せた。
「ふう、やれやれ」
俺は手を洗い、縁台で一息ついて団子を食べながらペットボトルの茶を啜る。
もう冬だが、今日はいつもより暖かかった。午後のポカポカ陽気に当てられ眠くなる。
「休憩~……」
俺は伸びをして寝っ転がり、そのまま意識を失った。
◆
目が覚めると――俺は、吊るされていた。
いや、冗談を言っているように聞こえたら困るからもう一度だけ言う。
縄でぐるぐるに縛られ、逆さに吊るされていたのだ、庭の大きな木の枝に。
訳が分からない。何があったんだ、俺が寝ている間に?
時刻はもう夕刻だ、既に日は落ち掛け、辺りは暗闇に沈みかけている。
ガタン。
その時、屋敷の方から音がした。何かが動いている音がする。そしてそれは暫くすると、暗闇から這い出るように現れた。
「メ、メイド?」
例のメイドが起動して、動いていた。
「お、おい! 助けてくれ!」
しかし俺の問いかけにメイドは一瞥しただけで部屋の奥へまた消えようとする。
「おい、待てって! 降ろしてくれ!」
メイドは一旦停止し、こちらを振り返る、すると――。
「――泥棒風情が、いい度胸ですね」
と、信じられないことに冷たい口調で俺をなじってきた。
「は? いや泥棒じゃないし、てか、早く降ろしてくれよ、血圧上がっちまうだろ!?」
逆様のまま俺は抗議すると、メイドは縁台から降り、こちらに近づいてきた。
「このお屋敷は栄太郎様のものです。貴方は後で官憲に突き出すから大人しくしてるがいい」
「いやいや、何言ってんだ、ここの今の所有者は俺――」
そこまで言い掛けて、俺は物凄い違和感に襲われる。あれ、どうしてこのメイドがじいちゃんのことを知っているんだ?
次の店、俺のお気に入りの一つです。和食回になります。




