新法、新宿を巡る。 前編
「面倒くせえなあ……」
俺は幡ヶ谷の屋敷で居間のちゃぶ台に広げた書類と格闘していた。
理由は、民泊新法だ。この新法のせいで色々と申請する書類が増えたのだ。あと、消防法がどうたら、とかチェック項目も増えた。施設に常備するべき道具も増えたのだ。経費マシマシ、面倒増量、いっそ民泊なんて辞めてしまおうかと思ったが、カミルやエリアルさんに会える機会が無くなるのはちょっと嫌で、結局こうして書類と格闘している。
どうせ泊まる奴らは異種族であり、日本の消防法なんてまったく関係ないのだろうが、ルールは大事である。いかに意味がなかろうが、法は法なのだ。
「はぁ……面倒くさかった。次もっと面倒になったら、マジで辞めるの検討するわ」
トントン。
「ん?」
トントン。
裏手からの音――これは間違いなく異世界の扉が叩かれている音だ。
「今日は――予定にないぞ?」
掛けてあるカレンダーを見るが予定表に名はない。つまり来たのは――。
俺は書類の束を片付けると異世界の扉の前に立った。
「何の用だ、ドリスコル?」
ガチャっと扉を開けるとそこには例のシルクハットを被ったエルフ――。
「――ここは、異世界であるか?」
じゃなかった。そこに居たのは――どうみても『白騎士』だった。
巨躯、白いマント、白い鎧、フルフェイスの白い兜を身に着け、くぐもった声でそいつは答える。それにしても、よくこの巨体が通ったな……。
それは通路にパンパンに詰まるほどの大きさで、下手に動いたら壁を崩しかねないほど、大きかった。
「え、ええ……っと、どちら様で?」
「我はドリスコルの友人、ダイヤじゃ」
「は、はあ。それでそのダイヤさんが何の御用でしょうか?」
「うむ、頼まれたのだ。『リフォーム』を、な」
「リ、リフォームですか?」
「うむ。そちらにも民を泊まらせるためには法があるじゃろう?」
「え、ええ」
「こちらにも、当然あるのじゃ。施設を安全に保つためにどうするか、常日頃異世界との行き来は制度化されておる」
そういえばドリスコルがそんなことを言っていた気がする。
こちらのことはこちらで対処しますので、というから放っておいたが、そういうことなのだろう。
「なるほど。しかしええと、そんなに大仰な改造をされると困るかもしれないんですが?」
俺は疑問に思ったことを伝える。魔改造されてロボットに変形する屋敷が欲しいわけではない。
「心配はするな。仮に魔法を暴発されても、ブレスを吹かれても無傷を保つ程度のことをするまでじゃ。我に任せておけば特に問題なく民泊を安全かつ滞りなく進めることも叶おう」
「それは助かります。よろしくお願いします」
俺は深々と頭を下げる。いやあ、ドリスコルもいいところあるじゃないか、いや、この民泊で稼いでいる以上、こういったサービスは当然なのだが。
「なあに、報酬を頂けるのだから問題はなかろう。『お主に』」
「――はい?」
「言ったろうが、報酬は、お主から貰う、と」
「ええ、とどうしてそうなるんですか?」
「当然じゃろう? この屋敷の持ち主から報酬を貰うことは」
「いや、一般的にはそうかもしれませんけど、私、別に頼んでないですよね? ドリスコルに頼まれたのならあいつが払うのが普通……」
「黙れ、小僧」
「――」
地の底まで響くような声で俺は凄まれた。
「我は生まれてからこのかた、代理の報酬など受け取ったことはない。その持ち主から直接受け取らぬ依頼はすべて断ってきたのだ。お主も例外などないわ」
困った。いや、払いはあとでドリスコルに回せばいいかもしれないが、どうもこの鎧の人物、嘘が通じない雰囲気があるのだ。武骨、実直、頑固、そう言ったオーラが鎧の隙間から漏れている。俺の経験上、嘘を吐いたりその場でごまかすと拗れるタイプだ。なら……。
「お断りするというのは?」
「それではルールを曲げることになる。それでも構わぬが、ここはもう、異世界民泊には使えぬな」
なるほど、詰んでる。やらない道はないわけか。
「では、おいくらでしょうか?」
「こちらの金だと――まあ平均的な値段では、一億ほどか」
「ねえよ、帰ってくれ」
値段を聞いてあほらしくなって俺は即断った。ドリスコルに泣きついた方がマシだ。
「いや、話は最後まで聞け。我は技師だ。それに見合う、技術的な報酬を貰えば、それで相殺してもよい」
「技術的な報酬?」
「ああ、異世界の技術、我も見てみたいのだ。それで我が満足する何かが得られるならそれで受けよう」
ああ、車とか、飛行機とか、そういうやつか?
「はぁ……まあそれでいいなら。つっても俺が知っている知識だと……」
「お主は、飯に詳しいらしいな?」
「え? は、はあ、まあ、多少?」
「ならば、飯で限定するとしよう。飯で我を驚かす技法を、教えてくれ」
「ええ!? ……いやあ、でも」
「何じゃ? ないのか? 所詮その程度の器か……」
「え、いや、紹介は出来ますけど、その格好だとどこの店にも行けないんで……」
「ああ、これか」
そう言うと白い鎧のつなぎ目が光り出し――。
パカッ。
鎧が、割れた。
「――え」
「これでいいか?」
鎧が割れ、中身が露出する。中から出てきたのは、操縦席らしき台に座る――小さな褐色肌のドワーフの女の子?だった。
時流に乗って民泊新法のお話。この変更で違法な民泊は減るかもしれませんけど参入は結構難易度高くなりました。果たして一般人の彼はどこまで運営できるでしょうかね。
ところで昨日のあとがきで描いた妻の漫画「なでしこドレミソラ」が次にくる漫画大賞2018にノミネートされましたので、ネットでもライン漫画でも試し読み出来ますので読んで面白ければ投票頂けると助かります。
それでは次の更新は来週なのでまた。




