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男達の麺麭餐~被害者と加害者かく語りき~

注:今回飯の話がないです。次回はあります。実は麺麭パン回です。

 のんびりした、カラッと晴れた冬晴れの午後。今日は、何かいいことが起きそうな――そんな穏やかな雰囲気を見事にそいつは打ち砕いた。


「どこだああああああああああああああああああああああああ!」


 まず異世界の扉である裏の木戸を開けた瞬間、見知らぬエルフの男に怒鳴り込まれた。


「どこだああああああああああああああああああ! 出て来いいいいいいいいい!」


 完全に目が血走っている金髪長髪のエルフ君がイキっている。イキりエルフだ。逃げろ。


「貴様かああああああ!」


 徐に胸倉をつかまれた瞬間、そのイキったエルフは「きゃふん」と声を出して倒れた。


「――なんだ、このキ〇エルフ」


 持っててよかった、ドリスコル謹製の暴対お守りである。ないとは思うが、民泊者に暴力を振るわれそうになったら発動するスタンガンのような雷撃防御陣が展開されるらしい。最近、身の危険を妙に感じるようになって、奴にお願いしておいたのだった。

 

     ◆


「うう……えっぐ、えっぐ」


 俺は起き抜けに泣き出したイキりエルフと共に縁台で並んで座っている。


「くぉぉぉぉぉ……まさか仇に情けを掛けられ介抱されるなど……」


「……意味が分からん……いや、分からないのですが、どうかしたんですか?」


 鼻水ずるずるべとべとで泣き続けるイキりエルフを見かねて俺はティッシュ箱と共に探りの言葉を投げかける。


「我が婚約者が男に穢されたのだ! この異世界で!」


 イキりエルフは、ダンッと拳を床に叩きつけた。そんな事件があったらドリスコルが何かいいそうなもんだと思ったが、そんなことあったっけ――。


「男に迫られ――同じしとねに倒れ込み」


 あれ、何かそんなこと、最近あったような……。


「胸に口づけされ――その逢瀬の印を刻まれたと――」


 どきっ。あ、あれ? あはははは、まさか、ね。エルフの女性も沢山来てるもんね! 確か……あ、二人しかいねえや(汗)。


「それが元で婚約は破談だ! いや、向こうは原因を言わなかったが、伝手を頼り調べさせその事実を掴んだのだ。私は、その男に復讐するためにきたのだ! 貴様ではないのか! 我が婚約者を穢したのは!」


「あー、あの、あ、あははは……」


 やっべー、これエリアルさんのことじゃねーの……。冷や汗が頬を伝う。これは、まずい――。


「覚えてないというのか貴様! 我が婚約者、ミリアルのことを!」


「あ、違います。あんな生意気な小娘じゃありませんから」


 エリアルさんはあんな糞生意気なエルフ娘ではない。よかった! ビバ、人違い!


「貴様、姫を捕まえて生意気などと……」


「あ、すいません。いや、はい、見目だけ美しいあのエルフの方ですね!」


「そうだ! エルフの里においてあれほどの……森の神域で咲き誇るエリンジェの花よりも、妖精郷に湧く七色の泉よりも華憐で、美しく、聡明で……」


 あー聞いてらんねえわ、男の歯の浮くセリフとか。にしてもあいつ、そんな目に遭ってたのか……だからあんだけ切れてたのかな?


「貴様ではないのか!? ミリアルを穢した憎むべき……」


「ち、違いますよ! 僕は決して、そのようなことをしてはいません!」


「信じられるか! ならば貴様、嘘を見抜く我が魔術に掛ってみるか? それでもし嘘だと言うのが分かればただではすまんぞ!」


「大丈夫です! 天地神明に誓って、私はミリアルさんを穢してなどいません! てか、興味もありません!」


「言ったな! ならば喰らえ! 我が守護精霊の――」


 ――5分後。


「いやあ、すまない。どうやら頭に血が上り過ぎていたようだ」


「いえ、人げ――エルフにも間違いはあるでしょう。気にしてなどいませんから」


 俺は爽やかな営業スマイルで彼の誠意ある謝罪に応える。


「名乗るが遅れてしまったな。私はカミル。エルフが里、フルット族が長男、カミル=フルット=ゲシュタフだ」


「藤間伸介と言います。この民泊業の、まあ、店主です」


「身に覚えのない罪を着せて本当に申し訳ない。何かお詫びをしたいのだが……」


「ああ、構いませんよ。それに、大事な婚約者をねと……奪われたら俺でも冷静ではいられる自信がありません」


「わかるのか、私の気持ちが!」


「男なら誰でも理解できます。私もその気持ち、よくわかります」


「――もしや、貴殿も似たような経験を?」


「――あるというか」


 ある、というか、正確に言うとただ騙されただけなんだが、まあ二股以上を掛けられたという意味では寝取られに含まれる事案、なのだろうか? いや、単なる浮気、もしくは詐欺、かなあという気がする。


「そうですね。まだ俺がもう少し若かったころの話ですが、聞きますか?」


「うむ、聞かせてもらおう」


「そうですか、じゃあ――」


 俺は若いころネトゲで知り合った女性との出会いを話した。

 知り合って付き合ってみたのだが、これが、地雷もいいところだった。


「ギルドで知り合った女性なのですが、これが別の男性と同棲したままだったことが発覚しましてね……」


「何と、それは不貞な……」


 とりあえず詳しく説明してもわからんだろうから、仮想現実の世界をそのまま異世界風ファンタジー世界の出来事のように変換して彼に伝える。


「しかもですねえ。同じギルド内で他の男とも、沢山付き合ってたんですよ。隠しながら」


「真か!? 何という……」


「おまけに、金をそれぞれに無心してたんですよ。財布を落とした、と呼び出して、金を借りて返さないっていう……」


「最悪ではないか! 即刻捕え、縛り首にすべきだ! もしや、貴殿も貸したのか?」


「ええ、貸しましたよ」


「騙された、というわけか……」


「ええ、まあ騙されると半分ぐらい覚悟してましたけどね。その時は」


 俺の言葉に彼は眉を顰めた。


「何故だ? 騙されることが分かっていたのか? それなのに、金を貸したのか?」


「金を貸すときは返して貰えないつもりで貸せ、って誰か言ってましたけど、そんなもんだと思いますよ? それを借りる奴が言ったらあかんと思いますけど、俺はそのつもりで貸してますから」


「ううむ……だが、どうして?」


「金貸すときにもう『怪しいなあ』って思ってましたよ。交番に行ったかとかいくら入っていたとか、遺失物を届け出た時に貰う紙とか、割と俺根掘り葉掘り聞いてますからね、会った時に。かなりあいまいな答えでしたけど、貸したんですよ、一万円ほど」


「馬鹿ではないのか貴殿は!」


「でも、信じるしかないでしょう? 絶対返すっていう彼女の言葉なんて。それとも貴方はミリアルさんに貸してくれと言われたら、貸さないので?」


「貸すとも! 貸すが……彼女はそのような人物ではない!」


「それと同じですよ。貸すときはもう『信じて』渡すしかないんです。だけど、返せなかったからと言って俺は何も失いませんから」


「――どういう、意味だ?」


「一万円、まあそちらの金でいったらはした金ですよ? 僕が一日働いても作れるお金です。それすら返せない。貸した金を返せないということは、自分の価値をそれ以下だって言ってるのと同じです。自分の価値を自ら告白している人間に可哀そうだという感情は浮かんでも、怒りなんてでませんよ。たった一万円で、彼女は俺より下の、もっと下種な奴だって認めたんです。何も失ってなんかいませんよ。失ったのは、彼女です」


「……そのあと、そのおなごはどうなったのだ?」


「何かバレたのか、同棲相手に荷物ごと放り出されたみたいですよ? そのあと金も返さずいきなり音信不通で、半年ぐらいしたら電話が掛かってきましてね。『借りてたものを返したい』って」


「ほう、よかったではないか」


「全然よくないですよ? 貸してた本だけ返して、俺が冷たい態度だったから金はないからまた今度、って言って去っていきましたよ。……んで、別の騙してた男のところに転がり込んで「信じれるのは貴方しかいないの!」って言って同棲始めたところまでは知ってますが、そこから先は知りません。単に騙せるかどうか、金づるかどうかを吟味していただけでしょう」


 カミルは深緑の瞳に涙を溜め俺をジッと見つめ、そして、しっかりと両手で俺の手を握ってきた。


「友よ、そう、呼ばせてくれ。辛いことが、あったのだな……」


「カミルも辛かっただろう」



「ああ……!」


 俺たちは縁台で熱い抱擁をした。因みにBL展開はない。そういう趣味もない。これは俺たちの単なる男の琴線が触れ合っただけの話である。

ちなみに俺の知り合い(友人とは死んでも書いてやらん)に各方面から借金しまくったり借りパクしたまま姿を現さないでドロンしてる奴がいましてね。しかも偶然町であったら肩書が『経営コンサルタント』ですってよ奥様。いいですか、他人の金で勝負しているような奴を信用してはいけません。作者との約束ですよ!


というわけで来週へ続きます。多分この話次かその次には終わるかと。


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