水魔
今年もプール開きの時がやって来た。
最近、めっきり暑くなりプールの恋しい季節だ。
スク水の女子高生のまぶしい季節でもある。
(私は一応女子です)
しかし、プール開きと言えば去年トラウマになる出来事があった。
水魔であるみすずちゃんがプールを破壊した出来事だ。
水魔であるみすずちゃんは水を貯めている人工物、あるいは構造物を見ると破壊衝動が現れるらしい。
去年は担任である天使のかぐちゃんとみすずちゃんの人間同士では絶対にあり得ぬ対決を見た。
その内容はあまりにも壮絶で本当にトラウマになるほど、今でも思い出すと身震いするほどだ。
結局みすずちゃんは去年プールの授業に参加できず委員長と一緒に教室で自習することになった。
ちなみにみすずちゃんが興奮するのは人工物だけで自然の海や川、湖などは破壊衝動が起きません。
さて、今年のプールの授業はみすずちゃんは参加するそうです。
去年のようなことが起きないように担任のかぐちゃんが対策を立ててきたと言っていた。
まず、担任曰く基本的なことから。
みすずちゃんに対しては破壊衝動が起きないように一年間かけて治療してきたとか。
その上で今日は治療の最終日なんだとか。
それを私たちも体験できるとのこと。
一体何をするのかお楽しみだ。
担任のかぐちゃんはまず教室のカーテンを閉め始めた。
このカーテンは特注のもので一切光を通さないらしい。
そして次に委員長を教室の外に出した。
今からやることは液状生命体である委員長にはかなり体に負担があるということらしい。
ちなみに液状生命体は大量の水に弱い特性を持ちます。
これから教室に大量の水を入れるということなのか。
それでは普通の人間で有る私も困るのだが。
そうこうしていると担任が教室のあちらこちらを目張りしだした。
今からやることはどうやら光が大敵らしい。
そして全ての準備が終わったら担任のかぐちゃんが
「よ〜し、これで準備完了だ。
今からやることはお前たちにとってかなり貴重な体験だ。
水魔である水瀬 (みすずちゃん)にも大切なことだし、それ以外の生徒にもかなり貴重なことだ。
と言っても私自身初めての経験だからどうなるか分からないんだけどな。
今日は光風にも協力してもらう。
今から何が起きるかお楽しみに」
と言うとかなり不思議なことが私たちの身の回りで起き始めた。
ちなみに光風とは光風 灯ちゃんのことだ。
私たちの大切なクラスメートの1人だ。
そして光学生命体でもある。
光学生命体とは立体映像に命を宿したようなもの。
もちろん、私たちと同じように感情を共有できる貴重な友達の1人だ。
私たちは彼女をあかりちゃんと呼んでいる。
話を戻します。
私たちは不思議な出来事に驚愕した。
今まで真っ暗な教室だった場所が一瞬で深海の中になったのだ。
しかし、少しも息苦しくない。
どうやら私たちが見ている景色は大きな立体映像のようだ。
担任曰く魔界の海底なのだそうだ。
とても薄暗くそれでいて壮大な景色だ。
私たちはその景色にしばらく圧倒していた。
そしてしばらくしてあかりちゃんがいないことに気づいた。
担任は
「光風は今、景色に同化しているらしい。
ここまで来るのに大変だったんだぞ。
なにせ光風の知識の世界には人間界の情報しか入っていなかったんだ。
光風は人間界の生まれだからな。
だから魔界の情報を得るのが大変だったんだ。
まず魔界の情報へのアクセスがかなり面倒でその許可を得るのに何ヶ月もかかったんだ。
いろんな頭の固い上層部に直談判までしてな。
光風は卒業後、いろんな世界に行き来する必要性があるのだからその世界の情報を知るのは当然のことだと説得してやっと魔界の情報にアクセスできるようになったんだ。
そして今や人間界、魔界は当然として神界、天使界、妖怪界、獣人界、翼人界など10の世界にアクセスできるようになったんだ。
その分、彼女が帰る電脳世界は前に比べてかなりカオスな世界になったそうだが。
今回は水瀬の故郷でもある上位の水魔の世界だ。
この立体映像を得るのにかなり苦労した。
そして立体映像の容量から光風は自分の姿を映し出すどころかしゃべることも出来ないらしい。
まぁ、見守ってくれていると思って一緒に堪能しようや」
私たちは黙って心の中で頷いた。
担任は続けて
「実は水瀬が去年起こした破壊衝動はホームシックでもあるんだ。
つまり家に帰れない寂しさを紛らわすために破壊衝動が起きるらしい。
だから去年みたいなことにならないように故郷の映像を見せる必要性があったんだ。
逆効果ではないかと言う意見もあったが本人の同意の下、今回のことを行った。
ちゃんと水瀬の様子も見ている。
その様子を見ていると私もやった甲斐があったようだ。
みんなも魔界、しかも海底の奥深くになんかなかなか行けないだろう。
私も今回が初めての体験だ。
だいたい、上位の魔族の世界なんか普通に行けるところじゃない。
事実、私も行ったことがないのだから。
私も貴重な体験が出来たよ」
こうして私たちの不思議な体験が終わった。
特に感動的だったのがみすずちゃんが泣いて担任のかぐちゃんにお礼を言っていたことだ。
私もその様子を見て不覚にももらい泣きしてしまった。
そして、プール開きは明日とのこと、明日からのプールが楽しみです。




