すずちゃん〜人形族(後編)〜
「私たちも彼女がどうやって私たちの世界に来たのか分かりません。」
そうことねちゃんは語り始めた。
ここまで、ことねちゃんときららちゃんがいた世界を聞いてきた。
しかし、すずちゃんは彼女たちと同じ人形族ではない。
なぜりかちゃんは人形族と一緒の世界で育ってきたのだろうか。
私は知りたかった。
そのわけをことねちゃんが語り出したのだ。
「彼女 (すずちゃん)がどうやって来たのかは分かりません。
気がつくと私たちの世界にいました。
私たちの世界に来た時の彼女は赤ん坊でした。
私たちは赤ん坊という物自体が分かりませんでした。
私たちは生まれたときにすでに自我を持っているからです。
そして、最初から生きる術を持っています。
しかし、彼女は私たちが発見したときとてもか弱く自我も持っていませんでした。
彼女は恐らく人間だろうと私たちは思いました。
でも私たちは彼女をどうしたらいいか分かりません。
かといって見殺しにするわけにもいきません。
私たちは彼女を保護することにしました。」
と、ことねちゃんは一息ついた。
ことねちゃんは一呼吸置いてからまた語り始めた。
「彼女を保護することが決まったのですが、私たちは人間というものが分かりません。
私たちはいろんな文献を漁り、いろんな専門家の所へ行きました。
私たちが一番困ったのは食事です。
私たちは飲食はしません。
なので、彼女に何を食べさせたらいいのか分からなかったのです。
しかし、どこかから彼女の育て方の指南書や食料などが定期的に届くようになりました。
それも1ヶ月おきに。
私たちはそれに従って彼女を育て上げました。
そして彼女は順調に成長し、学校に通えるところまで育ちました。
しかし、ここからが大変でした。
学校に通う前まではトイレはなんとかなりましたが、学校にはトイレがありません。
彼女のために慌てて学校内にトイレを増設しました。
私たちの学校では給食というものが無かったので、彼女だけ好きな時間に食べられるように工夫しました。
それ以外は人形族としての教育を受けてきました。
今でも彼女のアイデンティティは人形族だと思います。
だから、この学校に入学しても人形族として振る舞ったことは当然のことです。
結局はばれてしまいましたが。」
ことねちゃんは悲しそうなため息をついた。
ことねちゃんが一通り話し終わったので私が疑問に思っていることをぶつけた。
それはりかちゃんの体力のことです。
彼女は人間だとのことですが、あまりにも人間離れしている。
なにしろ、ハンドボールを10キロメートルも投げれる人間などいない。
そのことをことねちゃんに聞いてみた。
ことねちゃんは
「それは私も驚きました。
彼女は人形族の中でも体力はずば抜けていました。
私たちは人間とはこういうものだと思いました。
しかし、人間界のことを知れば知るほど疑問符が付きます。
人間とは私たちと比べるとかなりか弱い存在。
彼女とは合致しません。
恐らく人間とは違う種族だと思います。
だいたい、この学校に来るまで人形族と人間以外の種族を知らなかったのです。
しかし、今となっては彼女の種族について手がかりがありません。
これ以上私たちは彼女について知らないのです。」
ことねちゃんは言い終わった。
すると、部屋の奥から
「まだ、話は終わらないの?」
という声が聞こえてきた。
声の主はすずちゃんそのもの。
ことねちゃんたちはすずちゃんに対しては出自を話していないのだそうだ。
時期が来たら話すとも言っていた。
今は時期尚早だそうだ。
だから今までの話はりかちゃんには内緒だ。
すずちゃんは年齢に反してかなり幼く見える。
ことねちゃんやきららちゃんは私の目から見れば王子と姫。
この3人は仲睦まじい親子に見えた。
少なくとも私にはそう見えた。
これからもいろんな種族の人たちとの交流がしたいなと私は心に思った。




